風は・・・・
冷たくはない。
涼しい、か。
飛空艇に乗っている時にそう感じた。
アバラシア雲海と言われる場所に立ち。
少しの郷愁をおぼえるも・・
綿の胴着の上に甲冑。
完全武装とも言える女性は、後ろの3人をどうしたものかと・・・
まずは一人。
いきなり飛ばされた異世界での、初めての知人、いや、友人。
ケンカっぱやいのに、ちゃんとした理屈で動いている。
「拳聖」
の名は伊達ではないよう。(あー、わたしも・・)とか思いたくなる彼女は、結構年下だと知り、凹んでいる。
次。
ミコッテの青年。
なんというか。つかみどころがない・・・
いきなり声をかけられて。
成り行きまかせもいいトコで、一緒に居る。
ただ、悪気は無いのだろうが、妙に馴れ馴れしい。
自分としては、少し困る。
で。だ。
最後の一人。
漆黒の青年。眼だけが金色をしていて、少し怖い。
アウラ、という種族らしいが・・・
竜の血でも引いているのだろうか?
硬質な皮膚(ウロコ?)に、角。そして、尻尾。
肌の色も漆黒で(故郷では滅多にみない)、装備までもが漆黒。
加えて、装備が銃。
先日の酒場での事件は、この男性が「やらかした」らしい・・・
が、元はといえば、ミコッテの青年が、とも。
なんとも、行き先が不透明な「おつかい」になってしまった。
アイリーンは、愛剣の柄をとんとん、と叩き、どうでもいい?部分は忘れるよう努力を。
「んでな?」
エレディタは、先を行く相棒を見やりながら・・・
あの子は、人との接点が上手くつかめへん、やなあ。などと、隣の騒音に怒鳴りつけたくなる。
ひょんなことから組んだptではあるけれど。
どうにも、この二人は胡散臭い。
だが、腕前は間違いなさそうだし、利用出来る部分はあるだろう。
そして、問いかけに。
「どうかしたか?」
漆黒の青年。
「いや・・・そっちの、お坊ちゃま。大丈夫なんか?」
「ああ・・・見た限りでは、どうしようもないが、意外と使える。」
「ああ、そうなん?(じゃあ、アンタは?)」
「俺は見ての通り、さ。」 銃を構え、 ばん。
彼方で落ちていく・・・
その影を見ながら、「容赦が無い、ってのはわかったわ。うちらも似たようなモンやけどな。」
「そうだろうね。拳聖。」
「!?」
「そして、異邦人、か。面白い組み合わせだ。な?」
「なんのこと?」
とぼけてみたが、やはりムリだろう・・・かの「黒猫」ならば。
「先程、共闘と言っただろう?君達に不利になるようなことはしない、と約束しよう。が、逆に、不意打ちみたいな真似はしてほしくない。お互いに。で、いいな?」
「・・・ええやろ。黒猫。」
「それは正しくない呼び名、だよ。レディ。」
「違うんかい?」
「俺は、アリア、だ。」
「クォ・シュバルツ、じゃないとでも?」
「・・・・・・・この話は、もう少し後だ。」
「う~ん。あったかいなあ。」
エレン・ローウェルは、陽だまりを見つけて、寝転がる寸前で漆黒の銃士に蹶りをもらっていた。
飛空艇の到着場所、ランディングから少し。
高低差のある場所で、少し足元が落ち着かないが、アイリーンは、ともかく「司令」に会いに行こうと。
「ここ、すごく足元きついですね・・」
重甲冑に、荷物を背負って、となると大変なのは知ってはいるが・・
この、網だの、階段だのを行ったり来たりは・・・流石に辛い。
「リンちゃん、転げ落ちんといてや?巻き込まれたら、大惨事やで?」と笑いながら、エレディタ。
もちろん、転げ落ちる、なんて大失態はしない自信はあるけれど・・。
ちょっとした櫓をのぼると、女性があれこれ指示を出している。
(この人?)と声をかけてみる。
「あの・・、ここの責任者、の方・・・ですよね・・?」
頑張った・・・あたし。
帰って来た言葉は。
「誰? あー、冒険者さん?ちょっと今忙しいの。それと、挨拶するときは、自分から名乗りなさい。私は騎士叙勲はまだだけど、そのくらいのマナーは知っていてよ?」
「あ、すみません。アイリーン、といいます。」お辞儀を。
「あ、そう。じゃ。」
そっけなく突き放す女性に、ちょっとだけ。
「名乗ったんです。せめて、お名前だけでも聞かせていただけませんか?」
噛みつく。
「・・・マリエル、よ。」
冷たい返答と、遠眼鏡。
コレで終わり、とばかりの対応。
「ちょい、待ちいな。ねーちゃん。」
自分とさほど変わらないほどの年齢の女性に、拳聖がさらに噛みつく。
「うちらは、フォルタン伯爵のトコから来たんや。そないに無下にしたらまずいんちゃうか?」
「・・・」少しの沈黙。
「エマネラン卿、でしょうか?」
マリエルの言葉は冷えきっている。
「え?そうなの?」と、いきなり割り込んでくるミコッテの青年。
その脇で「くだらん。」と漆黒の青年。
「いやまあ、そうなんだけど。一応、依頼ということで・・・いいですか?」
アイリーンはなんとも気まずそうに。
「で?」
冷たい声。
「視察、という話なんやけどなあ。もうちょっと愛想ようできひんか?」
「騎士団に必要ありません。」そっけない答え。
「まあ、ええけど・・。そういえば、ここってなんて名前やっけ?」
「! そんなことも知らないで来たのですか?・・・・呆れて物も言えないわ・・。」
「あ、すみません。」
「あ、そうだね。たしかクラウド・トップだっけ?」
「・・・くだらん。」
「礼儀をわきまえている御仁が居てなによりだ。」ふぅ。「視察というなら、ギルドンを尋ねるといい。雲海の視察は彼が一番便利・・いや、頼りにしているし。」
「は~い、行ってきます!」駆け出していくミコッテの青年。
「あ・・・、彼が何処にいるか、わかっていないわよね?」
マリエルはこめかみを押さえる。
「あの、冒険者って皆こうなの?」
「いや、アレはよう知らんけど、まあ、そういうヤツなんやろうなあ。」
「大丈夫なんでしょうか?」
「とりあえず、そのギルドンとやらの場所を教えてくれないか?」
建設的な意見に皆が頷く。一人を除いて。
「あいつ、放っておいてええんか?」「彼、大丈夫かしら?」「ああ・・・気にしないほうがいい。」
3人は揃って物見櫓に。
そこには、望遠鏡を片手に雲海を見張っている?男性。
「あー、ちょっとええか?」
エレディタの声に。
「なんであ~る?」
「いえ、その・・」「リンちゃん、さくっといこうや。」「・・・だな。」
「なんであ~る?」
「視察、ということで来たのですけど。」
「おお、そうであ~るか。その前に、お腹がすいたのであ~る。自分はここから離れられないゆえ、お弁当を持ってきてほしいのであ~る。」
(なあ?殺していいか?)(ヤメなさい。)(テメエをこの雲海に突き落とすって手もあるけどな?)
「仕方ない、取りに行ってくるわ。ついでに、暴走の彼も。」
「ああ、頼む。」「コイツは見張っておくから。」
アイリーンは、農園?にほど近い場所まで。
そこで・・・。
「なに・・・?コレ・・・」
浮遊島に浮かぶ、見たこともない巨大な船。
お使いも忘れて、見入ってしまう。
「おや、お嬢さん。どうかしたかい?」
振り返ると、銀髪に、ヒゲにゴーグルという人物。
「え?いえ。その・・大きな船ですね。」
「ああ。プロテクトゥール号、だ。ああ。自己紹介がまだだったな。俺はシド、だ。」
「(シド!?) ああ、はい、こちらこそ。わたしはアイリーン、といいます。」
(シド・・・こちらにもいるのね・・)
「このじゃじゃ馬の担当を任されてね。」
「そうでしたか。」
少し、表情に出たのかも。
「ん?」
「いえ、知人に同じ名前の人が・・」
「ああ?そうか。それほど珍しい名前じゃない、と思うよ。この船に興味が?」
「あ、いえ。用事の途中だったもので。 失礼します。」
「ああ。ごきげんよう。」
驚きの連続、とはこの事か。
なにはともあれ、「お弁当」と、ミコッテの彼を探さなくては。
しばし、うろついた後、彼(と、お弁当)を発見する(お弁当を食べていた。)
「なあ。あんた。」
エレディタは、声を潜めながら。
「なんだ?」
応える黒い青年。
「うちの予想が正しかったら、やけど。」
「だから?」
「黒猫。」
「ほう?」
「じゃないやろ?」
「どうしてかな?」
「コロセウムで見た、黒猫とは、「気」が違う。」
「これはまた、懐かしい話じゃないか?」
「アリア、って言う名前は偽名なのは承知やけどな。」
「それで?」
「どういう了見でこっちに?」
「それは、お互い様、だろう?」
「意味がわからん。うちらは、旅の途上や。なんでとしか言いようがあらへん。」
「なるほど。君たちはそこに意味を見出そうと、というんだね?」
「ほんで?」
「俺は、いや、私は、主のために潜入捜査、とでもいうのかな?この地域での需要を探っている。」
・・・・・・・・・・
「あんた、誰や?」
「答える必要は無いが、その洞察力に敬意を評して、改めて名乗らせていただこう。」
一瞬の緊張。
「私は、アドルフォ。クォ様の忠実な執事であり、替え玉としてこの場にいる。」
「銃で殺害、とか、お前っ!」
「必要、と判断したまで。」
「信用ならへんな、このptは解散させてもらうで?」
「いや、私の素性を知らしめた以上、そうそう簡単には離れてもらっては困ります。」
パチン。
指の音と同時に、小さな機械?が放り投げられる。
「な!?」
「コレは、オートタレット、と言います。」
「・・・」
「貴女は、ターゲットとして認識されました。逃れる術は、私を殺す以外にありません。」
「く・・・!」
「さて、交渉再開いたしましょう。私の素性は、この地ではさほど価値のある情報ではありません。脅しに使うには、いささか物足りないのです。」
「ほんで?」
「翻って、貴女はフォルタン伯の依頼だそうで?」
「何が言いたいんや?」
「もちろん、イシュガルド貴族のコネですよ。」
「交渉、というからには、対等な条件があるやろ?」
「そうですね。私は全力で貴女達を支援する。まあ、例の彼は手綱が取れないのでなんともいえませんが。」
「・・・信用は出来ひん。」
「そうですか。では、お連れの女性が銃撃された、としても「不幸な事故」でかまいませんね?」
「テメエ!!!!」
「信用して頂くしかありませんし、我が主も穏便に済ませたいのです。」
「この野郎・・・」
「では、交渉はこれにて終了でよろしいですね?」
「くそったれ!」
「なあ、ギルドンのおっさん?」
監視役のオジサンに。
「ああ?」
「ここで釣りしてて思うんだけどさ?」
ララフェルの青年?
「雲海って、魚釣れるって、やっぱ連中は泳いでるんだなあ。」
「今更じゃないか?」
「そうだなあ。でっかい白いのもたまに見かけるからさ。」
「あれは、・・蛮神だ。」
「そうなのかよ?コレは参った。俺、見ちまったよ。」
「それは災難だ。」
二人の冒険者の会話には気が付かずに、二人は話し込んでいる。