爽やかすぎる風に、青空。
雲海、とは名ばかりだと言わんばかりの蒼天。
そこに。
ばこッ!
軽快な音が響く。
「あいててて・・・?あれ?お姉さん?」
ピンク色の髪と尻尾を持つ青年は、草原でお弁当を楽しんでいたのだが。
そのすぐヨコに、漆黒の甲冑姿の女性。
長い黒髪を一つにまとめ、細面のヒューランはエキゾチックな雰囲気と共に、若干の殺気をまとわせている。
「何をしているんです?」
ミコッテの青年に問い詰める。
白い法衣に身を包む青年、エレン・ローウェルは、ただ・・
「いや、いい天気だし、お弁当が美味しいよね?」
・・・・(どうしよう?この人・・・)アイリーンは、もう。
「それは、依頼で・・うぅ・・頼まれたモノでしょう!?なんで食べてるのっ!」
「へ?」
きょとん、とした顔で返される。
「さっき、お弁当持ってきて、って言われたでしょう?」
「ああ!」ぽん。と手を打つ。
「そうだね。食べてる場合じゃなかったよ。」
「いや、そういう問題?」正直、怒鳴りたくなってきた。
「まあまあ・・」
すると、青年は同じ包袋を取り出す。
「このお弁当ね、余ったから食べていいよって、おばちゃんからもらったんだ。だから、届けるのはコッチだね。うん。」
食べかけの弁当を包み直し、「じゃあ、行こう。」と朗らかに。
・・・・(なに、この子・・)
アイリーンは、とりあえず危機は脱したと判断。まず、合流と依頼の達成をしなければ。
微かに目眩もするが、この地、この世界で頼りになるのは、相棒の拳聖。彼女にとりあえず判断を仰がなければ。
「おーう。コレであ~る。」
ギルドン氏は、包みを受け取ると、早速食事にとりかかるようだ。それはそれで図太いな、とは思うものの、エレディタとしては(懐柔しやすい)と見て取った。
「ギルドンさん?」
「な・・ン。」ごくん「で、」むぐ「あ~る・」ぷふっ「か?」
(それこそ、コッチのセリフやんけ。)とは表情にすら浮かべずに。
「ここの隊長さん?今はどちらに?」
「おお。ラニエット騎兵長なら、巡回してる時間であ~る。何か用事があったので?」
「騎兵長?」
「そうであ~る。」
(さっきのマリエル、って子の話じゃ、「騎士」だったんじゃ?)
「そう。おおきに。ほなら、また。」
「みんな、ほな、行こか。」
エレディタは、もやもやしながらも、物見櫓から降りていく。
「エリ?」と後ろから声が掛かるも、今は返事がやりにくい。
(ごめんやで・・)
イシュガルドのような城塞でもない、このキャンプ・クラウド・トップは。
ハリボテのような印象を受けて・・・
エレディタは、此処が重要な拠点とは思えなくなっている。
そこに。
「ねえ、エリ?」
「ん?なんや?」
「実はね。さっきランディングがあった場所で、シドって人に会ったの。」
「シド!?」
「あ、知ってる?」
「知ってるも何も・・話すと長いけど、うちらの同志ってところや。」
「え!?そうなの?」
「ああ。せやけど・・ランディングって、さっきの場所やろ?反対側の。」
「あ。うん・・・」頬を少し紅潮させている・・・つまりは、迷ってソッチに行ったのだろう。
ソコはツッコミはなしやな。 微笑む。
「ほうか、あのオッサン、こんなところまで来とるんか。」
「色々とあったみたいね。」
「まあな。」
さてと。
おそらくは、そば耳立てていた青年を事さらに無視して、話を続ける。
「まずは、その隊長さんが戻ってくるまで、うちらもご飯にしようや。」
振り返りざま、漆黒の青年にウインクする。
「そうね。お腹が空いてくる時間だもんね。じゃあ、さっきのお弁当作ってる小母さんのトコ行こう。」
「おう。」
穏やかな日差しとそよ風の中。
4人で食事を終え、今後の相談でもしようという流れに。(話を持ちだしたのは、アリアだが・・)
その最中に、少し賑わいが。
「お?隊長殿の帰還かいな?」「でしょうね・・・」「わあ!美人さんだといいな!」「黙れ。」
「この子を厩舎へ。隊員は各自休息しろ。・・・なんだと?」
白い羽毛の鷲頭を持つ、4足の幻獣を部下に任せ・・
こちらに視線が向いたのを悟ると、片付けはそっちのけで、居住まいを正す3人。
「貴卿らは?」
濃い赤毛に、青い目が印象的なエレゼンの女性。
「私は、イシュガルド正教国の使徒、ラニエット。薔薇騎兵団、団長。ここ、キャンプ・クラウド・トップの指揮官である。」騎士の礼を。
「うちは。拳聖、エレディタ。」
「あ、あたしは・・アイリーン、です。」
「俺はアリア。」
「え?と?」
「コイツは、エレンだ。気にするな。」
「ふむ?私に何か用なのか?見たところ、冒険者のようだが。」
鎖鎧に身を包んだ彼女からすれば、確かに珍妙な風体の輩に見えるだろう。
そこで・・
「うちらは、お使い、や。」書状を取り出す。
それを見た瞬間、ラニエットは引きつった笑顔で「それは?」と聞いてきた。
「フォルタン伯からの書状や。ちゃんと「印」があるやろ?」
確かに、蜜蝋で封をした場所にフォルタン家の家紋が付いている。
「そ、そうか。いや、わざわざすまない。礼をさせていただこう。どうぞ、こちらへ。」
少し引きつった笑みだったが、エレディタとアイリーンは、さもありなん、とばかりに・・
前線、といいながら、質素な佇まいの「本館」にて・・
「いや、済まない。ところで、この書状は・・」
「はい、例のお坊ちゃまからやで?」
「だろうな。」
そう言うや、封も切らずにクズ籠に。
「ここ、ローズハウス・・は。ああ、薔薇騎兵団にちなんでな。で、用件はそれだけか?」
「・・・まあ、そうや、って言うたらそうなんやけど?」
「ご足労だったな。では、イシュガルドに帰還したまえ。」
「なんや、つれへんな?」(ちょっと!エリ?)
「せっかくなんやし、ちとこの辺うろつかせてんか?」
「どうして?」
「冒険者の性、ってヤツ?」
「ほう。」
「ああ。俺からもいいか?」
「どうかしたか?」隊長の声は硬い。
「何故、騎士団ではなく、騎兵団なんだ?」
「!」一瞬、激昂しかけたラニエットだが・・・
「痛いところを突いてくれるな。いいだろう。」
「なんや?言いたくなかったら、うちはかまへんで?この黒いのは無視しといてんか。」
「いや。これは・・・そうだな。」遠い眼をする騎兵団長。
「独り言だ。」
「我が、アインハルト家は八家の一つだが・・・先の大戦で、芳しくない戦果だった。」
「四家は、それなりの成果をあげていた。」
「が、我が家は・・功を焦ったのか・・兄上は、単騎で先陣を駆け・・・討ち死にをしたのだ。」
「私は、まだ騎士叙勲を受けていない身で、ただただ、兄の死を悼むだけ。」
「そして、騎士叙勲を晴れて受けれた時は、それはそれは・・満足したものだ。兄の仇を、汚名を晴らす時が来た。」
「が。」
「配属された場所は、ここ、アバラシア雲海。 竜の目撃など、過去に一度も無い。」
「ただ、要衝、と言われれば。さらに、大型飛空戦艦の建造までされては、防備が手薄だと、どうにもならない。」
「故に、この地で・・・・」
後半は・・・すすり泣きとも思える声で・・・
「騎士団すら任せてもらえないのだ。」と締めくくった。
鎮痛な静寂。
「ほうか。いらんこと聞いて悪かったわ。」
「気にするな。ただの独り言だ。」
「・・・その・・」
「たまには、ガスを抜かないと、私が破裂しそうになる。」
「では、団長殿。いいかな?」
「どうした?これ以上聞きたいことが?」
「ああ。興味のある話題が一つ。」
「なんだ?」
「物見のギルドンってヤツがいるだろう?」
「ああ。彼はいつも望遠鏡を持っているが、竜を目撃した、なんて一度も・・」
「ああ。ソイツのヨコに居たララフェルの釣り師がな。」
「うん?話がみえないぞ?」
「雲海に、白い巨体を見た、とか言ってたぞ?」
「!? なんだと!」
「ねえ?アリア?それって、美味しそう?」
「黙ってろ。 失礼。もしかして、蛮神の類じゃないのか?」
一同、沈黙・・・
「アリア、と言ったか。卿は、蛮神には詳しいのか?」
「それなりに。そして、そこのお嬢さん方の方が、よっぽど詳しいと思うよ。」
「・・・アリア?」「え?え?」女性二人がいきなりの振りに驚く。
「なるほど。いいだろう。」
赤毛の女騎士は、一つ頷くと「この地域での探索の自由を許可する。」
「あの?」
エレディタは・・・疑問を。
「この辺りに、竜は出ない。」
女騎士は苦虫を噛み潰した表情で。
「この辺りは、長年に渡り監視を続けてきたが、竜を一度足りとも観測していない。」
「それは・・」アイリーンが疑問を引き継ぐ。「ならば何故に、駐屯されているのです?」
ラニエットは、皮肉を込めて「体のいい、閑職だよ。・・・我が家は、家督を継ぐ騎士、兄が。クロードバン兄様がいた。 しかし、先の戦で戦死してしまった・・・」
「・・・・。」
「その死に様が、騎士としてふさわしくない、などと言われ・・兄様は、高潔な騎士だった。その汚名を、雪辱を・・」
「・・・そうでしたか。」アイリーンは優しげに声を掛ける。
つまり、左遷されるに値する、という処分を甘んじて受けて、雪辱を晴らそう、というのだ。
「これは、私の事柄ゆえ。気しないでいただきたい。」
「いや、色々と突っ込んだ事聞いてわるかったわ、騎士殿。うちらに出来ることはあるんか?」
「そうだな。まずは、この地域の特性を知ってもらうのがいいだろう。それと、農作物を荒らす獣の類が最近の懸念でね。
できれば、駆除してほしい・・・我ら、騎兵団は・・名目上、竜の侵攻の監視なので、ね。部下も、騎士の誇りを捨てきれない者もいる。
まあ、最後の意地なのかもしれない。頼まれてくれるか?」
「いいでしょう!」アイリーンは即答。
「しゃあないなあ。」継いでエレディタ。
「レディの我儘に付き合うのも紳士の嗜み、ですかね?」アリアが肩をすくめる。
「え?冒険?やっほー!」明るい声はエレン。
皆そろっての賛成に、ラニエットは「感謝する。」騎士の礼で送り出す。
「さて、諸君。」切り出したのは漆黒の青年。
「なんや?」拳聖は訝しげに。
「まずは、彼女の依頼をこなすとしよう。」
「へ?真面目?」
「蛮神の情報なぞ、そうそう手早く入るものでもないだろう?それよりも、彼女の信頼を得る方が得策じゃないかね?」
「・・・マトモな事言えるんやな?」
4人は、農作物の害獣駆除に・・・
「わあ!なにこれ?ネコが飛んでるよ!」
「この鳥、ドードーじゃないんですか?」
二人はワイワイと見物しながらだが、意外と手強い。
「おい!防御術式くらいかけとけ!」
「りんちゃん、もうちょっと惹きつけて?」
残る二人は指示に追われつつ・・・
「そうか。ご苦労だった。報酬はギルと、コレだ。」
ラニエットは、淡い緑色のクリスタルのようなものを。
「それは?」アリアが神妙な顔つきで。
「これは、クリスタルではない。風脈という。」
「へぇ?なんなんや?」エレディタも興味津々。
「これは、雲海や、クルザス地方にある、言ってみれば風の塊、その結晶化したものだ。」
「それで?」アイリーンも不思議そうな顔で。
「これを探して行くと、この地域ならではの体験ができるだろう。」
「ふ~ん?」?マークを浮かべるエレン。
「風脈を知ることは、この地域では必須でね。貴卿らも、そのうちわかるだろう。」
「さてと。とりあえずは、帰ろうか。」
「そうね。」
「異議はない。」
「え?もう?」
飛空艇に乗り、フォルシュタン伯邸に向かう・・・