「母さん?」
マユは、パールからの伝心に疑問符の意思を付け加えた。
今は夕食のための買い出しの途中。娘を伴い、「何がいい?」とか言いながら。
「そっち今、ターシャいる?」
居るにはいるが、なんで今頃。
「いるけど。どうしたの?」
「あー、今忙しいの?」
母の思念に「夕飯の買い出ししてるとこ。どうせ母さん、またどこかに飲みに行ってるんでしょ?大した用事じゃなけりゃ、今日はここまで。」と、伝心を切ろうとして
「おっと。マユ。言うようになったじゃあ、ない?」
「はい?」
「こちらは、某大企業さんと会談中。」
言葉に詰まる。確かに、母はあちらこちらのトップと顔を繋いでいる。今のセリフが冗談ではない事も確かにある。
「誰?」
「アリティア産業のナンバー2」
「ぶ!」
ナンバー2といえば、あのミコッテの女性騎士か。むしろ、社長を尻に敷いていると噂まである・・
マユは夕飯のオカズ選びよりも、そっちの厄介事を迅速、かつ、平穏に終わらせたいとおもい
「で?なんの用?」声に出せば、極低温であろう伝心を。
「あー。簡単な話。ターシャって、伝心できたよね?」
「・・・うん。」
「代わって。それだけ。」
「は?」
「その子の一言で、ちょっとした儲けができるんだ。いい話じゃないか?」
「またぞろ、ヘンな動きしてんのね・・そんなに暇なら、父さんトコ、手伝いなよ・・・」
「あたしが行っても、自慢じゃないけど邪魔だからさ。せめて、こうやって出稼ぎしてるんだよ?」
「ものは言いようね・・わかったわ。ターシャに替わるから。」
「お前も元気で。」「言われなくっても。」
親子の会話から、祖母、孫の会話に。
「ばーば?」「や!ターシャ。元気?」
取り留めのない挨拶がしばらく。
「でね、ターシャ。」本題。
「ミコッテさんたちのシッポのこと「モフモフ!」っていってたでしょう?」
「うん!モフモフ!」
「もう一つ、かわいいの、おもいつかないかなあ?」
「うーん。」
しばらく待つ。
「もふにゃあ!」
「もふにゃあ、?」
「うん。だって、にぎったらみんな、にゃあ!っていうもの。」
「そっか、ありがと。パールはママにかえしておいてね。」
「うん。」
「ありがと、ターシャ。じゃ、またね。」
「うんばーば。おつか・・ん?おやすみ。」
「ああ。おやすみ。」
「マユ。悪かったね。まあ、なんていうか、問題解決の糸口にはなったわ。」
「あーそう。この子、なんか「もふにゃあ!」っていきなり叫んだから、何かとおもったわ。」
「あ、あはは。ま、そーいうわけだから。じゃあねー」プツ。
あのやろ、ホント好き勝手なんだから・・・
二人はワインのボトルを飲み干し(ほとんどが魔女だが)さらにおかわり、自分も極盛りパフェをなんとか食べきった後の、3杯めのお茶。
セネリオは、目の前の魔女が愉快にパールを片手で弄びながら、娘、いや?孫娘?とやり取りをしているのを眺め。
「まったく。こいつらの家系にだけは、名を連ねたくないわね。」スウェシーナがワインの最後の一滴を飲み干し、
次はどうしようかと悩んだ挙句「ブランデー。」と言い切った。
そして。
「おい、セネリオ。」
伝心が終わったのだろう、ポケットに放り込んだパールを見て。
「なにか、いい案が出ましたか?」
「いい案かどうかは、あたしじゃどうもな。」あははははは!と豪快に笑い、ワインを飲む。
「その?」恐る恐る・・
「いや、これは、正直な話。採用するかどうかは、ソッチ次第だ。もちろん、相談料を払え、なんて事はナシだ。あたしが勝手に聞いたんだからな。」
「ご厚意、感謝します。」
「で、だ。」
「はい。」
「孫娘の提案は「もふにゃあ!」だそうだ。」ここで、鬼哭隊隊長も吹き出す。
「なにそれっ!」と、セネリオまでお茶を吹き出し。
大笑いしながら、魔女は「お前んとこの社長も、うちの孫娘とそう変わらないメンタリティーだった、って事だな。
でも逆に、この名前なら、社長の機嫌も損ねず、ちゃんと新しいネーミングを、で格好はつくんじゃないの?」ぷぷぷ。
「コレを私が考案したと・・・?」
「改善、でいいんじゃない?ものは言い様よ。代案が無いと困るんでしょ?それに社長さんとちょこっとでも似たプランなら、文句の出処も難しいんじゃない?」
さすが魔女。
「なるほど。ご教授、感謝します。では。」「ああ。」「がんばってねー!」
二人の女傑から見送りを受け。
「ただいま戻った。」「お帰りなさい、セネリオ秘書。」受付嬢が「社長がお待ちですよ。」
「ああ。すぐ行く。」
社長室にノックして入る「何か?」
「あーせんちゃん・・書類がまた増えた・・・」
「その程度でブツクサ言わないでください。選別は私がやるのですし、ただのスタンプ押すだけが仕事なんですから。・・・黙ってスタンプ押してろ。」
「時にせんちゃん?」「はい?」
「例の件、やっぱダメ?」「代案、を用意しました。」
「え!そうなの!?」「はい。」
「え、聞かせて!」「はい・・・少しお待ちください・・ん・・わかった。第一倉庫、及び、第二倉庫の使えるものは、至急ウルダハ便に積め。
第三倉庫は、レイに一応の許可を取れ。今日は凪だったから、少し遅れるかもしれん。明日の一便で届けるようにしろ。深夜便は避けるように。
海賊対策ができていない。・・・・失礼しました。」
一礼し「その・・」少し頬を染め
「うん。」社長は、ニコニコと。
「 「もふにゃあ!」、でいかがでしょう?」顔が蒸気で吹き上がりそうだ。礼のポーズで、顔を伏せていないと、多分倒れる。そして、すでに倒れかけている。
「あはははははははははは!コレ、せんちゃん考えたの?スゴイ!まさか、こんなセンスあったのね!」
大爆笑の社長。愛刀デュランダル(またの名をクルタナ)があれば、抜刀しかねない程顔を赤らめる。
「冗談よ。例の子でしょ?そこに話を持っていったのは、あなたの才覚。いいんじゃない?」
「・・・はい、ありがとうございます。」なんとかクールダウンする。
「じゃ、これで承認、っと。」ハンコを押す。
「ふう。」なんとか一段落、というところか。問題は・・
このあと、シッポのサンプルとして、身を投じねばならない、ということ。そして、その悪魔の手先は、先ほどの「魔女の血統」
気が滅入る中、やはり勤務中でもワインやブランデーくらいは飲んでおくべきだった、と。
セネリオは、珍しくボヤいてみた。