バタン。
オフィスのドアを閉めて、はぁ、と一息。
そろそろ、午後のお茶の時間だろうか。
オフィスの窓からの日差しが柔らかかった。
ついでに、お腹の方からも「足りない!」と訴えてくる。そういえば、昼食も取らずに仕事に没頭していた上に、戯言まで聞かされて。
ああ、またイラっとしてきた・・・
アリティア産業、本社屋から出る時に受付嬢が「セネリオ秘書、お出かけですか?」
「ああ。ちょっと外の空気を吸いに。それと、昼休憩がまだだった。もし緊急の案件があれば、社用パールで呼び出してくれ。」微笑みながら手を振る。
「いってらっしゃいませ。」お辞儀をする受付嬢。
「今日は凪(なぎ)か。珍しいな。」
いつもなら、潮風が心地いいリムサ・ロミンサの港街。
たまには、こういう無風の時もある。しかし、どちらかといえば潮風に当たって、クールダウンしたかったところだが。
興奮したせいで、体温があがっているのか、少し暑い。
ジャケットを脱ぎ、左手に持つとビスマルクへと向かう。
普段からこんな贅沢はしないのだが、なんか今日は「やってられん!」と心の中で、自分に少しの贅沢をしてもいいだろう、なんて。
小さな溜息と共に簡易エーテライトを使ってビスマルクの近くに行き、給仕に「一人」と告げる。
案内された小さなテーブルに腰掛けようとした瞬間。
「お!セネリオちゃん!」と聴き慣れてしまった声が。
イヤな予感がして、そちらを向くと・・・
「よっ!」
グレイの髪を後ろに束ねた、年齢不詳の美女と、栗色の髪を少し伸ばしたおとなしめの女性。
「あ。」
立ち上がり、礼を。
「レティシア殿、スウェシーナ殿。久かた振りです。こんにちは。」
「カタイ事言うなよ。」「久しぶりね。セネリオさん。」
「レティ!」「んだよ、いいじゃない。」(あいかわらずだ・・この二人は・・)
「こんな昼下がりから昼食?いそがしそうじゃない。」
「え、いや、その。休憩とお茶を。」尻尾が少し揺れる。
「こら、レティ。そんな詮索しなくっていいの!」
「そうかい?」ひょい、とチーズを口に放り込んだ魔女は「お腹が鳴ってるんじゃないの?」
「レティ!セネリオさん、ごめんなさいね。」なんとか怒りを収め、笑顔でスウェシーナ。
「あ、いえ。大丈夫です。心遣いありがと・・」 ぐぅ・・
体は正直だ。
「な?こっち来いよ。なんだかモメたんだろ?話くらい聞いてあげるよ。」「もう!」
魔女の誘惑に・・・抗えないかもしれない。この、悶々とした今の感情を吐露してしまいたい。そして、叶うならば、解決策も。
「はい。よろしいですか?」相席をお願いする。
「ま、座りな。」席を引いてくれる。
給仕を呼びつけ、「この子に、スペシャルなデザートと、お茶。ブランデー入り。」
「へ!?お酒?」
「酔っ払うほど入ってないって。それと、注文はあたしがしたんだ。気にせず食べな。」
「・・・いただきます。」
一人で食べきれるのかわからないボリュームのパフェが出てきて、目の前がクラっとしたが、セネリオはなんとか半分まで平らげ。
「あのさ。何をそんなに思い悩んでる?」魔女からの一言に。
クリームまみれの口をなんとか動かし・・「例の娯楽施設での件でふね。」
「ほう?上手くいってないのか?」
「ね、レティ?それって、ザナラーンに建設してる「何か?」なの?」
「スゥ、お前、田舎に引っ込んでばっかりだから、こういう情報に疎いんだよ。」
「グリダニアは田舎じゃない!」
「まあ、まあ、お二人共。」器用に口の周りのクリームを舐め取り、にこやかに。
「で、どうなんだよ?」
「そうですね。少々の問題(エレン君)があったものの、順調です。社長のプランニングとしても、イイ線行ってると思うんですがね。」
「お前・・毒あるなあ。」
「ただ・・なんと言いますか。その・・」これは相談、というより、ぶっちゃけた方が気持ちが楽になりそうだし・・
「社長のネーミングセンスに呆れ果てまして。」
「ほお?」「へぇ?」二人はお茶ではなく、すでにワインに移行している。
「その・・・何かいい知恵をお貸しくださいませんか?」
レティシアとスウェシーナはお互い見つめ合ってから、セネリオに同じく視線を向ける。
「ふうん。なんのネーミング?」
「ちょっと!レティ?あなた、いつからこんな相談受けるようになったのよ?」
「あー。まあ、ココだけの話。このプランには、一枚噛んでるんだよね。」
「はい。レティシア殿・・様には、多大な貢献を賜り、我が社としても感謝としか。」
「そう。ふ~ん。レティ、あなた、ほんっと神出鬼没よね。」
「出歩かないスゥをたまに連れ出すのも、楽しいけどね。」「もう!」
「あ。よろしいでしょうか?」親友同士のじゃれあいを見ていると、少し心が平穏になってくる。
「うん。聞かせて。」魔女が少女のような笑みで見つめてくる。
「はい。施設としての遊戯用、宿泊用、飲食用に関しましては、それほど問題なく進んでおります。
問題は「おみやげ屋」として、主にお子様用の小物を売り出す店舗なのです。」
「いいじゃない?ねえ?スゥ?」「そうね。うちの孫も喜ぶんじゃないかな?」
「い・・いえ・・・それ・・が・・・その・・・・」言いよどむ。
なにせ、その元ネタになったのが、この鬼哭隊隊長の義理の娘、シャンの尻尾を、魔女の孫娘が、「モフモフ!」と言って悶絶させるくらい握り倒し、
さらには自身もその餌食となったのだ。
他にも犠牲になった人物には暇もない。今度の施設の一番、優先度が高いとあるカップルの婚儀の式典。その夫に当たるミコッテもその毒牙にかかっている。
そして、その毒牙からまんまと逃げおおせた社長が「モフモフ屋」などと言って、ミコッテの尻尾を模したぬいぐるみを販売すると。
(どう言おう?コレ。関係者ばっかりじゃない・・)
「で?どうなの?」魔女の質問。
「はい。おっしゃるとおり、尻尾屋、なんですが。屋号を「モフモフ屋」にすると。」
大爆笑。隊長まで大笑い。「シャ・・シャン・・・有名人になれるよ・・」
「あ。いや、まあ。その。触り心地のサンプルとして、希望者を募ろう、という事もあるんですけど・・シャン殿もご参加頂ければ、と・・・」
もちろん、自分も(社長は強制的)サンプルになります、と付け加えた。
「いいんじゃない?スゥ、これはウケるぜ?」「シャンなら・・わたしの言うことなら大概聞いてくれるけど・・・」「ターシャを差し向けたら、逃げれないし。」
「・・・だよね・・」
「それは、それでいいんです。後は、ネーミングなんです。さすがにコレは。社長のデスクをぶっ叩いて「ふざけんな!」って啖呵切った手前、代案がないと、ね。
こんな仕事、思いもよらなかったから、いい案が出ないんです。どうしたら?」
「なるほど。それが凹んでた理由か。」魔女がクスリと笑みを。
「いい案があるの?レティ?」
「そりゃあ、事の原因、主犯者にやらせようじゃないか。」
「え?」「そ、それは?」
「ターシャだよ。あの子に思いつきで言わせればいい。同じくらいの年の子をターゲットにするんだろ?だったら、共感するところはあるんじゃないか?」
((さすが魔女))二人の共通する意見