952セブンス。(プランニング)の隙間。Sugarless Girl

「はい。かしこまりました。」
少し茶色い髪の青年士官、セコロ・ルーナは柔和な表情で敬礼をし、上官の部屋から退出した。

海運と海賊の都、リムサ・ロミンサ。

士官学校を卒業し、海軍、それも作戦立案をする参謀本部に、見習いとはいえ配属が決まった時には、両親にも報告し、ちょっとした祝宴すらしてもらったものだ。
20年という時間がこれほど報われたことはない。
両親は普通の漁師だったので、軍学校、士官候補というものに対して、いい感情は持っていなかったようだが、いざ成績を残して報告をするたびに、段々と理解を深めてくれたようで、
かつエリートといってもいい、参謀本部付き、となればその喜びはひとしおだった。

「よし。僕もなんとか親に認めてもらえたかな。」
セコロは軍服の襟を正し、官庁に入っていく。
「本日付けで、勤務配属になりました、セコロ・ルーナです。よろしくお願いします。」
最敬礼で「提督」に。
「そうか。まだ若いようだが・・頑張れよ。そして。気をつけろ。」
「え?」間抜けな返事をしてしまい、改めて敬礼を。
「この軍自体、まだ若い。私ですら、海賊上がりだからな。」女偉丈夫。
「そ、それは?」少しうろたえる。確かにそんな噂は聞いていた。
「そのままだ。つまり、実力主義だ。わかるか?」
「その・・」
「うっかり、スクアーロ(サメ)のアゴに食いちぎられんようにな。着任、了解した。」
「あ、は、はい。」
「さっさと出て行け。用はすんだだろ?」
「はい!」


1年も過ぎた頃、不法な海賊討伐の船団指揮のための作戦立案などにも参加できるようになり、充実した日々を過ごしてきて。
そんな頃に、上官から少し付き合え、と呼ばれ、酒場に。
しばらく酒が進み、上官が声をひそめて、切り出してきた。
「お前、もう少し上の地位になりたくはないか?」
!?
「そ、それは?」
「実はな。ボナッチャのヤツが不正に海賊どもから裏金を受け取って、海賊行為を見逃している、と情報が入ってな。しかも、ウルダハの海賊共とも繋がりがあるらいい。」
「え!?そ、そんな?」
「ああ。それで、ちょっと仕込んで、あいつらを蹴落としてやろうとな。」
「・・そ、それで?」
「君には、その作戦立案を任せたいと思う。そして、あいつらを捕縛すればお前の地位も上がる。というわけだ。」
「その・・、ラーナ上級士官殿。どうして私が?」
「君には期待しているんだ。不正を正す。これが俺の役割だと信じている。」熱心に。
その熱意に打たれ、セコロは「わかりました。自分でできる事はさせていただきます。」
「頼んだぞ。」

だが。
ハメられたのはラーナの方だった。そもそも、そんな不正はなく、ただのデマで、しかもその噂の主がボナッチャ上級士官の間者だった、というシナリオ。

「ちょっと!待ってください!僕は何もしていません!」セコロは叫んだが、誰も相手にしてはくれなかった。
実質的には、士官の階級剥奪と、半年にも及ぶ監獄生活を。
ラーナは、自身の潔白を立証するために、彼の共犯を証言し、彼からそそのかされたのだ、と言い張った。
もちろん、政敵のボナッチャは証拠を捏造と、実際にハメた証拠で、彼の極刑を申請し、受諾された。

「つまらん報告書だな。」提督は、いい加減ウンザリとしながら。
「あの若者、踊らされたか。実際にこの計画は実行されていないのだろう?」
「はい。」
「なら、今すぐ放免してやれ。ただし、軍には置いておけんからな。当座の生活費くらいは出してやれ。」
「いいのですか?」
「私の方針が気に入らないのか?」
「いえ!ダッコルド!」


「・・・・。」青空に、白い雲がたなびくのを港で眺めながら。
青年は、細身の体と、少しの荷物と2,3日分の生活費だけが、全財産。
この現実がよくわからない。
それなりの金額で士官学校に通わせてもらい、結果、2年にも満たずに追い出された。
両親に合わせる顔もなく、ただ港で途方にくれていた。
そこに。
野太い声が。
「おお、いい若者がなにしてやがる?泳ぎたいなら、今すぐ放り込んでやるぜ?」
「?」
「親父、コイツ放り込んじゃおう。」黒髪の少女が腰のあたりから顔を出す。
「え、ちょっと待ってください!今、考えごとしてて!」

ドボン。

荷物を残し、港から海に放り込まれた青年は、界面から顔を出すと、桟橋で自分の荷物を物色している親子?を驚いた表情で見上げ「なにしてんですか!?」
「おめえ、軍上がりかあ。軍服くれえしかいいものねえじゃんか。」
「ちょっと!」
「ダメだなー。」少女も同じく。
「だったら!」覚悟を決めて。「雇ってくださいよっ!」
「お?おめえ、俺の仕事が何か知ってて言ってるのか?軍人さんよ?」
「元、です。海賊でしょう?いいですよ、その軍に追い出されたんです。あいつらのハナをあかすのに、これ程ピッタリな仕事はありません。」
「ほお。こんな気骨のあるヤツを放り出すとはな。名前は?俺はフォルテ・コスタだ。娘は、リッラだ。」
「僕は・・セコロ・ルーナ、です。」
「そうか。でもなあ。元とはいえ、軍人だろ?そのまんまの名前だと、家族にも迷惑かかるだろうしな。・・・そうだ、セッカ、でどうだ?」
「・・・はい。では、よろしくお願いします。」
海から引き上げられ、船に案内されて。
「これが、俺の船ペスカトーレだ。ま、海賊と言ってもそんなにヤンチャはしてねえ。私略船を目指してるんでね。」「だよ!」
「じゃあ、セッカ。乗船の許可をする。」「はい。」

2年ほど過ぎた頃だろうか。

「お嬢!ダメですって!今、外に出たら吹き飛ばされますって!」セッカの言葉に
「いい風でしょー」リッラは気にしない

「お嬢!もう!そんなに甘いものばっかり!ちゃんと、魚も食べないと」
「セッカ、うるさい。」

「お嬢・・・その・・僕が髪を切る、ってのは少しムリがあります。」
「だって、アンノ、船降りちゃったし。」女性航海士の事

そして・・
「取舵!」「副長!そんな事したら!」「構わん!お嬢の盾になる!嫌な奴は、今すぐ船を降りろ!」「誰が!」「おお!」「お嬢を逃がしたら、面舵だ。正面から突っ込んでやる!」「アイ!」

「なんだと!?」
「舵が利きません!」
「これまでか。」船長室に敬礼。
そして、小舟に下ろした少女にも。
「ふ。悪くない最期だな。お嬢だけは守れたか。」だが不安も残る。この海原で小舟だけで果たして・・・
「お嬢。いつまでもお守りします。いつまでも。」
船体に大きな衝撃が。
ゆっくりと、船が傾いていく。
そして、大渦を作り・・・

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