951セブンス。(プランニング)の隙間。終わり。

優しく揺れる、揺りかごののような寝室。
懐かしい感触。
夕食は、船では珍しくシープの料理が出た。かなり気を使ってくれているらしい。
ミコッテの少女が「うげー」と言っていたが、こんな肉料理が食べれるのは出航してすぐくらいだ。
どうせ、後からは魚まみれになる。
野菜や果実を楽しめるのも、初期だけだ。できるだけ今のうちにこの贅沢を味わうべきだ。

部屋に戻り、作戦の概要を頭の中で繰り返す。
ユパ、と名乗る剣士の立案で、出来上がったものだ。
「第一に、アスタリシア号を執拗に追っている幽霊船、なので囮の船を用意しようと提案したが、フィルフル船長が、頑として拒んだ。
故に、アスタリシア号がそのまま囮となっている。」
(さっすがだナ)フネラーレは内心。
「そして、幽霊船が現れるのは、常に右舷からだそうだ。」(そーいや、右舷からの砲撃で沈んだものね・・・ペスカトーレ。その仕返しなンだ・・)
「なので、この船はアスタリシア号の右舷後方から、幽霊船を待つ。おそらく、幽霊船の本体を倒せば、この騒動も収まるだろう。そして、その本体は船長だ。
彼の執念に囚われて、船が海底から現れたのだろう。彼をゆっくり寝かせてあげるためにも、皆に改めて協力を請う。」

「は~あ。親父、そんなにしつこくねーよ。」
子供の頃から溺愛されてきたんだが・・


「まずはどうしたものですかね?」ミコッテの少女がルガディンの剣士に尋ねる。
「そうだな・・幽霊船は、砲撃をものともせず、追い回すだけだったようだ。恐らく、何かを探すためにあの船に執着しているんだろう。」
「で、わたしには何ができます?乗り込んで、死霊の相手ですか?」
「それも辞さない、か。まずは、乗り込まないと話にはならない。接舷して、4人で乗り込み、元である船長の所に行かなければな。」
そこに。
「まなんなら、楽勝!」と陽気なララフェル。
「ああ、頼りにしてる。」笑顔で応える剣士。
「あー、死霊かー・・少し苦手・・」今更ながらのリトリー。


明けて、翌日・・・その夕暮れ。
「今日は朝からお魚いっぱい!こんなに一杯種類あるんだね~」とご機嫌なミコッテ。
船員が、涙目の彼女にヤラれてしまい、厨房に「魚満載でお願いっす!」と進言したのは別の話だ。

翻って、憂鬱な表情のフネラーレ
なんだか、昔を思い出し「この味付け・・・なーンか似てるナあ。」
「そろそろ時間だぞ?ちゃんと食べとかないと、チカラが出ない。」ルガディンはおかわりすら食べきって、さらにおかわりを。
「♪♪♪」白魔道士はもう、言葉もない。
「うん。まなん的には、コレ。」といいながら、何かを魚料理に足している。


そして、アスタリシア号の船尾が見えてきた。
しばらく停泊していたらしく、波はない。
ゆっくりと船は進んでいく。

そして、目を疑うような出来事。
海面を割って、いきなり船が出てきて、アスタリシア号の右舷に突き当たる。
その波に押され、こちらの船も激しく揺れる。

「いきなりか!」「きゃあ!」「まなんはへいきー。」「ア。あレ。ペスカトーレ・・・」

後部から見る船は、船長室のキャビンの損傷も激しく、今は見えないが、恐らく横腹にも大きな損傷があるだろう。
そして、船長室が半壊している、となれば、やはり父は当時に落命したのだと確信する。
「僕が・・ケリをつけル。」

こちらの船を無理やり横付けにして「きゃあ!」とかあったが。
手馴れた仕草で、飛び移ったフネラーレは、見慣れた・・・甲板を走る。

「おい!無茶すんな!とりあえず、一旦まとまった陣形で!」剣士が叫ぶが、気にしない。
「こ、怖いですよう・・・。」白魔道士が防御術式を展開する。
「まなんに任せろい。」紫電が駆け巡る。

はぁはぁ。ココは、僕の部屋。そして、その手前にあった、この右目を傷つけた天井。
(ここでセッカと・・)思いを振り切る。
この奥が、船長室、すなわち親父の部屋だ。
フネラーレは、一瞬の戸惑いの後・・
自身のの部屋を開けてみた。
カギはかかっていなかった。それはそうだ。逃げ出したあの時にカギなんてする余裕もない。
「あ・・・・。」
これ以上、声も出なかった。
なぜなら。

ここまでの廊下や、甲板も、いろんな貝や、海藻が張り付いて、シルエットならともかく、かつての面影は無かった。
そして、死霊達も「お・・」「・・お嬢・・」「嬢・・」と、危害を加えることなく、敬礼してくれた。

そして。

この部屋。

懐かしい、自分の部屋。親父にせがんで、色々と小物や、ぬいぐるみを買ってもらって、飾ってあった部屋。
それが。

そのまま、海水に飲み込まれなかった姿のまま、そのまま・・・

思わず、涙が溢れ出す。

「・・・親父・・・セッカ・・・」

しかし。今も激しい音と、衝撃が聴こえてくる中、一人感傷に浸っていられない。早く終わらせなければ。でないと、みんなの魂は永久にこの船に囚われてしまう。

船長室の扉。娘だけに教えられたノックの回数で。
返事は・・ない。
「はいるよ!」常のとおりにドアを開ける。

顔をしかめる。夕闇から、夜になったようだ。風も増している。後ろの窓が全て吹き飛んだ船室は風が妙にきつい。黒髪をなびかせ、デスクに向かう。
そこで。

航海日誌にもはや、デタラメとしか言えない文字を延々と書き続ける右手があった。
「お、親父・・?」
懐かしい野太い腕。しかし、肘から上が無い。それ以外は・・

「お嬢。」
ふと、横から声がかかった。
懐かしい声に、おもわず振り向く。
「セ・・・ッ・・カ?」

目の前にいたのは、細身の青年。だが。
長いこと海底に沈んでいたせいで、半分が骸骨と化し、小さなカニなどが眼窩にはまりこんでいる。もう、二度とかつての姿には戻れないだろう。

「セッカ。あなたなの?この船を呼び起こしたのは。」
「はい。お嬢をお救いするために、かの船に攻撃を始めたのは、私です。」
「ちがう・・・ちがう・・・僕は・・あなた達のおかげで、この今を生きている!もう・・・・やめて。お願い。」
「お嬢・・・それでは、我々、ペスカトーレ全船員、どうすれば?」
「船長代理として、命令する。速やかにリムレーンの安息の寝床に行くがいい。」
「はい。お嬢。お元気で。」
「ああ。」

そっと副長の体を抱擁する。


甲板に戻ると、呆気ない、というか、いきなり戦っていた死霊たちが消えて行き。
船が沈み始める。

「おイ!にげるゾ!」黒髪の女性。
「うおお、まなんは真っ先ににげる」
「え!?ちょっと!なに?なんなの?」
「いいから、掴まれ。」


「これにて終了、か。」ルガディンの剣士が一言。
「だねー。」ララフェルの術士は朗らかに。
「うっわ、クッサー・・」ミコッテの少女は衣装に着いた匂いを気にしている。
「・・・」黒髪の美女はうつむいたまま。

これでいいんだよね?親父。セッカ。皆。

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ