昼食は事前に済ませておいて、緩やかな、懐かしい振動が郷愁を呼び覚ます。
そうだ、あの日々は、こんな感じでいつも夕暮れまで昼寝を過ごしたものだ。
理由としては、母譲りの肌の白さ故、日焼けすると次の日に痛くて寝れなかったから。
こんなゼイタクが許されたのも、船長の一人娘だったから。
「親父・・・」
実際に死に際を見たわけじゃない。が、船と共に逝ったのは間違いないだろう。
目の前で轟沈した愛船。
船長たる彼が一人逃げ出したなんて、ありえない。
剛毅で、愛嬌のある親父。そして・・副長セッカ。
なんで・・
カルヴァランの顔が浮かぶ。
「ン・・・僕・・・」枕に顔をうずめて、リッラはこんな仕事なんて・・
早く終わらせるべきなのか、先延ばしにすればいいのか。
右目からしか流すことのできない涙で枕を濡らし、嗚咽をこらえていた。
その時だった。ノックの音。
窓からの日差しは、まだ夕暮れ、というわけではない。
夕食にはまだ時間があるようだが?
「ちょっといいかな?」
ん?この少し野太い声は、たしか白髪のルガディン、剣士だったようだが・・・
普段のチュニック姿で寝台に潜り込んだので、着替える必要は無い。
ただ・・
知らず、泣き腫らしていたせいか、右目のまぶたが少し腫れぼったい気がする。
すぐに治るわけもないので、言い訳を・・
「あア、少しだけ待ってくレ。今、昼寝してたンだ。」
目元を拭い、いかにもな感じの寝台にする。
扉に向かい「どうソ。」と鍵を開ける。
「ゆっくりしている所、申し訳ない。少し話がしたくてね。」一礼する。
「かまわないヨ。」
小さなテーブルと、スツールが2脚。向かい合わせに。
「デ?」
「ああ、実は今回のミッションなんだが、おいらはただ「幽霊船の退治」としか聞いていない。だが、見た所キミは何か心当たりがあるんじゃないか?と思ってね。
もし、立ち入った話なら、話さなくていいし、おいらもこれ以上部屋にはいない。どうかな?」
「・・・・」
「そうか。邪魔をして悪かったね。」席を立つ剣士。
「まテ。」
「ん?」
「いいかラ。そのままでもイイ。僕はどうすればいいンだ?」
改めて席に着くユパ。
「無理はよくない。なんなら、このミッションはおいら達だけでしてもいい。」
「違ウっ!」激しく首を振るフネラーレ。長い黒髪が揺れる。
「僕は・・・」 次の言葉を静かに待つ剣士。
「僕は・・こノ・・幽霊船の・・・クルーだった・・・みたいなンだ・・・」
「!」
「船の名前は、海賊船ペスカトーレ、私略船免状が無かっタけど、無体な略奪とかはしなくテ、場合によっては、一般の船とモちゃんと交渉しテ、物物交換とかもしたンだ。
ハデに暴れルなんて、横暴ナ同業相手くらいだッタ。もう少しデ、私略船になれタと思う。」
「そうか。」
「でモ、ある日、いきなり襲撃されテ。僕以外を・・いや、僕を逃がスたメに、船もろごと・・」
「そうか。辛い思い出を言わせてしまったな。すまない。」
「だから!」
「しばらく休むといい。まだ沖には出ていない。件の船が出るのは、おそらく明日の夕暮れから、夜中だろう。それまでにゆっくり考えておいてくれればいい。」
「助けてヨ!」
「キミをか?船をか?」
「皆を!」
「それは、出来兼ねる。おいらにも、助けきれなかった命は・・・ある。」
腰の後ろにある、小ぶりの鞘から短剣を取り出す。
それは、刃自体はそれほど研ぎ澄まされた感じはしない。
でも奇妙なのが、短剣なのにやけに分厚いのと、峰の方に大きく切り込んだ、それこそノコギリを大きくしたような、そんな溝がついている。
「コレは、ソードブレイカー。おいらの師匠の愛剣のひと振り。」
「・・・その方ハ?」
「おいらとの対戦中、亡くなられたよ。見事な舞だった。その名のごとく。」
「殺したのカ?」
「いや、彼女は心の臟に病を持っていたらしい。後で聞いたんだが。ただ、その時だけは華麗に踊って、その生涯を終えた。
瞼をつむれば、今でもその舞が思い浮かぶよ。」
「何が・・言いたイ?」
「思い出は、思い出のままに。このソードブレイカーは、相手の剣を受け、時にはへし折る。だが、相手を受け止めるための剣だ。
時にへし折ろうが、相手を受け入れる、そのための剣だ。」
「・・・。」
「言い方がどうにも不器用ですまない。おいらの弟子達は、素直すぎて、もう一人は跳ねっ返りすぎて、どうにもおいらはまだまだ、だな。では、失礼するよ。」
席を立つ剣士に
「ありがとう。」頭を垂れるフネラーレ
覚悟は決めた。
「ねえ、まなんさんって、お茶は何派なんですか?」ミコッテの少女は普段着に着替えて、甲板で潮騒を楽しみながら、ゆるゆるとお茶を楽しんでいる。
どうやら飲んでいるのは、リムサの一般的な茶みたいだが、そこにオレンジを少し絞って、風味を増しているよう。
向かいに座るララフェルの少女?は、ちょっとしたボウルサイズのカップに、同じくリムサ産のお茶だが、ミルクや、砂糖、スパイス、リモンやお酒まで入れている。
「まなんはねえ、美味しければそれでいいんだ。」
美味しいのか?ソレ。リトリーは表情が少しこわばるが、あえて聞かないし、味見したいとも思わない。
確か「水晶の魔力」の二つ名を持つ彼女だが、まさかこんな味覚だったとは・・
聞いただけの話だが、かのコロセウムでもハデに暴れたらしいが・・
目の前のララフェルからは、そんなオーラはなく、さらに何かしらのシロップを茶に足している。
味の想像ができなく、さらにしたくもないので、目の前のオレンジティをゆっくり喉に流しこむ。
緩やかな午後。そろそろ、夕暮れに近づくだろう。
「今日の夕飯、なんでしょうね?」と話題を変えて。
「カボチャ以外なら、なんでもいいよ!」
なぜ、カボチャ?こんな船の上では中々出ないと思う・・・
リトリーは、お魚料理が絶対メインだと確信している。このミッションを受けた一つに、海上なら、お魚食べ放題!なんて期待したからだ。
4人用に用意された食事は、シープ(ヒツジ)の煮込みがメインだった。
が~ん・・・
ミコッテの白魔道士は、明日こそは、と船員を捕まえて涙目で訴えた。