950セブンス。(プランニング)の隙間。つづき

昼食は事前に済ませておいて、緩やかな、懐かしい振動が郷愁を呼び覚ます。
そうだ、あの日々は、こんな感じでいつも夕暮れまで昼寝を過ごしたものだ。
理由としては、母譲りの肌の白さ故、日焼けすると次の日に痛くて寝れなかったから。
こんなゼイタクが許されたのも、船長の一人娘だったから。
「親父・・・」
実際に死に際を見たわけじゃない。が、船と共に逝ったのは間違いないだろう。
目の前で轟沈した愛船。
船長たる彼が一人逃げ出したなんて、ありえない。
剛毅で、愛嬌のある親父。そして・・副長セッカ。
なんで・・

カルヴァランの顔が浮かぶ。
「ン・・・僕・・・」枕に顔をうずめて、リッラはこんな仕事なんて・・
早く終わらせるべきなのか、先延ばしにすればいいのか。
右目からしか流すことのできない涙で枕を濡らし、嗚咽をこらえていた。

その時だった。ノックの音。
窓からの日差しは、まだ夕暮れ、というわけではない。
夕食にはまだ時間があるようだが?
「ちょっといいかな?」
ん?この少し野太い声は、たしか白髪のルガディン、剣士だったようだが・・・
普段のチュニック姿で寝台に潜り込んだので、着替える必要は無い。
ただ・・
知らず、泣き腫らしていたせいか、右目のまぶたが少し腫れぼったい気がする。
すぐに治るわけもないので、言い訳を・・
「あア、少しだけ待ってくレ。今、昼寝してたンだ。」
目元を拭い、いかにもな感じの寝台にする。
扉に向かい「どうソ。」と鍵を開ける。

「ゆっくりしている所、申し訳ない。少し話がしたくてね。」一礼する。
「かまわないヨ。」
小さなテーブルと、スツールが2脚。向かい合わせに。

「デ?」
「ああ、実は今回のミッションなんだが、おいらはただ「幽霊船の退治」としか聞いていない。だが、見た所キミは何か心当たりがあるんじゃないか?と思ってね。
もし、立ち入った話なら、話さなくていいし、おいらもこれ以上部屋にはいない。どうかな?」
「・・・・」
「そうか。邪魔をして悪かったね。」席を立つ剣士。
「まテ。」
「ん?」
「いいかラ。そのままでもイイ。僕はどうすればいいンだ?」
改めて席に着くユパ。
「無理はよくない。なんなら、このミッションはおいら達だけでしてもいい。」
「違ウっ!」激しく首を振るフネラーレ。長い黒髪が揺れる。
「僕は・・・」 次の言葉を静かに待つ剣士。
「僕は・・こノ・・幽霊船の・・・クルーだった・・・みたいなンだ・・・」
「!」
「船の名前は、海賊船ペスカトーレ、私略船免状が無かっタけど、無体な略奪とかはしなくテ、場合によっては、一般の船とモちゃんと交渉しテ、物物交換とかもしたンだ。
ハデに暴れルなんて、横暴ナ同業相手くらいだッタ。もう少しデ、私略船になれタと思う。」
「そうか。」
「でモ、ある日、いきなり襲撃されテ。僕以外を・・いや、僕を逃がスたメに、船もろごと・・」
「そうか。辛い思い出を言わせてしまったな。すまない。」
「だから!」
「しばらく休むといい。まだ沖には出ていない。件の船が出るのは、おそらく明日の夕暮れから、夜中だろう。それまでにゆっくり考えておいてくれればいい。」
「助けてヨ!」
「キミをか?船をか?」
「皆を!」
「それは、出来兼ねる。おいらにも、助けきれなかった命は・・・ある。」
腰の後ろにある、小ぶりの鞘から短剣を取り出す。
それは、刃自体はそれほど研ぎ澄まされた感じはしない。
でも奇妙なのが、短剣なのにやけに分厚いのと、峰の方に大きく切り込んだ、それこそノコギリを大きくしたような、そんな溝がついている。
「コレは、ソードブレイカー。おいらの師匠の愛剣のひと振り。」
「・・・その方ハ?」
「おいらとの対戦中、亡くなられたよ。見事な舞だった。その名のごとく。」
「殺したのカ?」
「いや、彼女は心の臟に病を持っていたらしい。後で聞いたんだが。ただ、その時だけは華麗に踊って、その生涯を終えた。
瞼をつむれば、今でもその舞が思い浮かぶよ。」
「何が・・言いたイ?」
「思い出は、思い出のままに。このソードブレイカーは、相手の剣を受け、時にはへし折る。だが、相手を受け止めるための剣だ。
時にへし折ろうが、相手を受け入れる、そのための剣だ。」
「・・・。」
「言い方がどうにも不器用ですまない。おいらの弟子達は、素直すぎて、もう一人は跳ねっ返りすぎて、どうにもおいらはまだまだ、だな。では、失礼するよ。」
席を立つ剣士に
「ありがとう。」頭を垂れるフネラーレ
覚悟は決めた。


「ねえ、まなんさんって、お茶は何派なんですか?」ミコッテの少女は普段着に着替えて、甲板で潮騒を楽しみながら、ゆるゆるとお茶を楽しんでいる。
どうやら飲んでいるのは、リムサの一般的な茶みたいだが、そこにオレンジを少し絞って、風味を増しているよう。
向かいに座るララフェルの少女?は、ちょっとしたボウルサイズのカップに、同じくリムサ産のお茶だが、ミルクや、砂糖、スパイス、リモンやお酒まで入れている。
「まなんはねえ、美味しければそれでいいんだ。」
美味しいのか?ソレ。リトリーは表情が少しこわばるが、あえて聞かないし、味見したいとも思わない。
確か「水晶の魔力」の二つ名を持つ彼女だが、まさかこんな味覚だったとは・・
聞いただけの話だが、かのコロセウムでもハデに暴れたらしいが・・
目の前のララフェルからは、そんなオーラはなく、さらに何かしらのシロップを茶に足している。
味の想像ができなく、さらにしたくもないので、目の前のオレンジティをゆっくり喉に流しこむ。

緩やかな午後。そろそろ、夕暮れに近づくだろう。

「今日の夕飯、なんでしょうね?」と話題を変えて。
「カボチャ以外なら、なんでもいいよ!」
なぜ、カボチャ?こんな船の上では中々出ないと思う・・・
リトリーは、お魚料理が絶対メインだと確信している。このミッションを受けた一つに、海上なら、お魚食べ放題!なんて期待したからだ。

4人用に用意された食事は、シープ(ヒツジ)の煮込みがメインだった。

が~ん・・・

ミコッテの白魔道士は、明日こそは、と船員を捕まえて涙目で訴えた。

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