949セブンス。(プランニング)の隙間。

その日。
そんな日は、やはり突然来るものだ。
「やあ、お久しぶり。」

銀髪の青年、キーファー。
出迎えたのは、一人留守番をしていた、黒髪の美女、フネラーレ。
「あン?」
そっけない返事にもめげす、「いや。お仕事を。」青年はへらへらと。
廊下でそんなやり取りをするのもナンなので、リビングで。

今回は普段着なので、ペイアップも無いのだが、彼女のことだ、いきなり脱いだりもないとは言えない。緊張しながら、要件を話す。

「ナっ!」
「はい。今回の案件は、リムサ・ロミンサから、なんです。」

海賊として、リムサ・ロミンサでは、そこそこ名を売っていた。
しかしながら、グリダニアに来てからは当然の事ながら、故国での仕事など来るはずもない。
フネラーレは、慎重に言葉を反芻する。

(リムサ・ロミンサで、幽霊船が出現していること。執拗にアスタリシア号に攻め入ろうとすること。砲撃をしても、海底に潜るのか、効果がないこと。そして。)
「本当なノかッ!」
衝撃で、身がよじれる。
「はい。フネラーレ。ええ。貴女のかつての乗船「ペスカトーレ号」にシルエットが酷似していたそうです。」
愕然とする。
ここ、グリダニアに移住するハメになる前。あの「家」と同然の船が・・
幽霊船、だと!?

「おイ!ボンクラ!!その話、でまかせだったラ、覚悟しとけヨ?」
胸ぐらをつかみあげる。
「ええ。もちろん、貴女に依頼をしたのは、まさにその確証を得たから、とも言えます。ただ、完全とは言いかねないので、本人にご確認頂いたい次第で。」
鬼のような表情を浮かべる美貌の暗殺者に、平然と笑みを浮かべて応える青年。

ゴトリ。

リビングの床に青年を叩き伏せ、「わかっタ。」
(親父・・・セッカ・・・みんな・・・・)黙祷を捧げる。
この話が本当なら、彼らはもしかすれば、自分が無事なのか、それが心配で彷徨い続けているのかもしれない。
「お嬢、生きてください」その時の言葉と、表情が記憶の底から噴き出してくる。
(セッカ・・・。)涙がこぼれ落ちそうになるが、必死にこらえる。この青年にだけは見られたくない。
「いいダロ。準備、しとケ。」かろうじて、声に出せた。
「はい。それと、他にメンバーもお願いしてありますんで。皆、手練ですから、安心してください。」
「いいかラ、さっさト出て行け!」
「はいはい・・」(おーこわ・・)

残された紙に目を通す。
日時、場所、メンバーの名前などが記されている。そして、最後の一文。
「撃破せよ。」
この一文に目が行った時。確かに、目眩と共に絶望感が溢れ出した。
「なんでだヨ?」
あの時の絶望をもう一度、それも自分の手で?部屋に戻り、食事の掛け声にも応じず、泣きはらした。

翌朝、誰にも声をかけず、移動術式で故郷とも言える街に。
虚ろな瞳で、集合場所に向かう。
「やあ。君はかの決勝で優勝した子だね。よろしく。ユパ、という。」腰には少し幅の広い鞘、さらには剣士らしくなく、盾は持っていないようだ。
代わりといってはなんだが、後ろの腰に控えめな鞘がある。

「元気ないね!どうかした?」ララフェルの少女然とした術士。「まなんは、いつも元気だぜ?」
以前と髪型や、色が違うせいで、誰だかわからなかったが、そう言われれば、コロセウムでかなり強かったはずだ。

「あの。」控えめなミコッテの白魔道士だろう、アーティファクト以上の装備を身にまとった少女。「リトリー、といいます。よろしくお願いします。」ペコリと。

毒気を抜かれ「フネラーレ、です。」と素直にお辞儀をした。
この先、自分の尻拭いの手伝いをさせてしまうかもしれないメンバーに、頭を下げる。

「じゃあ、いこうっか!」ララフェルの少女?が大声で。

目の前には、港に停泊している中型の帆船。
久方ぶりの船に、高揚する気分がないではない。
でも。
リッラの心には、やはり憂鬱が燻り続ける。
「ほら、早く乗らないと!船長さんが待ちくたびれてるぞ!」まなんの声に、ようやっと、足を運ぶ。
船室に入り、やっと感情をさらけ出す。嗚咽を聞かれないように、枕で顔を覆って。
(もう一度・・あの船を・・・皆を、海の底に沈める・・・それも、自分の手で。)
いっそのこと、自分も一緒に連れて行ってくれないだろうか?
いや・・
「お嬢、生きてください」
初恋の相手の言葉が蘇る。
「どうすれば?」
この問いに答えてくれる相手はいない。

コンコン。
「ちょっといいかな?」少し野太い声は、ルガディンの剣士のようだ。
「あア。少しだけ待ってくレ。今、昼寝してたンだ。」

寝台から起き上がり、ざっと髪を手で梳く。
まぶたが少し腫れているかもしれないが、昼寝のせいにでもすれば、言い訳としては上々だろう。
「どうゾ。」鍵を開ける。

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