948セブンス。プランニング。その4

「よしよし、もう少しで休憩だからな。」
チョコボを操っている男は、首筋を撫でてやる。

本来ならば、騎乗するための鳥だが、今は一緒に歩いている。
それも、1羽ではなく、8羽。
ただ、人の速度に合わせているため、それほどの負担がないかといえば、そうでもない。
4羽で荷車を運んでいるのだ。資材を乗せて。
キャリッジみたいに宙に浮かせれば、負担はそれほどでもないが、なんせ鋼鉄の資材なので、キャリッジではとてもではないが、運べない。
飛空艇でも使えれば、また話は別なのだがどうしても資金的に高く付きすぎる。
そして、何も積んでいないチョコボ4羽と交代で「娯楽施設」とやらにこの荷物を運んでいる、というわけだ。
距離にして、それほどでもないが、荷物の重量や、休憩を挟むと1日仕事。帰りもいれて、2日はかかる。
(チョコボは、空きの荷車を引くために1羽を残して、現地で帰してしまうし。)
「そろそろ、昼飯かな。」男は中天を見上げ、砂埃の少なさそうな岩場を目指す。

そして。ロアー姉妹。ブロンドがトレードマークと言わんばかりの。
ウルダハをメインに活躍中の傭兵姉妹で、最近は名前も売れてきて、仕事もそれなりに取れてきた。今回は、アリティアグループの「娯楽施設」の資材の護衛だ。
本来ならば、中堅どころの4人ほどでするはずなのだが・・・・

「なあ、レイはん?ウチら、そこらのザコら違て、二人で四人分仕事すっさかい、一人で二人分の給料でええやろ?」
姉、ユーニの交渉に。
「え?ええ!ちょっと、それは・・その・・社長に・・・」レイ・ローウェルは傭兵、護衛派遣の会社の社長をしている、グループの一人だ。
「あんた、社長ちゃうん?今更、何いっとんねん?」
「あ・・ああ。そ、そうですね。少しだけ・・・待ってくださいね。」パールを置く。
伝票を見る。
一日あたりの日当を二人で四人分・・・確かにそれだけの仕事をしてくれれば、食費その他は二人分だけでいいわけで・・・
「分かりました。その代わり、万が一にもシクじらないでくださいね。」
「おう。わかったらええねん。そんでな?」
「はい?」
「誰にモノいってやがんだ?うちらが信用できひんてか?」
「い。いえ!そんな訳では!ただ、資材搬入の情報はもうかなり知れ渡っています。
それを狙いに、野盗、山賊の類が頻繁に出るようになったと。魔物も少なからずいますので、十分気をつけてくださいと。」念押しに。
「ああ、そいつらまとめてぶっ殺していいんだよな?」
「・・・・・ええと・・できれば、穏便に退散していただけるよう、お願いします・・。」
あの姉妹の活躍は、耳にタコができるくらいに聞き及んでいるし、実際に見たこともある。
「とりあえず、容赦しない。」

「ふん、ほんならそんな感じでやっとくわ。振込はモーグリ宛でな。」

そんなやり取りが二日前にあって。

しばらく進むと、目当ての岩場に。
「やっと休めるぜ、メシメシ。」と鉱夫や人足(資材を荷車から下ろすにも人手は必要だ)
六人の雇われと、姉妹。
昼食にありつく。
周りには、なだらかな丘と、ポツポツと木が。
「ふん。なあ、ユーリ。今晩の見張りの順番な。」
不寝番、という眠りにつかずに見張りをする事もあるにはあるが、集中が切れた所を襲われてしまうこともあるため、大体は2~3交代で。
が、二人しかいない護衛なので、当然ながら2交替。
早寝早起きの順番と言い換えてもいい。
ユーリが「あー。うち、早番がええ。」理由としては、そのまま起きてて、疲れた時に交替してもらい、その後グッスリだから。
寝てる時に起こされて、眠気まなこから始める警戒ほどシンドイものはない。
「ああ、そうか。うちも同意見や。」ユーニは「じゃあ、コレか。」と拳を突き出す。
別に殴り合うわけではない。妹より小柄で華奢な姉のユーニは術士だ。斧を振り回す妹とでは、腕力で勝てるワケもない。なので。
「手のひら勝負」をする事に。
ルールは3種の「型」を出す。「剣」「盾」「術」これで優劣がついている方が「勝ち」となる。
「剣」は、指2本を前に出す。「盾」は、手のひらを上に向け、指はきっちり閉じておく。「術」は、手のひらを下に向け、指を広げる。
「剣」は「盾」に弱く「術」に強い。「盾」は「術」に弱い。「術」は「剣」に弱い。
こういう3すくみで相手に勝つのがルールだ。もちろん、同じ「手」を出せば、やり直しとなる。
「いくぜ。」ユーニが笑う。
「負けないよ!」ユーリも。
「「せーの!」」掛け声。
出したのは、二人共「剣」
「ふうん?」ユーニは勝ち誇った表情。なぜなら、妹は大体初手には「剣」を選ぶ。クラスがそうだからか、自然とそうなるようで。「盾」を出せば勝ちは取れるが、保険、というやつだ。
「「もういっかい!」」

「うう・・先に寝る・・・」ユーリは諦めたようだ。
勝率で言えば半数になるはずなのだが、彼女はそこまで姉に勝てない・・・・そも、この勝てない勝負を姉から提案された時点で負けているのに気がつかない所が、彼女らしいといえば。

昼食と、チョコボの入れ替えも済ませ、道のりも順調に。
そして、夕暮れも迫り野営の準備も始まる。
姉妹は、周りの偵察に、他の人夫達は寝床の準備もしながら、あの姉妹、どっちがいい?などと。
「小柄で美人顔だけど、目つきが物騒な姉」「愛らしい顔立ちながら、男顔負けの力自慢の妹」
どっちだろうなあ?など。

姉妹が戻ってきて「問題ないで。」と言われ、ようやっと夕食、そして就寝。

ユーニは、大人しく寝付いた妹の髪を撫でながら「なんもないのが、一番、やけどな。」
少し、目を閉じる。

目を開ける。
「おいでやす。」気配を感じ取る。
複数。それも、周りから。
構成を編み始める。
最初に突っ込んできた、斥候だろう一人に氷結術式。「バーカ。」小声の術式に、相手も対応できなかった。そして、周りで寝ている全員も。
寝たふりをしていた自分が、まさかの術式を使った事に対応できなかった事で、相手に術士がいないと判断。
立ち上がり、周りを見渡す。
7、いや、8人。
楽勝!

周りの皆を起こすことのないよう、最小限の音量で「お前ら、凍れや。」「そんで、死ね。」
高位範囲氷結術式を連打する。ほとんど時差の無い術式に、半数が氷柱と化す。
火炎や、雷撃の様にハデな音がしないこの氷結術式を好んで使う彼女は、まさに夜襲に、もしくは、された側だったとしても都合がいい、と思っている。

ひ!賊の一人が叫びそうになったのを、唇の動きだけで見て取ったユーニは、「黙れ。」と氷結を相手の顔面に展開させる。
悲鳴一つ上げれずに、顔を覆った氷の塊を外そうとするが、その前に。
「居なくなれ。」「ボケ。」範囲術式の連打。
ほんの十数秒で完全に沈黙、いや、氷柱と化した賊を見渡し、満足げに、妹の横に。
もう一度、髪をなでてやり(お前の出番はあるかなあ?)なんて。

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