「社長。イドゥンからの定時報告です。」
「ああ。どうなってる?」
アリティア産業グループ その本社でのオフィス。
「はい。あと3日で観覧車のテストが始まるそうです。組み上げに関しては、明日始まるそうで。」
「そうか。あの二人にもしばらく待たせてあるからな。早いほうがよかろう。」
「はい。そうですね。時に社長。」
「どうにかしたか?」
「ええまあ。」珍しく言いにくそうな筆頭秘書セネリオ。
「なんだ?事故でもあったのか?」マルスCEOは怪訝な表情。
「そうですね・・・事故といえば、事故かもしれません。」鎮痛な表情で。「エレン君がまたぞろやらかしているようで。」こめかみを押さえる。
「・・・・・。」眉間に皺を寄せ、「あいつめ・・・」とぼそぼそと・・
「責任の一端は社長にもあります。」冷静な秘書。
「わかっている。分かってはいるが・・・野放しにするのが早すぎたか・・・」デスクに両肘を付き、組んだ拳を目頭にあてて俯く。
「イドゥンの報告では、初日から自身がナンパされ、とりあえず仕事を盾にして逃げ回っていて、しばらくすると、アイアンワークスの女性をナンパし始めたそうです。」
「アイツ・・・」
「さらには、工事用魔導機に乗ってみたい、と言い出し、工期が1日遅れたようで。」
「せんちゃん。アイツの捕縛許可をイドゥンに言ってやれ。」
「社長。僭越ながら、私には社長のご親族に対し、そのような仕打ちを伝える事はできかねます。どうぞ、ご自身で。」
「・・・・。」
「お連れになったのは、社長ですんで。ケツ拭いたらどうですか?」
「・・・・わかった・・・」
しばらくの沈黙。
「それと、社長。遊戯施設と並行して、進めなければいけないプランもまだまだあります。」
「ああ、そうだな。」
「まずは、宿泊施設ですが、どのくらいの規模で進めようと?」
「そうだな、リゾート地の近くだからな。高級なのを一件、普通クラスを一件でいいんじゃないか?安宿など、そもそも使いたがるなど、娯楽施設に来ないだろ?
高級なのは、10室くらいあれば十分だろう。普通の方は、それなりにあればいいだろう。40室ていどか。」
「なるほど。」
「高級な方は、全室スイート(二部屋つづき)にして、バトラー(執事)もつければ、金持ちには十分ウケるだろ。
普通の方に関しては、二人部屋と家族部屋をそれぞれ半数で、ウェルカムドリンクとかつければ高級感もでるだろうしな。」
少しの沈黙の後「意外と考えておられたんですね。超以外でした。」
「せんちゃん?」
「いえ、そのプラン、確かにメモをしておきました。物産の方に連絡して、至急資材と職人を手配させましょう。」
「ああ。そういえば、エリスの友人の・・エフェメラという子も鍛冶職人だったな。雇用しているのか?」
「ええ。彼女は2日前に現地入りしています。」
「そうか。」
「続いての案件ですが、敷地はウルダハから少し離れていますので、一般人には少々厳しい状況でしょう。
やはり、キャリッジの定期便などがあれば、往復も兼ねてよいのでは?」
「なるほど。後は・・安全対策、ね。」
「はい。レイの会社から派遣で雇えば問題の解決は可能ですが。」
「そうだな・・移動術式分と、日払いで雇用すれば、確かに何とかなりそうだが・・・」
「そうですね。費用はかさみますが。」
「まあ、近郊なんだし、ベテランを雇う必要もないだろう。むしろ、中堅一人と、成り立てでも3人ほどで大丈夫じゃないか?
成り立てと言っても、それなりに経験があるだろうし、混乱しても中堅が居れば立て直しもできるだろ。」
「それは確かに。ベテランを雇うと高くつきますからね。」
「まあ、戦闘経験を積める、と謳い文句にすれば、そこそこ集まるだろうしな。」
「分かりました。レイにはそう伝えておきます。」
「後は?」
「はい。店舗に関して、です。」
「ああ。」
「今のところ、必須と思われるのは飲食店ですが、これは店舗にするか、屋台にするかで大きく分かれると思います。」
「まあな。」
「大型店舗はスペースの都合もありますが・・中規模だと、パンクしかねませんし。その点、屋台なら、そこかしこにベンチを設置すれば、十分かと。」
「う~ん。そうなんだよね・・でも・・リゾートの近くで、それなりの顧客を取りたいから、大型じゃなくっても、
中規模でレベルの高いレストランと、一般客用に屋台をいくつか、ってどう?」
「悪くないプランですね。高級レストランならば、予約で満席になってしまう、もしくはハードルが高くて、入れなくっても問題はありませんし。
それに、リゾートからのお客様も、たまには屋台を楽しむ、というのもアトラクションに繋がるかもです。たまには良い事言いますよね。」
「・・!?オイ?」
「続いては、社長。」
「まだあったっけ?」
「はい。コレは社長ご自身のプランニングです。」
「あー、みやげ物屋ね。」
「ええ。」何故だか、視線が鋭くなっている。
「本気ですか?」冷たい声
「へ?」視線が泳ぐ社長
「なんですか!この「モフモフ屋」!フザけてるのか!?もっとマジメに考えろッ!」
ついにキレた。
「いや、その、ほら、魔女様のトコのお孫さん、尻尾好きじゃない?子供ウケしそう?」
「名前の事を言ってるんです!」
「いや・・・その・・・モフモフって言いながら尻尾にぎってたし・・・」
「あの時、社長はすぐに逃げて、私がその被害を受けましたが。」
「あー。シド救出の前ね。」
「声を出さずに耐えるのは、なんとかなりました。しかし、エリスやエフィ達が笑いを堪えているのが、屈辱以外の何者でもなかったわけですが?」
「あ、そういえば、せんちゃん、あの時の「襲われた少女役」最高だったよ?」
「・・・・・・・」普段は冷静、時としてキレる事もあるが、顔色は常にクールな彼女がついに叫ぶ。
「その話はよそで絶対にするなぁッ!」デスクを叩く。頬も朱に染まっている。
(うわ、マジギレしちゃった・・実は鉄板ネタで、何人かに披露しちゃったんだけどなあ・・・)
「う、うん。」とりあえず頷いて
「店名はこちらで考えます。では、以上で。」退室する秘書。
「ふう・・・・流れた話は魔女様のせいにしておくか・・・」
「う~ん、ワタシ的には、ここのお弁当は美味しいと思うけど・・」
「そう?ちょっとわたしには辛いかな。」
「そうね、お水が欲しくなる。」
3人のミコッテ女性が職場で弁当談義をしている。