午後の授業は、実技ではなく、体を動かすような
敵の的になりかねない、攻撃役はある程度逃げたり、最悪、的になった場合に身の避け方も知らなければならない。
そのためには、机と向き合ってるだけでは「死」に直結する。
なので。
「きゃあ!」
広げられた布団の上を、素早く転がって敵から逃げる訓練。
実際の戦場だと、こんな柔らかい足場じゃなく、しかも厚手の布鎧とかで。(人によっては下着みたいな装備で)逃げ回る事もあるらしい。
盾役の人がサポートしてくれていれば、その危険はそれほどでもないのだが、そのへんは連携あってこそ、だ。
まさに実地で教え込まれるのは、生存確率から言えば、高いに越したことはない。
綺麗にくるっと、体を回転させ、立ち上がる前に構成を展開、霧散させる委員長。
さすがね・・
ミオの動きに関心しきりだが、ヴァイオレットは「さすが」をもう数回重ねることになる。
「にゃあ!」と言いながら、ミコッテの少女が布団の上を一回転しながらジャンプ。落ちるときにはすでに構成が出来上がっていた。
それだけでも、さっきの主席(委員長)よりもハデだし、構成もしっかりしてる。
さらに、双子の妹まで。
女子の部はまだ続いているが、それよりも。
この後に男子の実技がある。その「第4位」が最初に披露するであろう、体技と構成に興味が湧いてくるのは、自然と自覚できた。
(まずは、あいつから。でも・・あの姉妹も油断ならないが・・・どこかに付け入るスキがあるはず・・)
数人の後(編入したので、末席扱いの自分は最後、か。)6番目を宣告し、布団に目をやる。
体術では、それほど自信がない。
ヴァイオレットは、とにかく頭を回転させ・・・・
軽く走りこみ、布団に体を預けるように倒れこむ。
傍目には、ドジなヤツ。
そう見えただろうが。
この時点で、周りの全員の魔力を使った広範囲雷撃術式の構成を編んでみせる。倒れる、まさにこの瞬間で。
実際には発動しないが、構成が理解できたものはそうそういないだろう。
ただ、ミオと・・・・ラプターだけが、驚いた顔でこっちを眺めていた。
それ以外の女子達は
「ドジっ子?」「一般クラスのほうが?」などと言っている。
姉妹は、またしても緊急避難していた。
次の試技を待たされている男子達も「うわー」「コケただけ?」「ああいう子、いるよねー」
などと。
「ふーん。あの子に勝てる連中がいるのかなあ?」 アインの声に周りが色めき立つ。
「おい!おめえ!4位だかなんだか知らねえが、ナニサマだ?」
「第4位、だよ。勝負する?」
薄い金髪の少年は、その儚げな印象を「獰猛な猛禽類」に変えて相手を睨む。
「ひ。い、いや、悪かった。ラプター。今のは忘れてくれ。」 他の少年達も怖気づき、何も言えない。
(ふん。彼女の実力に気づけたのは、主席、姉妹、僕、くらいか。)
ますます興味深い。
(そうだなあ・・・彼女と一戦をしてみたいが・・・実技試験として、順位認定はまだ先だ。もうちょっと彼女のやり方を見ておかないと。 それに・・・)
あの子、僕に「やり口」を見せつけてるなあ。
(ふう。こんな布団に転がり込むくらい、大したものじゃない。子供なら誰もがする遊びのひとつ。)
ヴァイオレットは、その後に構成を編め、の課題だったので、別に転がらなくても突っ込んで構成編めばいいじゃない。
そういう解釈で、布団に倒れこむ。を。やってみせた。それも、前日に見せた「範囲から魔力を頂戴する術式構成」で。
さて、どういう評価が下るか。
今の段階で、は、あの少年には、手札を全て晒す訳にはいかない。もちろん、委員長や、姉妹にもだが。
なので、一番使い慣れて、ハデな術式を披露したのだ。
これが、果たしてプラスなのか、マイナスなのか。
すでに、編入してからそこそこ日は経っているが、とりあえず残り2と半月あまりの期限で、ランキングが決まる試験がある。
今はまだ、手の内を見せるのは早い。
むしろ、相手の手の内を見なければ。
主席。彼女は、火炎術式を緻密に操る。ピンポイントでばら撒く様は、確かに「ファイアスターター」の後継かもしれない。
逆に言えば、対個人ならあまり効果がない。ここを衝く。
次席同列。サララ・ウララ姉妹。彼女達は火炎と氷結術式を操る。が。どうにも少し雑な部分と、二人揃ったコンビネーションだけは絶品。
しかし、片方だけだと、やはり雑な部分があるので、そこを衝く。
第4位。問題はコイツ。
軟弱そうなのだけれど、芯はきっと強い。何故「第4位」などという地位に甘んじているのか?
まずは、そこからが謎。
どう考えても、ミオ主席を出し抜けるだけの技量があるはずだ。
それが、授業を放り出してでも考えに没頭した理由。
ヴァイオレットは、自分の考えが全て正解だと、一旦仮定して次の考え。
全て自分の思い違いだった。
この考えに至る。
「ありえる?」
いまだ12歳とはいえ、学問で最上位になるアルダネスの「学院」ともなれば、そんじょそこらの私塾より、遥かな知識がないと入学すら許されない。
ましてや、上級クラスの特待生ともなれば。
「こういうことか。」
ヴァイオレットは「おそらくは正解、あるいは、それに近い解。」を導き出した。
「アイツは、ミオに委員長、主席をやらせることで、無駄な手間が自分に来ないように。だから、4位なんてヘンな地位に満足というか、まあ、満足かな。
姉妹の相手もできるから。」
じゃあ。
「4位を落とす。簡単、簡単。」
なぜなら。
「あいつは、「4位」がいいのね。なら、わたしがその上になろうが、自分が「4位」なら問題ない。そういうこと。」
正直、姉妹には勝てる自信がある。問題はあの「第4位」だったのだから。
そして、あの「第4位」は、わたしが次席を下に下ろして、次席に成り上がるのを見越している。
その場合、彼は「第4位」から下がることになる。5位はさすがにランキングされないだろうから、おそらくウララを叩きのめして「第4位」を維持するでしょうね・・・
「方針、きまっちゃったわ。」食堂での夕食。
正面のミオが「は?」と声をかけ
「冒険者コース?」とラプター。
シチューにパンを浸しながら、ヴァイオレット「こっちの話よ。それよりラプター君?さっきの実技・・」
「あれ?ヘンな事したっけ?」
「こっち、ジロジロ見てたでしょ?」
「ラプター!」委員長が。
「構成とか、ちゃんとみないと~」のらりくらり。
結局、この辺で騒動?は終わり、ギャースカ喚いてる双子の待つ寮室へ。
「コンビネーションは最高に上手なのにね。」
「こいつらは、ケンカもその一環なのよ。」
いつもの一日が過ぎていく。