目覚ましの鐘と共に朝が始まる。
アルダネス教団付属呪術士学院の女子寮。
黒髪の少女は少し緊張した面持ちで、寝台から抜け出し、洗面台に。
もはやここでの生活に慣れ始めた頃。
「はあ。」(明日か。)
編入から3月目。最初となる試験が、それも順位を付ける実技試験。
おそらく自分は、二人と対戦するはずだが、そのうち一人はかの「第四位」だとウワサされている。
本来なら、編入して初回、それも実力認定試験なのだから、様子見。つまるところ、下位にいるであろう生徒と、中堅所でやるんじゃないかなあ?なんて。
軽い考えだったのだ。
ヴァイオレットは、そこまで気負っていなかったのだけど・・・
「ヴァイオレット・シール。試験には、アイン・ラプターと、クレスト・クレスタと対戦です。ゆめ、精進を怠らないように。」教師から一方的に告げられれ・・
(クレスト?ああ・・あのララフェルの男の子か。確か中堅どころでは、かなりの芸達者らしい。)
そこに
「早くどくにゃぁ!」あ!」と双子からタックルをされ、思わず歯を磨いていた指をノドに突っ込んでしまうところだった。
「ンググー!」と、抗議をするものの、さっさと押しのけられ、「邪魔だにゃーん。」ン。」と、今度は二人で洗面台の取り合いが始まる。
とりあえず、備え付けの水差しから水をなんとか。口をゆすいで、二人の間に割り込んで水を捨てる。
「殺す気か。」正直な感想で二人を睨む。
「明日はカレシと対決にゃー!」「にゃ!」
「ちがうわよ!」
「ホントかにゃ?」にゃ?」
「どういうつもりかしらないけど!貴女達こそ、ミオにコテンパンにされるんじゃないの?」
「フフー。」「ウフー。」「秘策があるにゃ。」にゃ。」
サララとウララは、ニヤけている。
(ウサン臭いなあ)なんて、ヴァイオレットは思うが・・・
しかし、二人共が名実共に次席なのだから、何らかの策があっても不思議ではない。
「ふうん。わたしはもう行くけど。そろそろ鐘が鳴るころよ?」とだけ。
ヴァイオレットは準備しておいた制服に袖を通し、部屋を後にする。
彼女達がそう囃すには、確かに理由もある。
簡単に言えば、ラプターのほうが(多分)自分に興味津々なのを隠そうとせず、接近してくるから。
未だ、恋愛のなんたるかすら分からない自分に、はたしてこれは?と、疑問符ばかりなのだ。
もう2,3年もすれば、結婚する恋人もいるらしいが、信じられない。
自分は、この先結婚するとしても、それはこの「学院」で主席を取って、冒険者として名を馳せる事が出来てからだ。
それまで、色恋沙汰などにかまってなどいられない。
「セーフ。」
ギリギリのタイミングで教室に(走ってきた)着いたにも関わらず、置いてきぼりにした双子の姉妹が「遅かったにゃーん。」ん。」と出迎えてくれた。
信じらんない。
まあ、いつものことだけど。
主席の横の机に着くと。
「あいつら、廊下じゃなくって、壁使うから。ホント、なんとかしないと。」ミオが・・・
「窓に柵でもつけとけば?」とか言ってみる。
「ダメ。それやった。」
「げ?」
「取り付けた日、寮長先生の見回りが終わったあと、その柵を外しに行ってたみたい。犯人は誰か特定できてないけど、絶対あいつら。」
「うわ。」
「ま、明日わたしがあの双子をコテンパンにしておくから、しばらく大人しくなるとおもうけどね。」
「よろしくー。」
「あなたも、ラプターだけは気をつけてね。向こうのララフェルは・・まあ、手の内をバラすのはマナー違反だから、この辺で。」
「ありがと。ミオ。」
「どういたしまして。」笑顔で返す赤毛の少女。
(と、言うことは・・わたしはすでに「雷撃術式」に特化してる、とバレているわけで。
ランカー4人は(いや、3人?)もう手の内をバラしてて、尚且つその地位にいるわけだ。)
考える。考えろ。まだ、今日一日ある。
授業もそっちのけな勢いで、ひたすらに考え続ける。「相手のウラをかくために」
その前に、ララフェル。彼は堅実なやり手らしく、細かく手を出してくる、とは、昼休みに聞いた。この辺は友人関係の成せる技だ。
が、やはり、ラプターは謎らしい。ただ、推測だけど彼は「第4位」にこだわっている。
この事は、誰も気がついていない。単に「トップになれない」的な評価しか無いようだ。
だから、今回はラプターには勝てないだろう。
上位を落とさないことには、彼は勝たせてくれない。
せめて、次席とケリを着けるくらいでなければ。
ただ、ここでラプターといい勝負ができれば、次回は次席のどちらかと勝負できるかもしれない。
「やる気が出てきたっ!」
「は?」ミオは動作を止め、こっちを見た。
「うん。」ウィンク一つ(失敗したけど、練習中なんだから・・・)
部屋に戻り、ヴァイオレットは策を練りつつ、明日の試験の予習を始める。