937セブンス。少女たちの日常的な・・・。(少し過去、 追憶 6

「もーう!」!」
ミコッテ姉妹がブツクサと文句を言っている。
女子寮の寝台備え付けの枕を一瞬のうちに消し炭にされ、寝る時間になると頭を預けたり、抱きしめたりするアイテム。それが無い。
「委員長!」!」
枕だけをピンポイントで焼き払い、炭にしてしまった委員長は無言で寝台にいる。
部屋には未だコゲ臭い匂いがあるものの、窓を開けてあるせいで、かなり換気はできている。

まあ、元はといえば姉妹が夕食の「お肉」の取り合いから始まったワケで、その後、寮の部屋で取っ組み合いなんてしてなかったらこうはならなかったハズなのだ。

「いつもの事よ。」
赤毛の委員長、ミオはその小柄な体ながら「学院主席」を誇っている。
姉妹の方も「次席」というだけあって、確かに実力はありそうだが・・・
「賑やかね。」
寝台で寝転がりながら、姉妹の抗議を聞いている。
二日目にして、このやり取りだと寝付けるまでにどれだけ時間がいるのだろう?ヴァイオレットは少し考え、諦めた。
「問題児」に認定された?自分としては、この姉妹と変わらないと思う。
確かにこの寮では騒がせたワケではないが、学院内ではかなりのハデっぷりだろう。
性格的に、自分は落ち着いてる、と分析しているが、あくまで自己分析。他人からすれば、ひどくキレやすい性格に見えたことだろう。
そもそも、親に逆らって家出同然にここに来たのだから。

「ねえ、ミオ?」
「・・・・」
「寝ちゃった?」
「起きてる。なに?」
二階建ての寝台の上に寝ているはずの「主席」に声を掛ける。向かい側の寝台では、いまだに枕を燃やされた事に文句を言ってた姉妹かと思いきや、安らかな寝息。
「さっきの術式・・・あれって?」
「知りたいわけ?」
「・・・そうでもない、や、知りたいかな。」
「ヴァイオレット。あなたくらいなら読めたでしょう?構成が。」
「火炎術式、広範囲版、じゃないよね?単発の。」
「正解。」
「ただ・・その重ね合わせて、その重ね方が半端なくスゴイんだけど・・・。」
「ん?」
「いや、その。」
「ああ。これね。」構成を編む。
いきなり展開される構成は、単純なもののはずだが、幾重にも重なり、厚みと圧迫感すらある。
「。」無言で返すしかない。
ふっと消えた構成の後に「このくらいの特技がないとトップは張れないわよ?」
「・・・」
「つい、前に卒業していった生徒に、同じような技術を持つ主席がいたんだって。ついたあだ名は、ファイアスターター。
わたしもその名にあやかりたくって、色々試したんだ。実際に会った事もあるけど、どちらかといえば、昼行灯っていうの?ああいうの。
見た目はスゴイ大人しい男子でね。でも、構成の展開とかが凄すぎて、理解が追いつかなくって。わたしも!って、モチベーションにしたんだ。」
「へ~。」
「ヴァイオレット。」
「うん?」
「あなたなら・・・いや。ま、いっか。」
「なによ?」
「ラプター相手くらいは勝ち登りなさいよ。」
「へ?」
「あいつは第4位。その上には、あのバカ姉妹。そして。わたし。」
「なにが言いたいの?」
「本来なら、順位は3位までなの。でも姉妹が同列だから次席なんだけど・・」
「けど?」
「4位が、学院初で認定されたの。あいつ、やるわよ。」
「その・・・ラプター?相手にミオは勝った事は?」
「ある。それじゃなけりゃ、主席を誇れないからね。」
「じゃあ、やっぱりわたしのライバルは貴女じゃない?」
「まあ、あなたの構成は確かにスゴイとおもったわよ。でも、あなた、多分だけど。彼には勝てない。」
「!」
「気を悪くさせちゃったかな。彼、とんでもなく多様性があって、色々使いこなしてくるのよね。なので、特化しちゃった、わたしや、姉妹、あなただと、勝つのが難しい。 
3月後に、認定試験があるわ。わたしは主席だし、あの姉妹と対戦だけだから、手の内わかってるあの姉妹には負ける気ないけど。」
「・・・わたしは?」
「さあ?初回だしね。クラスの誰かと対戦じゃない?」
「そっか・・・遅くまでゴメンね。」
「どういたしまして。おやすみ。」
「おやすみ。」

朝の食堂もそれなりに盛況だ。
「や。」儚げな印象のエレゼンの少年が隣に腰を下ろしてきた。
少し眠たげな瞼だが、なんとか挨拶はできた気がする。
「ヴァイオレット。コイツ蹴り出したほうがいいわよ?」赤毛の少女。
「おやおや。委員長、それはどうかな?昨日、隣いいですか?って聞いたじゃないか?」
「承諾していない。」
どうしていいかわからないヴァイオレットは正面と左隣を見比べて、なんとも言えない表情。

とりあえず、朝食は無事?に終え(姉妹の乱闘はあったものの)教室に。

教科書を取り出し、昨夜予習しておいたページを見ていたら
「や。」と先ほどのエレゼンの少年「第4位」
「あのお?」ヴァイオレットは硬直するしかない。
確かに、恋愛小説なども読んだことはあるが、こういう展開や、自分に当てはめた事などない。
地味な自分としては、もはや混乱しかできない。
目の前の少年、ラプター・・・アイン・ラプターだったか。彼の存在は「標的」としか思っていなかったのに。
そこに。
「どけ。」と委員長が蹴りを少年に。
「うぎゃ!」と少しハデな悲鳴と共に(器用に机や椅子を避けて)倒れこむ。

(確かにこれは、油断ができない。)再認識をする。
(まてよ・・・この人・・)
記憶違いだったかもしれない。
一番最初に教室で名乗りを上げた時に術式でハデにやらかした。
その時に、委員長は素早く机の下にもぐり、姉妹は壁際で防御術式の構成を展開させた。
他の生徒は、反応できたか、どうか?くらいのチェックしかしていない。
だが。
恐くは。
その反応できていない「数」に彼を入れてしまったのかもしれない。

全く動かなかった「彼」を。

反応できなかったのではなく、自分の術式の構成を見た上で「このままでいい」と判断したのだとすれば?
先ほどの避けずに最小限のダメージで倒れ込んだ所までが全て「計算」で成り立っているとしたら?敢えて、自分の構成に気がつかずに、呆けたフリをしてたのじゃ?
「一番やっかいなのが、最初の相手。か。」
独り言を。
主席は確かに淒いが、おそらく「本当の主席」は彼だろう。

ヴァイオレットは、授業そっちのけで「彼」の対策を考え始めた。

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