ドタバタ。
なんだか部屋がうるさい。
固く冷たい廊下の突き当たりに、女子寮の抱える問題児達の部屋がある。
聞けば、まだ11歳(自分より1つ年下)の双子の少女達と。
そして自分。
食堂での夕食を終え、ヴァイオレットは少し物憂げになりがちな感情と共に(決してあのラプターと呼ばれる少年が気がかりなわけではない)廊下を進んでいたのだけれど・・ドアの前で、
中の騒動に気がついた。
ふたりの声は双子なのだから当然かもしれないが、判別がつけれない。
同じく同室の「委員長」こと、ミオならあるいはわかるかもしれない・・・
しかしながら、まだ「学院」二日目には、次席同列の彼女達を見分ける事は、ホクロくらいだ。
それすら見分けが付かない男子生徒が告白してきて、姉妹揃って爆笑なんてエピソードもあったらしい。
しかも、いまだに見分けがついてなく、姉妹が交代でデートまがいの事すらしているという。初日の夜に「爆笑エピソード話してあげる。」る。」と聞かされたのだ。
まったく、トンデモな「問題児」姉妹だが、なぜか憎めない。見た目がコケティッシュだからだろうか?
う~ん。ひるがえって、自分はどうにも地味だ。エレゼンということもあって、3人の中では一番背が高い。
そろそろ胸も大きくなればいいのに、なんておもってはいるけど、もうちょっと先の話かも知れない。
黒い髪に、やや白めの肌。服もそれほどオシャレではないかも知れない。とはいえ、学院の中では制服なので、紺色のブレザーとスカート、白いブラウス、赤いリボンタイ。
あえてオシャレを制服でするなら、スカートを短くするくらいだが・・(そこまで色気に目覚めているわけもなく)
とにかく。
目の前のドアの向こうで何が起こっているのか分からないが、入らないワケにもいかずに。
「どうしたの?」委員長、ミオ・メーアエンサが後ろから声をかけてきた。
「い、いやその・・」答えに詰まる。なにせ、この状況だ。
隣に立つ赤毛の少女。ソバカスが浮かぶ顔は同性からしても愛らしいと思える。同い年ながら、自分の肩くらいしかない身長でも、放つオーラ?のような気配が漂ってくる。
少しだけ気後れしながらも、少し前に部屋に着いたとき、中で姉妹喧嘩してそうなやり取りが聞こえた、とだけ。
「ああ・・・もう。いつもの事よ。あいつらは。」
いきなりドアを開ける。ノックもなしに。
そして、騒音の元の二人に「アンタ達っ!!ウルサすぎっっっ!!!!」と大音量で叫ぶ。
いや、一番うるさいのは、委員長でしょ?なんて考えながら・・・
ヴァイオレットはミオに続いて部屋に入る。
2階建て寝台を壊しそうな勢いで取っ組み合いをしていた姉妹が、その場に展開された構成を見て凍りつく。
「い、委員長?これはにゃ。」にゃ。」
ヴァイオレットは「その返事、聞いたら術式発動するわよ。コレ。」とだけ。
緻密に編まれた構成。この歳でこれだけの術式構成を編めれるのはさすがの主席か。
暴発しかねないクラスの構成を瞬時に編んだ主席「ミオ委員長」は、手を振り払うと、その構成を霧散させた後。
「毎度毎度、いい加減にしないとホントにブチ込むわよ?」とスゴんで見せる。
「ひぃ!」ぃ!」双子が身を寄せて首を激しく振りながら、謝罪と言わんばかりに尻尾を丸め、耳をペタンと伏せている。
「全く、油断もスキもあったものじゃないわね。」と腕を組み、ツン、と首を傾ける。
やったあ、お許しだ。だ。 な姉妹に再び閃光のような構成が編みあがる。
「ひゃあ!」あ!」
「新入りの子が部屋の前で固まるような騒動は金輪際ゆるさないからね?」
「はーい。」い。」
どこまで本気かわからない返事の二人を尻目に、ミオは振り返ると。「どうぞ。」と部屋に入るように促す。
「ああ、言い忘れてたわね。水浴びしたいでしょ?寮長先生に許可をいただいて、1階の奥にあるドアの先ね。タオルや洗剤は自前だけど・・もってる?」
「あ。そういえば・・」衣類しか持ってきていない。
「購買部でも買えるけど・・夕食の後、すぐに閉まっちゃうから、今は微妙な時間ね。いいわ。わたしも行きたいから、貸してあげる。でも下着は自前でね。」
微笑む彼女は、可愛いとおもった。
それなりのスペースのある水浴び場は、数人の生徒がいたが、二人揃って入ると奇異の目というか、好奇心か。
「あ、ミオさん!」と挨拶の声もかかり、その返事に丁寧に応えながら、自分の手を引いていく。
「ここのスペースなら、一人で使えるわ。」仕切りの付いた空間。少女一人なら十分なスペースだが、少し自分には狭いかも?なんて、ゼイタクな考えも・・「うん。ありがとう。」
「わたしは隣にいるから。何かあれば声をかけて。洗剤は先に使ってくれていいからね。」
「うん。」
水浴びを終え、部屋に戻る道すがら少し聞いてみた。
「あの。」
「どうしたの?」
「この学院って、卒業するのに何年かかるんだっけ?」
「は?あなた・・知らずに編入してきたの?」
「あ・・うん。親の反対を振り切って、親類達の協力で・・・なんとか・・・」
「最初に説明を受けたでしょう?もう。」呆れ返った主席。
「あ、うん・・・その・・・」
「いいわ。説明してあげる。一般クラスは3年。上級クラスは望めばさらに2年のカリキュラム・・授業が受けれる。その代わり、呪術師ギルドに必須で参加だけど。」
「ギルドに入るメリットって?」
「冒険者の仲間入り確定、って事。それなりの実力を求められる冒険者だから、そこらの町民が「ハイ明日からキミは冒険者だよ!」って事はありえないわ。
少なからず、下積みをした事を実績で示して、やっと「パーティ(仲間)」入りができる。その下積みを効率良く「学院」がしてくれるの。それがギルド(組織)に入るって事。
もちろん、ギルドに参入する以上、ギルドの「お使い」みたいな仕事を回してくるけど。」
「へ~。」「ちょっとは自分で調べなさいよ。このくらい。」
二人はまたしても取っ組み合いをしているミコッテの双子の待つ部屋に。
ヴァイオレットは、もうこれが「日常」なのだろうと、半ば諦め、黙って寝台に座り、髪を乾かしながら、書籍に目を通す。この騒音も室内の音楽だと思えば、いいかもしれない。
狂詩曲(ラプソディ)めいたものだが。
(ボクのせいじゃない!)(サラ!いい加減になさい!)(委員長!ボク悪くない!)(いいから手を放しなさい!ウラ!)(委員長!ボク悪くないんだって!)
(いいから、二人共離れなさいっ!)(えー!)!)(いい加減にしろ。)強烈な構成が編まれていくのが分かる。
漆黒のオーラ、というよりも、真紅のオーラとでもいうくらいの気配が立ち上がる。
これには正直ひるんだ。ヴァイオレットは「主席」が「主席」である所以を知った。
その上でやぶらなければならない、とも。己にもう一度刻み込む。
「紅蓮の刃を。」一声で二人の枕が消し炭になって。
燃えカスすら残さず。