「てなわけよ。」
淡いグレイのクセ髪を肩まで伸ばした少女。大人の女性の雰囲気が出てきているが、まだお相手はいない。
ある意味、仕方ないか、なんて、隣の薄いグリーンの髪を長く伸ばした少女は思う。
(なんせ、魔女の血統、二つ名は、自分と二人でつけた「クリミナル・ジャスティス(イカれた正義)」 こんな少女に釣り合うような男性がそうそう出てくるはずもない。
それに、自分もこの少女より二つも年上なのに。いまだ相手がいないなんて・・・)
少女の話は続く・・・
「あーつかれたー。」わたしは食堂で夕食を。
トレーに乗った食事は、上級、一般生と変わりがないものの、多少のオネダリはできる。
「サラダ、多めでお願いしまーす。あ、このお肉は少なめで!」
「お嬢ちゃん、ウワサの新入りだね。ちゃんとお肉も食べないとダメだよ。」と返され、サラダだけが大盛りになって渡された。
午後の授業、実技。
終わって、しばらく休憩したあと食堂に。
ちらりと視線を。
何やら、またケンカでもしているのか、騒音を聞きつけ、そっちに視線を向けたら・・
双子の問題児が大盛りにしてもらった「お肉」の取り合いでフォークでの激闘を繰り広げている。
はぁ。ヴァイオレットは見なかったフリをして、席を探すと、手招きしている赤毛の少女。ミオ。
仕方なく向かいの席に座り「どうして?」と単刀直入に聞いてみた。
「あなたの居場所、まだわからないでしょ?わたしはココがいつもの席。誰も近寄らないからいつでも空いてるわ。」パンをかじりながら。
「そうなんだ?」意外な答えに真面目な表情で委員長が
「たぶん、煙たいんだろうね。」まだ12かそこらの歳の女の子が言うには世知辛い事を。
本来なら、チヤホヤと持て囃され、憧れる男子もいるだろうに。
ヴァイオレットは、酒に酔い、そんなことを言っていた。
ターシャは「もったいないよねー。」
「こう見えてもね。学年主席って、ましてや、学院委員長なんてオマケまで付くと、色々あるのよ?」サラダを頬張る。彼女もどうやら「お肉」は控えめなようだ。
「ふうん。」
あの双子がやらかした「事件」で「委員長権限での夕食抜き」は実は無かった事になっている。
彼女本人が教師に言わなかったのか、取り下げられたのか。
だが、彼女の態度や、言動、行動を見ていれば、そもそも「言わなかった」が正しいだろう。
むしろ、それを目撃していた生徒達に「黙っていて。」とお願いしてまわったに違いない。
ただ、それだけでは足りなかったせいで、双子の謹慎処分があったワケだ。
「問題児の扱い、ってタイヘンよね?」そっけなく聞いてみる。
「あなたもそうなのよ?この問題児。」そっけなく返事される。
やっぱりか・・。
サラダをパクつきながら、周りの視線も感じる。
さすがに、講堂に居た全員から生体電流を拝借して雷撃術式を連打したのはもうバレている。
貧血を起こして倒れた生徒も数人いたほどだ。
ほとんどの生徒が、炎系や、氷系の術式なのに、自分だけが、いや、あの男子生徒は三種類を使い分けるように撃ってたっけか。「第4位」
目の前の赤毛の少女に問いかける。
「彼、なんで4位なの?」
サラダから、実は好きなのでは?と疑いたくなるような勢いで食べる「お肉」から手を戻し、ナプキンで口元を拭う。このあたりの仕草はいいとこのお嬢さんみたいなのに。
「そんなに気になる?」
「うん。」
「どうして?」
「のし上がるために。」
「そう。じゃあ、言っておくわ。彼はね、堅実で、おそらくだけど。一番、冒険者向きだと思うの。でも、学院としては「即戦力」を期待しててね。
わたしみたいな、もしくはあの子達みたいなハデなのをアピールしたいってワケ。そして、あの双子を抑えて置けるのは、同じ女子寮のわたしだから。
ランキングなんて、そんなものよ。わたしだって、あの双子を抑えてられるのは、委員長ってだけだから。」
「そっか・・・。」
少し冷めてしまった肉料理に手を付ける。
なんだか、味気ない・・・・
「やあ!」
いきなりヴァイオレットの隣に座る男の子。
「へ?」
お肉を飲み込みそこねて、ノドを詰まらせる。
ぐ!
呆気に取られた赤毛の少女は、4位の男子と新入りの少女を見比べて、明らかにノドを詰まらせた少女の介抱に向かおうと席を立つ。
「大丈夫。」と4位が言う。
とんとん・・とんとん・・
んぐっ
手で首から背中に振動を与えて飲み込ませたようだ。
「し、死ぬかと思った・・・って!あなたねえ!」
にこやかな少年は「やあ。さっきの実技。すごかったね。最初に見た雷撃なんかより。」
淡い金髪が照明に映えて、蒼白ともいえる肌を際立たせる。
「ラプター?何しに?」赤毛の少女、ミオが問う。
「いや。単に好奇心だよ。新参でいきなり「問題児」認定の彼女のね。」
「この子はわたしが責任を持って面倒みるわ。あなたはさっさと向こうに行きなさい。」
「わかったよ。委員長殿。」席を立つエレゼンの少年。
「次からは・・相席してもいいかな?」とだけ言って後ろ手に手を振る。
動悸が収まらない。
ヴァイオレットは飲みくだした肉よりも、あの少年に背中を、首すじを触られた事が心をかき乱されている。
「・・・ット?」
なんとか返事はできる。
向かいの赤毛の少女は心配気な表情で「大丈夫?」と言ってくる。
「うん・・。」
そっか。少し勘違いしてたのかな。主席って、委員長って。こういった問題児達に「上が居る」って事を「教える」ために居るんだ。わたしじゃ・・・できないのかもね・・・
残った食事を無言で終え、神に感謝の黙祷を。そして部屋に戻る。
先に食事を終え(あの量を)双子はどっちがお肉をたくさん食べたかでケンカをしている。
そこに、少し遅れて入って来たミオが「アンタ達!」と怒声を。「ウルサすぎっ!」
いや、一番の大声なのは、おそらく委員長だよ・・・
ヴァイオレットは、おそらくコレが日常なのだと、なんとなく理解した。