豊かな潮風に吹かれ、二人は・・
「ビスマルク」
リストランテとしても、調理師ギルドとしても、エオルゼア一番を誇る名店。
そして、夕暮れを過ぎメインの魚料理やサラダも終えて、「実はメインはコッチだ!」と主張したくなるような麺料理「パスタ」が出てきて。
「ねえ?」夕暮れの最後の明かりに髪を赤く染めたような女性。やや、上目遣いに対面に座る男性を見ている。
「どうかした?」ライトブラウンの髪が店内の明かりでややぼやけて、黒くもあり、ダークブラウンにも見える。
「その・・・」少し、もじもじしながら赤髪の女性が・・・
(う、そろそろ切り出すべきかな・・)傍らの小箱を見る。
その小箱の中には、契りを約束するための大切なアイテムが・・しかし、タイミングというのは難しいものだ。
ミコッテの青年リガルドは、本来ならもう少し見えない場所に置いておくべき、だとは思ったが・・。
やはり、その。万が一にも渡し損ねることがあれば、今日のこの一席を段取りした意味がなくなってしまう。
目の前の女性、ミーランはそれとなく視線を小箱に向けていたのは知っているが、クチには出さない。こちらからのアプローチを待っているのだろう。
しかしながら。
それなりに心の準備というか、想定していたシナリオがあるわけで。
今回に関しては、最後のドルチェ(お菓子)の時に言葉として紡ごう、と思っていた。
が。
上目遣いにこちらを覗き込んでくる彼女を目の前にして、はたしてダンマリを決め込めるのか、どうか?
まだ手付かずのパスタにフォークを入れつつ、無駄にクルクルと回してみる。
海鮮を主体にしたパスタの海で泳いでいく具材達。
そこに。
「コレ、どうやって食べたらいいの?」
一瞬、いや、もう少し。空気が止まった。
「あ、その?」なんとも間抜けな答えしか喉からは出なかった。
「これって、貝殻だよね。どうやって食べたらいいのかな?」
「・・・・」
「あ、食べれないよね?やっぱり。でも、手で外したりしちゃダメっぽいよねー。」
エレゼンの女性は森の国、グリダニア産れで、この手の海鮮料理はあんまり馴染みがない。
確か母君は昔は傭兵をやっていたらしく、各国を旅していたという。なので、料理にはかなり自信もあるらしく、実際に頂いた時には「さすが!」と舌を巻いた、というか、舌鼓を打ったものだ。
しかしながら、ご息女はあまり世間には出歩いていない(冒険者になるまで、故郷から出たことがないらしい・・)ので、確かにこういう場でのマナーなどはどうもわからない事が多々あるようだ。
「これは、こうすればいい。」スプーンとフォークを器用に扱い、貝殻を外してあげる。
(本当は、スプーンを使ってパスタを食べるのは子供くらいなんだけどな・・)でも、そこはそこで可愛げもある。つい、自分もスプーンを使う。
パスタをそろって平らげ、ナプキンで口元を拭うと、ドルチェが出てきた。
「クリームチーズをたっぷり使ったタルト、季節のフルーツソース添えでございます。」
給仕の男性が(わかってますよ)とアイコンタクトしてきた。
このメニューは、かつて自分がビスマルクで働いていた時に考案して採用されたものだ。
優しく彼女を見る。
もはや、自分ではなく、綺麗に盛り付けられたドルチェに目が釘付けだ。(この話は、お預けにして、後日楽しもう)
「いっただきま~す!」
自分より少し年下の彼女は、今までの食事でお腹が一杯、な事を言っていたが、そこは女の子。お菓子には目がない。誰かの格言で「お菓子は別腹」なのには、確かに合点がいく。
そして
その時がやってくる。
タルトを綺麗に平らげ「ごちそうさま」と無邪気な笑顔の彼女に。
「ああ。満足してくれたみたいだね。」尻尾が少しばかり緊張でこわばる。
「その、ね?」彼女が先に切り出してきた。
「!?ど、どうかした?」つい、上ずった声になったのは仕方がない、と言えるかもしれない。
「その小箱、さっきからチラチラ見てるけど・・」
完璧に上ずった声で「いや、何でもないって。」
「ふうん。わたし、てっきり前に座ってたお客さんの忘れ物かと思って。給仕さんに声かけようかな、ってタイミングを測ってたんだ。」
心の中でハデにズッコケるリガルド。(なんだそりゃ!)確かに彼女は天然と言われるくらいにオトボケだが・・いや、そこに癒しを見つけたのは確かだ。
「いや。これは。」今だ。
真摯な表情で伝える「君のために用意した、いや、俺達の、だ。」箱を開ける。
ワンオフで作られたリングが対になって並んでいる。
「これを受け取ってほしい。意味は・・わかってくれるかな?」
目の前の彼女は呆然として。でもそれは一瞬で。「はい。」と頷いた。
(最高に綺麗な笑顔だな)とリガルドはリングを彼女の左手に。
「一緒に、これからも。一緒に歩んでいこう。ミー。」
「はい。」
こくりと頷くエレゼンの女性。
(やっと言えた・・)ペタンと耳と尻尾が緊張感に耐えかねて・・
「マスター、もういっぱい。」黒髪の女性はもう何杯になるか・・ラムを要求する。
「おいおい、大丈夫かい?」
「いいの。そろそろ、あの色男が相棒をメロメロに口説き落として、な」 「タイミングらろうから。」 虚ろな目線だが、満足な表情で「かんぱーい!」 「ああ。乾杯!」付き合うマスターとエレゼンの女性。