913セブンス。布石の一歩

「まずは挨拶は取り付けた・・・か。」
リムサ・ロミンサにオフィスを構える「アリティア・グループ」
産業から、物産、サービスに学校まで抱える、一大企業にと発展を。
親族企業、などと他の企業からは揶揄されるが、実際に肉親といえば、社長の実弟のみ。
「ローウェル」という、家名を重役に与えているため、そんな根も葉もない中傷がされている。
そして、その「家名を頂戴した一人目」であるところのミコッテの女性、セネリオ・ローウェルはウルダハにあるという工房に来ていた。

「エリス!いるか?」ここは、アリティア物産。貿易やその他資材搬入などでの中継を主な仕事としていて、取り仕切る社長はセネリオの実妹(双子)のミコッテ。
「あ、あいっ!」少し姉よりは愛嬌のある声が返ってくる。
「どうしました?せねっち?」
「何故、業務中の言葉使いと、普段の呼び方が混ざるのか、問いただしたいところだが・・この際、まあいいとしよう。かなり、重要な案件と言える。」
「ほへ?」
コンコン。ノックの後に失礼いたします、とモスグリーンの髪を整えたエレゼンの女性。
「お茶をお持ちしました。では。」
「いや。待ってくれ。イドゥン。」セネリオが引き止める。
「はい?」緋い瞳を不思議そうに。なんせ、本社CEOの懐刀であるところの女性が引き止めるには、それなりの理由があるのだろう、察して身を正す。
「君には辞令が下りる。これは決定だ。後ほど詳しく話すので、しばらくはこの場で話の概要を一緒に聞いてもらったほうが手間も省けていい。
もし、引き受けたくないならそれでも構わないが、その場合はどういう判断が下るかは、私の一存では何とも言えない。いいかな?」
「了解しました。」彼女は一礼をして、その場に立ち。「いいよ。どこでも座れば。」の声に「ありがとうございます。」と、腰かける。


「概要はこうだ。」セネリオの説明が始まる。

「その・・セネリオ筆頭秘書、要するに私には、その新規事業の会社の社長を任せて頂けると?」
「ああ。そういう辞令だ。」
イドゥンは、顔色を赤くしたり、青くしたりと忙しそうだ。
「せねっち・・わたしは・・?」
「お前は、今まで通りでいい。ただし、秘書を引っこ抜くからな。誰か新規で雇用すればいい。
それと、資材の搬入と運搬の40%をこっちの分に回してもらう。現状維持は難しいだろうから、その点のやり取りも任せる。」
「え~!いきなりっ!?」
「まだ事業計画だけだ。明日から、というのでもない。ただ、計画書は近日作成するように。必要な物はこちらで指示するから、後は・・・・私の仕事次第だな。」
「え?」
「今夜、とある場所で会合を設けてある。その時におおまかなプランを相手とすり合わせる。
ある程度のプランは先方にも依頼してあるので、後は取捨選択と合意だけだ。まあ、向こうは乗り気なので、破談にはならんだろうからな。」
「あの・・・?せねっち?」
「なんだ?仕事の時はその呼び方はするなと言っている。」
「もしかして・・・機工士シドさんと?」
「他に誰がいる?ついでに言えば、現時点でその名を出すのがどれほど危険か分かって言ったんだろうな?」
「ひっ!ごめんなさい!」エリスの尻尾が縮こまる。
「イドゥン、聞いての通り。この会話は誰にも漏らすなよ?辞令を断り、退社する事になってもだ。もし、漏れたら・・・」首に親指で線を引く。
「・・・はい。あ!その・・ありがたく、拝命させていただきます!」
実戦経験もあり(かの大戦をくぐり抜けた社長もいるのだ。ついでに、暗殺者にも顔が利くという。)その脅しが冗談では済まない事くらいは理解できている。
イドゥンは引き攣りながら。(怖すぎですよー・・・・)
「さて、簡略ながら辞令の件は済んだわけだ。さっそくだが、イドゥン、最初の仕事として、まず社を立ち上げなければならん。
ただ、その前提として件の工房との交渉を成功させないとな。それと、秘書と、その見習い・・・」
こめかみを押さえ・・「まあ、いい。見習いも付ける。彼の才は今回に於いては十分役立てられると、私は思う。・・・たぶん。」
(たぶんって言ったー!)イドゥンは引きつったままの表情で「はい!」としか答えれなくて。

席を立ち、「それではそろそろ時間、か。」窓の外の日差しで時間を計る。
夕暮れも近い、黄昏時。
「イドゥン。君も同席してもらう。エリス、人事に関してはレイに一報入れてある。相性の良さそうなのを選べ。では行こう。」


工房にて。
「親方、今日はデートなんですよね!」ララフェルの技師がゴーグル越しに。
「ばか!大口の仕事の話だぜ?ウェッジ!先方さんに失礼の無いようにな!」ルガディンの青年が同僚を叱りつける。
「ビッグス、ジョークの一つも言えないとモテないっすヨ?」
「黙って仕事をしろ。」
「まったくよ・・・」髪を紫色に染めたミコッテの女性、カレン・ルイが呆れたように二人のやり取りに。小さいハンマーで、鋼板の継ぎ目を丁寧に整えながら。
「へい、姉御!」「ッス」
ふう。
「お前ら見てると、あの工房でのやり取りは、確かに面白おかしかったな。」
年配のエレゼンの男性がタバコをふかしながら、レンチを大小入れ替えながらボルトの調整をしている。
「アイツもいればね・・」カレンの言葉に、全員が押し黙る。
シックスと名乗っていた少女。今はもう女性と言ってもいい年頃だろう・・・
「ま、アイツの事は忘れようや。今はできることだけに専念だ。」エレゼンの男性、マゴロク。


一室にて。
「それでは、全面的にご協力頂けると。」セネリオは嬉々として。
「ああ。こんな面白くって、オカシイプランはなかなか無いからね。」ヒゲの機工士。
「それでは、お世話になります。実務では、わたしが担当させていただきます、イドゥン・ローウェルです。改めまして、よろしくお願いします。」
長身のエレゼンの女性が縮こまるように。
「ああ。綺麗なお嬢さんに囲まれて、俺も嬉しいよ。」
「恐縮です。シド殿。また具体的なプラン等は「アリティア物産」に請求して頂きたい。設計に関しては、我らは無知ゆえ。しかしながら、物流などはお任せ頂きたい。」
「ああ。わかってるさ。俺はただの技術屋だからな。」
「ご謙遜を。」
「何、本当さ。それに、例の件での借りもあるからな。十分、役に立てるよう頑張るさ。」
「それでは、よしなに。イドゥン!」
「はい!この後、皆様に宴席の用意がございます。ご都合がよろしければ・・」
「そうかい、気が利きすぎだが。では、甘えるとしよう。おい!カレン!」
「は~い?呼びました?」
「今の仕事は?」
「ええ、8割くらい、ですか。」
「この方達が、お食事にとな。」
「にゃ!マジですかにゃ!」
「いいから、みんな呼んで来い。」
「にゃん!」

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