914セブンス。次の一歩

「いやあ、社長、いや、CEOとお呼びしたほうがいいかな?」
もう何度目の祝杯だろうか。
程よく赤ら顔になっているヒゲの機工士。
「いやいや、照れますな。」
黒髪のミコッテの女性。

クイックサンド、ウルダハ随一の酒場にて、というわけじゃない。
もう少しこじんまりとした酒場。
なぜなら、クイックサンドには「サウザンキーパー」なる女将、モモディが。
彼女に情報を売り買いする連中からすれば、このメンツはかなりの儲けにつながるだろう。
もちろん、情報価値は「速度」なので、我先に詰め掛けるに違いない。
そんなやり取りでボロ儲けをあのララフェルの女将にやる訳にもいかない、というか、すでに売ってある。
筆頭秘書であるところのセネリオが「実は・・・」と、申し出て今の酒場をキープ。
そして、実務としてこの街の郊外にて「施設」をなどと、搦手で女将からかなりの額を「情報代」として受け取ったのだ。
もちろん、女将はその情報を売って儲けていることだろう。
しかしながら、それは「人手が要る」この仕事に際しては必要なことで、利潤はさておき、需要と供給のバランスの取れた非常にいい関係だとも言える。
そして、砂蠍衆にも牽制、もしくは挑戦の狼煙ともなる。

「ここからが私の出番、か。」
グレーの髪の筆頭秘書セネリオ。
彼女はさすがに最初の乾杯までは付き合ったが、それ以降はカクテルグラスに水、そしてそれっぽく見えるようにチェリーを沈めたグラスで。
「50%(社長は半分デキ上がっているしな)か。」
(まあ、今夜はメンバーの懇親会だから、そうそうハメを外したところで問題はないだろう。酒場自体貸切なのだから。
それと、この場を提案、実行できたイドゥンにも評価をしなくては。)

実際には、彼女の行きつけの酒場なのだが・・・
リムサ・ロミンサに住まうセネリオはそこまではさすがにわからない。

「は~い!一発芸やーりーま~すニャ!」
髪を紫に染めたミコッテの女性。カレン・ルイ。
隣に座る、今回のプランに思いっきりノせられた、茶色い髪のミコッテの女性の背後に。
「こうすれば、ニャンコちゃんはおちるニャー。」
背後から優しく抱きしめ、ピンと立った耳に息を吹きかけ、尻尾を優しく握る。
「ぎにゃああああああああ!」
悲鳴が轟く。
エリスと一緒に来ていたエフェメラは、いきなりの攻撃に悲鳴を上げ、椅子を蹴倒し、逃げ場を探す。
背中の弓を構える事すら辞さない様子に、皆が「おいおい、やりすぎだろ。」とカレンを攻める。
「えへ!」と悪気が全くない彼女に、爆笑が起こる。
エリスですら、笑い転げているので、エフェメラは呪いの視線で睨みつける。

(まったく。困ったメンバーだな。事業プラン的にはコレで問題はない・・・はず。あるとすれば、砂蠍衆の老害共か。こっちの抱き込みは明日から・・では遅いな。いや・・)
一つのプランがセネリオの頭の中に。
(コレを重点的に進めるか。せっかくのコネだ。)

「では!」グレーの髪は姉と似た感じだが、セリフ自体はどうにも軽い。そんなミコッテの女性。
「わたしも一発芸をしまーす!」エリスの一声に。
「ヤメて下さい!」と「元秘書」の一撃が彼女の後頭部に炸裂する。
おおおお!と歓声が。「ナイスツッコミ!」「さすが!」等など・・・・

まったく・・エリスのやつめ。ワルノリにも程がある。

そこで一人の少女、いや、女性が
「呼んだでしょ?」
セネリオの肩を叩く。
「え?」
グレイの髪を尻尾のように後ろで束ねた彼女は。
「天魔の魔女」「迷惑来訪者」「人災」さらに増えているらしいが・・・
その二つ名を知る者なら、見間違えようもない。
レティシア・ノース・ヴィルトカッツェ。
いつの間に居たのかわからない。確かに、最初にこの店に入った時にはいなかったはずだが・・
「面白い話、ありそうじゃない?」にっこり。魔女が聞いてくる。
もしかして・・
社長を見やる。彼女は先の演目で腹を抱えて笑い転げているので、確認のしようもない。
しかも、魔女はしっかりワイングラスを傾けているあたり、ついさっき、とでも言うわけでもなさそうだ。
「いつから?」つい。聞きたいワケでもないが、まさに今。思いついたプランと同時に、いや、そもそも、本当に最初からいたのなら・・わからない事だらけだ。

「んー?社長さんからさ。飲みに来ない?なんて誘われちゃってねー。行くしかないでしょー?っで。乾杯の音頭の後から参加させてもらったのよ。
やっぱ、遅れてくる以上は「場」の空気壊したらマズイでしょ?」少女のような笑顔で。
ぐ。
これには、確かに一本取られた、いや、彼女相手に一本取るのは至難の技だ。セネリオは次の一手を考える。
「女王様に一声、って狙いなんでしょ?」魔女の一声
図星を突かれて、狼狽える。
「話が早いですね。さすがは魔女殿。」牽制の一手。
グラスのワインを一口。
「ナイトノッカー」が一言。「言っとくけど、あたしはナナモ様とは面識ないわよ?」
「!」
「ま、アテが無いわけじゃないけどね?」ニヤリ。
完全に主導権を取られた。しかし・・
「そのアテとは?どういったパイプなのですか?」
「内緒。」少女らしくない、妖艶な笑みで返す「魔女」
「金銭的なやり取りでもって、お答えしてもらえないのは承知しております。少し、考えるお時間を。」
魔女は(この子は見込みあるわ。このリドルの解にはすぐにたどりつけそうね・・)にっこり。

「貴女は、ラウバーン局長とのコネがある、けど、女王陛下とは直接でもない。しかし、カヌ・エ・センナ様とも繋がりがあって、更にメルウィヴ提督とも。
となれば、国民の安全と幸福を願う女王様にも口利きできるのでは?」一石を。投じる。
「そうね。及第点。ま、あたしなりに頑張ってみるわ。でも・・砂蠍衆ね・・面倒だわー」
「あの老害共には、こちらの方からも手を打ちます。まあ、「蜜」を吸わせれば連中は文句を言わないでしょう。」
「その蜜の「濃度」を減らすためにあたしに白羽の矢を立てた、ね?」
「・・・ご推察の通りです。」
「ふん。しょうがないかあ。社長や貴女には借りもあるしね。」満面の笑みのレティシア。
その笑顔にグラスを落としそうになりながら・・
「感謝します。」としか、セネリオには言えなかった。


「よーう!俺の一発芸!いくぜえ!」テーブルに乗ってシド。(品が無い、とは女性陣)
ホルスターに手を添え・・
並べた空き瓶3つに視線を。
一瞬で抜き放たれる銃身。
パン。
一回の銃声。
だが。
瓶が同時に割れている。
2本。
残り一本はそのまま。
「あれ?おかしいな?」
ゲット・オブ・スリーショット。
3発を同時に撃ち抜く技術。
「親方、酔っ払ってるから~ッス」「素面でしてください。」「もう。親方らしいわ~」「見ちゃいられん。」「ダメですね。」
ララフェル、ルガディン、ミコッテ、エレゼン親子の技師達がやんやと。

なにしてんだ・・・ミコッテのCEOも呆れ顔で。

「まあ、ドンチャン騒ぎ、結構結構!もっとやろうぜ!」ポニーテールが揺れる「迷惑来訪者」

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