「社長。一つ質問があります。」
海運の都リムサ・ロミンサにあるオフィス。
元は鉱石の発掘や、運送をしていた商社「アリティア産業」その社長室には二人のミコッテの女性。
一人はデスクで書類に目を通しながら、サインを続けているこの商社の社長兼最高経営責任者(チーフ・エグゼクティブ・オフィサー)
「なんのことかしら?せんちゃん。」
黒髪のミコッテは傍らで次々と書類の整理をこなしていく筆頭秘書に。
「とぼけないでください、社長。」言いながらも手は休まらない。
代わって、手を止めた女社長は、グレーの髪の秘書に横目で・・・
「サボらないでください。まだ書類の半分も片付いていません。」
冷静な声で書類の整理を続けながら「この件はどういった理由で予算の計上をされたんですか?」と、一つの書類。
十数枚に及ぶその書類には、膨大な予算と、企画、資材などが書かれている。
そして、企画立ち上げの証人欄には「マルス・ローウェル」のサイン。それも「承認」のサインも。
「あ、ああ。それね!ちょっと、思いついてさ・・・」
「ご自身で企画立ち上げ、さらには、そのまま承認のサインまでしておいて、私にはなんの報告もありませんでしたが?」
筆頭秘書セネリオは柳眉を吊り上げ、社長を睨む。
「そして、コレは一体どういう事なんですか?説明義務があると思いますが?」
手をやっと止めて、先の書類を社長の目の前につきつける。
「う・・」
社長の顔が少し引き攣りながら・・・
「そ・・・その・・・」
筆頭秘書は書類に顔を添えるようにしながら。
「この、「ガーロンド・アイアンワークスとの交渉には、セネリオ・ローウェルをあたらせる」なる文面はどういったおつもりで?私には辞令や、相談、一切なしなんですが?」
「あ、いや・・」
「出張や、出向というのであれば、私は一向にかまいませんが、一方的に承認されている件については抗議をする権利もあるとおもいますが?」
「あ、あは、あははは・・・」
「笑って誤魔化すなんて、子供のすることです。どうなんですか?」目に殺気すらこもっている。
先の騒動で左腕を負傷した彼女が、ようやっと職場に復帰して来て、書類整理ではない大仕事を自分の知らない間に決められていた、
というのは、相当に、いやかなり、頭に血が上ったであろう事は想像に固くない。
「せ、せんちゃん?」
「ええ。行きますとも。書類には承認のサインもありますし、事業内容も明確に書いてあります。
それが例えどんな夢物語でも、可能な限り努力を惜しむつもりもありません。」
「うふ。」にっこりな社長に
「ですが!何勝手にやってんだ!」腰に剣を吊るしていれば、何時抜刀してもおかしくない位の気迫で。
「・・・・!」声もない。
「大体、なんなんですか!?この膨大な出費と、各事業を巻き込んで、尚且つこのマージン!こんな採算度外視な企画、勝手に通してるんじゃねえっ!」ついにキレた。
「ま、まってまって!せんちゃん!これは、あくまで企画書だからさ!」
「いいでしょう。言い訳する時間くらいは待ちますよ?」
「そのさ。この企画、本当の所は彼、シドとのパイプを確固たるものにするため、なんだよ?」
「・・・・ほう。」
「ついこの前に、黒猫の勧誘もあったじゃない?」
「交渉決裂、でしたよね?」
「この先にそういった不安を残すよりもさ、先手を打って彼とのパイプを作っても損はないでしょ?」
「意図は分かりましたが。なんです?この膨大な予算とマージン・・砂蠍衆・・ウルダハですか。」
「ウルダハ郊外に、別荘地があるじゃない?そこの富裕層相手の遊技場建設、って事にして、それなりの収益は見込めると思うんだけど・・・」
「それで、連中が一口噛ませろ、と?」
「そうなのよ。あの老害共、金にはうるさいのよね・・・」
「なるほど。シドの工房との連携協定の話し合いの後に、私にその老害共の相手もさせようと。」
「・・い、いや、それは・・ちょっとしたコネもあるから、大丈夫かな・・?」
「どうせ、魔女殿でしょう?彼女なら王宮に顔が利くとか?」
「(図星・・)たぶん・・大丈夫・・・・だと・・・」
「・・・・いいでしょう。しかし。役員報酬に特別報酬を上乗せしていただきますからね。」
「。。。。はい。」
(まったく。せんちゃんったら。世知辛くなっちゃって・・・)
(まったく・・あの社長の先見とも、無謀とも取れる行動にはまいったものね。)
パールを取り出すセネリオ。
(すみません。アリティア産業のセネリオと申します。シド・ガーロンド様ですか?)
(ああ。先日はお世話になった。どうかしたのかい?)
(実は、折り入ってビジネスのお話が。)
(・・武器、兵器関連ならお断りだが?)
(いえ。ウルダハ郊外に・・・)
(ほう!それは面白そうだ!是非企画が聞きたい!具体的には・・・)
(それでは、後日お伺いに。)
(ああ、楽しみに待ってるぜ。)しっかし、テーマパーク、ねえ。あの社長さんも、ユニークだな。
ヒゲの機工士は大笑いをする。「親方?」「どうかされました?」「ああ。最高にオカシイ仕事の依頼だ。腕がなるぜ。」