程よい調度品と少しそぐわない曲がり角の多い廊下。
その壁面に、所有者しかわからない「隠し扉」があって。
「いてて・・・」グレイの髪を後ろに束ねた女性が転がっている。
その近くに、金髪、小麦色の肌のミコッテの女性も右手を押さえてしゃがんでいる。
給仕服だが、エプロンはその右手の止血に使っているよう・・
「癒してやる。」黒髪のミコッテの女社長の回復術式でとりあえずの止血と応急処置はできたようだ。そして、シックスと名乗る彼女は不思議そうな目で社長を。「なぜ?」
「魔女殿がそう望んだからだ。そうでなければお前なぞツルハシで串刺しにしてやったものを。」
「わたしは・・何を間違えたのだ?」こぼれ落ちる涙が止まらない。シックスと名乗ってからなのか?それとも?
「間違えてない、よ。」魔女のか弱い一声。
「レティシア殿!今はまだ動かずに。安静にしていてください。部下とフネラーレ殿が先行しています。シド殿は・・」
「クォ相手に呑気な事言ってるんじゃないわよ。あたし達も行かないと・・」
「それと。シックス。貴女の道は、間違ってない。ただ、後悔だけはしないことね。」ふらり、と小柄な魔女が立ち上がる。「行きましょう。マルス社長。」
「レティシア殿!その・・」歩きながら言葉に詰まる社長。
「ああ。彼女の事ね。聞いた事が少し。あたしもね・・アラミゴ生まれなのよ。彼女も。そして、帝国に蹂躙された。
あたしは戦乱の前に逃げ出せたけれど、彼女は戦乱の直前に生まれて、奴隷同然の処遇に遭った。
両親も彼女を帝国に売り渡して自分達だけ逃げおおせた。そんな境遇で出会った、心許せる相手がシドだった、ってのもね。」
「・・・。」無言で答えるしかない。
「あたしも事の真相は知らない。クラック(耳役)として、しばらくクォの下で仕事をいくつもこなした時に耳にした情報だから。
まあ、あたしはアイツ嫌いだけど、妹の方は可愛げがあってね。「助けてあげて」とか言われちゃったし。」一息。
「よし。なんとか体力も戻ったわ。ありがとうね。行こう!あの子達が心配!」走り出す「ナイトノッカー」
「いえ・・って!?え?」未だ血まみれで、いくら術式で回復したとはいえ、走るほどの体力があるのか?が、現に走り出し、階段を駆け上がっていく。
この家の構造は分からないが、リビングに居るとすれば一階だろう。なのに?
「早く来い!」魔女の一声に走りだす。
「ふん。シックスもやはり大した事は無かった、かな?」漆黒のミコッテの青年は。
「アイツをそこまで評価するのも、おこがましくはないか?黒猫。」ヒゲの機工士。
「貴殿さえ俺についてくれれば、「処理」はしないんだがな?」
「言いやがったな、この「畜生」め。」
「種族差別はいけないな?たかがヒューラン風情が。」
バン!
ドアが開け放たれる。
「なら、私は優良種、でいいんだな?」白い刀身を煌めかせるミコッテの女性。
「僕は劣等、って事カ?」黒髪の美女は弓を構え。
「面白いコンビが来たな。そういえば、そこの黒髪の女。コロセウムでは世話になったな、失礼した。お前は劣等じゃない。クソだ。」
「そう言ウお前はそノ、クソ以下って証明だナ。」
「抜かせ。」右手で抜刀。「ソウルセイバー(魂を屠るもの)」を。青黒い刀身が閃く。そして同時に左手で銃「ナイトメア(悪夢)」を取り出す。
そこに。ガチャン。リビングの窓が割れる。
「お邪魔するよ!」2階からシーツを使ったロープで二人の女性が飛び込んでくる!「もう!本当に無茶苦茶だあ!」女社長が叫ぶ。
声が出せないリビングに居た4人。
そして、迷惑来訪者は、ヒゲの機工士の首に「山猫の爪」を。
「こいつの命が惜しけりゃあ、道を開けな。言っとくが、一瞬であの世に逝かせる自信はあるわよ?」
「君に人殺しができると思えないが?」漆黒のミコッテが応える。
「そうね。あたしは殺しは嫌いだから。でも。そこに居る「オッドアイ」は人殺し専門ね。あたしの合図無しに殺しちゃうかも?」
「・・・・分かった。要件はこの男の開放、だな?」
「話が早くて助かるわあ。」
「よく言う。実を言えば、彼とは商談では破談でね。大した未練はないよ。」剣と銃を懐に。
「好きにするがいい。」諦めのポーズで首を振る。
「あ、そう。じゃあ。フネラーレ。弓はそのままだ。シド・・失礼した。撤収しよう。」天魔の魔女の言葉にそれぞれが・・
「ああ。言い忘れた。マルス社長。この家の修繕費の請求書は後日送るよ。トイチでいいかね?」
「な!?なんだと!この魔女に請求しろ!」
「あー、あたし、戸籍無いんだよねー。実は。だから、請求しようが無いのよ。ゴメンね。」
「!?」
「というわけだ。(当然知っていた)よろしくな。」黒猫が笑って見送る。
「社長。今回の件では完全に魔女の手の平でしたね。」
「もしかして私達が追ってくることも計算に?」
「当然でしょう。さすがに一人で乗り込むにはムリがありすぎですし。」
「してやられたか・・・いつから気づいた?」
「窓を割って入ってきた時、ですね。あの時点で勝負は着いた。その後の交渉はさすがです。」
「全部狙ってやってた?」
「いえ。恐らくあのガンナーのミコッテを庇って血まみれになったのは、彼女の計算外の本意だと思います。」
「どこまでも厄介だな。魔女は。」
「ええ。天魔の魔女の名は伊達では無いかと。」
「あー。カルヴァランに逢いに行こうっか。」黒髪の美女が一人ぶらぶらと。
「助かった、よ。ええと・・」ヒゲの機工士
「山猫、でいいわ。」答える魔女
「ミコッテには見えないんだが?」
「ミコッテにその名前をもらったのよ。」
「そうか。それは失礼したよ、山猫殿。」
笑いながら二人は酒場に・・・・
「もう!いきなり居なくなってみんな心配してたんだから!」剣聖の声に。
「デートよ。」魔女が笑う。
番外・・・・・
「ご主人様、ご注文は?」小麦色のミコッテ。
「うん、オムライスだな。この、?マーク付きだ」漆黒のミコッテの青年が答える。
「?オムライスとおりました~?」
「は~い♪」エレゼンの女性。
「これは?」
青年の問いに。
「?オムライスで~す♪」銀髪のエレゼンの給仕娘がにっこり。
「どう見ても、チャーハンにケチャップが山盛り乗ってるだけにしかみえないが?」
「?オムライスで~す♪」