906セブンス。いざ!

「ママ!」薄いグレイの髪を揺らしながら少女が、楽しそうに。
明るい日差しの下、チョコボに乗る背後の女性を見上げる。
「なあに?」ブルーグレイの髪を短めに切りそろえた母親。
「どこに行くの?」アナスタシア・ヴィルトカッツェは今までに体験したことのない連続に不安と期待で少し混乱しているのかもしれない。
「パパのオゴリよ。期待しておくといいわ。」チョコボの手綱を片手で握りながら、愛娘の頭を撫でる。

ラノシア地域にあるリゾート地は「コスタ・デル・ソル」と呼ばれる大きな海岸。
と。
実は、避暑地として人気のある「ミスト・ヴィレッジ」と呼ばれる高級住宅街。
そして、今回はその住宅街に家を構える方に甘える事に。
なんでも、冒険に行く間、好きに使っていいよ。なんて言われてしまった。
ただ、個人の邸宅ではなく、「フリーカンパニー(自由な同盟)」という、皆で管理、運営をしているらしい。
もちろん、来客は大歓迎らしく(やはり調度品などを見て欲しいというのもあるらしい。
レアな物や、センスも問われるので、かなり気を使っている分、来客は大歓迎みたいだ)

「ぱぱ・・も・・う・・うげろぉぉぉ!」
「うわあ!アクィラっ!?」
くせっ毛の青年の前に座らせていた子供が・・・・
チョコボが、クェェェェェっ!!!と悲鳴めいた鳴き声をあげて・・
「あ・・。」マユが後ろを振り返る。
大惨事に展開している夫の乗るチョコボを見て・・・「やっぱりアクィラには厳しかったかしら?」なんて。
織り込み済みではあったのだが、実際に見ると可哀想なので、引き返す。
「ママ、ほっとこうよー。」娘は実にドライだ。
思えば、乗り物酔いが無いとは思わなかったのだ。
まず、ウルダハからリムサ・ロミンサまで飛空挺で。
移動術式テレポ、という手段もあったのだが、やはりリゾートでバカンスとなれば、味気ない手段じゃなく、空の旅を楽しもうと。(どうせ出費は夫の小遣いからなのだから)
当然の事ながら、子供達は、はしゃぎまくりで艇から落ないか心配するくらいだった。
そして、リムサ・ロミンサで海を眺めながらの昼食は、エオルゼア屈指の名店「ビスマルク」
ランチながら、絶妙な逸品に舌づつみを打ち。ドルチェを食べ終えて少しの休憩の後、チョコボをレンタルしてリゾート目指しての途中だったわけだが。

「さすがにウルラが・・・」見事に昼食の残骸まみれな夫を・・
やはり、それなりの速度で走る上に、振動もそこそこある。慣れていないと酔うのは仕方ないが・・ついでに「それなりの速度」なワケで、
出したものが後ろに行く、のも当然ではある。
「ママ。クサイからほっとこう。」と、娘は相変わらず祖母の教育の賜物であろう容赦無い言葉。
「ターシャ?お姉ちゃんなんだから、ココは面倒みようね?」「面倒くさい。」
「いいから、ママの言うこと聞け。」

「いやあ、マユ。済まない。もうちょっとゆっくり走ればよかったね。」
「あたしこそ・・少し飛ばしすぎちゃったわ。」
「どうせターシャが喜んだんだろ?あの子は義母さんに似てるからね。」
「まあ・・そうなんだけど。この先、母さんみたいなのに育ったら、本当に怖いわ。冗談抜きで。」
弟の背中を優しく、ではなく乱暴にさすってさらにリバースをさせている娘を見ながら。
「そのへんは・・血統だよな。」夫の言葉に。
「あなたの血も半分入ってるんだからね?」半眼で睨む妻。
「そ、そりゃそうだけどさ・・(最初の出会いは瀕死の重傷を・・無茶してだったよな)」
「今・・出会った時、思い出してたでしょ?」
「(さすがに・・鋭いな・・)それはともかく、急がないと夕食に間に合わないよ。」
「それもそうね。母さんの知人だけど・・さすがに夕食の準備をすっぽかすのもね。」


「わあ。すごい。」「ママ、すごいねー!」「ぱぱ・・きれいだけど・・・うぷ。」「おい!?アクィラ?」
夕暮れの中、紅い色に染まっていく白亜の家がそこかしこに。
とりあえず指定された家にゆっくりと、が、時間には間に合わせれる程度の速さでチョコボの手綱を。
そして。
豪華な白亜の壁の家に。レンガを漆喰で塗ったのだろう、きっちりとした仕上げではなく、
敢えて塗った「跡」を付けた壁の仕上げに「へぇ~」とブルーグレイの髪を潮風に揺らしながらマユは「センスいいわねえ。」と言いながら玄関へ。
唐突に。
「お待ちしておりました!マユ・ヴィルトカッエ姐さん!」小柄な、というか種族的に小柄。つい見下ろしてしまい・・
ララフェルの男性。
「百鬼夜行の棟梁、カルヴァランが館へようこそ!食事の準備が出来ております!どうぞ!」
「あ、ありがとう・・。」面食らった様子の魔女の後継。「ママ?」「マユ・・・確かその名前は・・」「ぱぱ?」  (母さん・・・知り合いって、こういう事なのね・・)
「お邪魔します・・」マユは礼をしながら・・少し頬が引きつっている。百鬼夜行って・・確か私略船の新進気鋭の・・
「あ!申し訳ありません!自分、この家の執事を仰せ預かっております、ジェメッリ・ツェッリと申します!どうぞ、心ゆくまで楽しんでください。
主人は不在ですが、どうかご容赦を。それと。」手招きを。草色の髪のララフェルの少女?
「給仕長をしております、ジェメメと申します。女性の方のお世話はわたくしが。」深く腰を折る。
「あの、じゃあ、よろしくお願いします。」ウルラは少し戸惑いながら・・・
「はい。少しガサツな者も居りますが「しつけ」はしておりますゆえ、お気になさらず。」
(こええよ・・)(わー・・大丈夫かしら・・?)(ママ、ご飯なに?)(ぱぱ・・)
執事のララフェルはエントランスに案内すると、すぐそばに居たルガディンの厳つい男を蹴り飛ばし「大事なお客人だ。邪魔してんじゃねえ。」
同じ髪色の給仕長も「まったくよね。」ベルを鳴らし、「食堂にご案内して。荷物もお預かりして。さっさとしろよっ!このトンチキ共!」
と見た目からは信じられない行動の後、異口同音で「大変お見苦しいところを。」なんて言われても・・

主人のセンスを反映した見事な調度品の整った食堂でのディナー。
「美味しいわ。素敵ね。」マユの言葉に。
「ありがとうございます。マダム。」厳しいルガディンの男性。ぱんぱんに張り詰めた礼服が明らかにサイズを間違えたんじゃないかと思いながら。
ただ、料理はビスマルクに引けを取らない。
(やりにくいなあ・・・)見た目とのギャップがスゴイ・・・ウルラは無邪気に料理を食べている子供達をみながら、確かに絶品な一口を。

この後、これまた豪華な浴場で一汗を流して、寝室に。これもまた豪華極まりない。
「明日、お目覚めのご希望の時間はございますか?」執事のララフェル。
「いや、特にないよ。ああ、そうだな・・夜明けの陽が見てみたい。いいかな?」
「かしこまりました。ベルにてお知らせいたします。朝食の準備もそれに合わせますので。では失礼いたします。どうぞ、旅の疲れを癒してくださいませ。」

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