897セブンス。戦の始まり・・・潜入2

「うわあ。コレはなかなかの物だな。」
エレゼンの術士は高い背丈を屈めながら。
「ワシなら楽勝なんじゃよ~」カボチャ頭が陽気に走り回る。
「少しは静かに進んだらどうなのよ・・」
少女のような女性の声。
「あの・・魔女様。もしかして・・」ミコッテが問う。
壊された鉄格子はつい最近のものだ。が、今ではない。
「何を今更。内偵するのに経路の確保は当然じゃない。あなたもそのくらいはできるでしょ?」
「あ。はい・・(とはいえ、この短期間でこのレベルはスゴすぎる・・さすが、魔女、か)」

カストルム・セントリ。
帝国の前線であるとともに、監獄としても機能していると聞く。
おそらく、いや、確定として。
「暁の血盟」のリーダーであるところの女性、ミンフィリアとその同志の数名が拘留されていると思わしき施設。
ただ、「思わしき」であって断定はできていなかったのだが・・
「この先に扉のある広場に出るわ。その先までは確認できなかったんだけどね。間違いなくその先にミンフィリア達がいる。ただ・・」
「ただ?」妹弟子を見る、アルフレート。
「監視っていうのかな?衛兵はさっきの敬礼でやり過ごせるんだけど、魔導器を使った監視があってね。そいつをやり過ごすか、ぶっ壊しながら、ね。
どういった原理かは機工士に聞きたいところだけど、今は無いものねだりはできないからね。」
「なるほど。レティですらわからないなら、俺じゃどうしようもないな。」
「一度引っ掛てね。あはは。警報が鳴りまくったわ。」
「笑い事じゃないですよお!」コーラルが訴える。
「ワシがなんとかするんじゃよ~」
カボチャ頭に全員の視線が集まる。
「照れるんじゃよ~!」
(いや、ここは偉大な犠牲が・・)(いい駒、か・・)(大丈夫かなあ・・)

しばらく進むと、複数の小さい穴からまとまった水が流れてくる。
そして、その上に登るための小さなハシゴがある。「この上だよ。」魔女が上にある蓋を指差す。
「まず、あたしが様子を見る。その前にトリコロール。防御術式を貼っておいて。」
「はい。流れるように、歌うように・・」淡い光が皆を包む。「意思のままに、救い手を。」小石が絡まり合う。
「よし。行くけど。合図するまで出てこないでね。特に王様。」
「なんで名指しなのじゃよ~」
「一番イレギュラーだから。」
「だよなあ。」
「ですよねえ。」ふふ。
「いい笑顔じゃないか、トリコロール。今度一緒に飲みに行こうぜ。」蓋を開ける魔女。
「はい!それと・・私は・・コーラル・ラグーン。次からはそう呼んでください。」
「ああ。コーラル。いい酒にしよう!」穴から飛び出していく魔女。

「いい話じゃの~」「ですね。」「私は・・・」

雪に覆われた要塞内部は以前と変わりない。
暗くなった分だけ見渡しが悪いが、人の配置がそうそう変わるわけでもない・・が、やはり出迎えで忙しいのか、走り回る兵士が多い。
「これは・・やっぱりチャンスよね。(紛れ込みやすい)いいわよ。出てきて。」
足元の「出口」に声をかける。
そこに声が掛かる。
「おい!貴様!何をしている?今、ガイウス様が視察に来られたというのに!」
警備兵に見つかり・・
「あ、申し訳ありません!自分はアン一等兵であります!この排水口から物音がしたので部下を連れて警備のために確認をしておりました!」
「そうか。ご苦労。ん?」
「あ、奇妙なものを発見したと部下が・・」
カボチャを・・
「しばらく寝ておいてもらうんじゃよ~」鞘で後頭部を叩き割る勢いで。剣王が飛び出す。

「あのさー。石楠花さん?斬るんじゃなくってもさ、撲殺、って言葉も知っておくといいよ。かろうじて死んでないけど。」レティシアは呆れ返り。
「いや、加減はしてるんじゃよ~?」カボチャ頭は普通に。
「むしろ、俺はあんだけスラスラと嘘八百が出てくるレティの方がスゴイと思うがね。」
「です・・・。」
「このくらい、できて当然でしょ?」ぽりぽりと頬をかく。
「まあ・・・先を急ごう。明け方には・・なんとかなってるのが理想かな?」
「ですね。尋問なりなんなり、来て早々にするほどの事じゃない・・・と思い・・たいです。」
「だよね。剣王。このマップ。これ持って走って。警備装置がそこかしこにあるから、それのマーキングしといた。
あたし達はできるだけ隠密にしたいけど、貴方はその格好だしねえ。攪乱ってことで。」
「この警報装置は叩き壊していいんじゃな~?」
「まあ、その方が邪魔な兵士を集めれるからいいかな?」
「レティ。それって完全な捨て駒じゃ・・・」
「何言ってるのよ。剣王がこの程度で死ぬわけないじゃない。武名を馳せるのに丁度いいくらいじゃないの?」
「じゃよ~!」
(騙されてる・・・)コーラルは改めて魔女の手腕に舌を巻く。

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