896セブンス。戦の始まり・・・潜入

夕暮れも過ぎた頃。
「今夜は徹夜も辞さない、って話でしたよね。」
青いローブのミコッテの女性。
「ああ。」応えるのはグレイの髪を後ろで束ねた少女、いや、女性。
「まあ、この寒さだ。それなりに準備はしてあるさ。」赤いローブのエレゼン。
「・・・・・。」雪上の小さな塚に飾ってあるカボチャ。

そろそろ待機も限界に近い・・「次の巡回で仕掛ける。」
天魔の魔女、レティシアの提案に・・「勝算は?」と兄弟子でもある術士、アルフレート。
この場合の「勝算」とは、単純に戦闘に勝つ、だけではない。作戦としての「救出」を意図する。

「負けない戦い方しかしないのが、あたしの作法さ。」魔女が微笑む。
「魔女様。失礼ながら。どういった意味でしょうか?本当にできるんですか?できるなら、何故もっと早くに実行しなかったんですかっ!説明しろっ!!」
ミコッテの女性が激昂する。

「うっせえな。敵に見つかるだろうが。「機」を待て、と言っただろ。今がその「機」なんだ。なんなら、お前一人でやってみるか?」
「く・・・!」
「まあまあ、二人共。ここは抑えて。」アルフレートは苦労が絶えない。
魔女はアクビ混じりに「簡単に説明しとくよ。連中の装備を奪う。次に、敬礼のポーズを覚えて、余計な敵をスルーする。これで奥まで行ける。
それと、待ってた理由の一つがボスが来れば警備体制が緩くなる。お出迎え、ってヤツでな。普段4人詰めてるところが、2人になる・・だろ。
お出迎えに人数割くからね。こんなところでいいかな?トリコロちゃん?」
「・・・・」
「・・相変わらず、人が悪いな、レティ。どうやってそんな情報を・・?」
「みんな熟睡してる間の時間を使った、って事よ。」あくびをもう一つ。
「・・・まさか・・・毎日・・徹夜で・・・」トリコロールは同室の相手がそんな諜報活動をしている事すら気がつかず・・
「本番はこれからだ。撤収する段取りも今さっき取り付けた。後は取り返すだけよ。」
「魔女様・・・先程の無礼・・お許しください。」
「気にすんなよ。仲間じゃん。」
「はい・・ありがとうございます。」

(こちら山猫。ニーサンゼロゼロに決行する。オールゼロで予定の場所に)パールでの連絡。
(こちら採掘係、了解。全力で間に合わします。)

「そろそろ来るぞ。」赤い術士は、雪ダルマを引っこ抜く。
「まかせるのじゃよ~」

「いい?時間は半刻。この間にケリを着ける。」魔女の宣告と同じくして、

ごうんごうん・・・巨大な飛空挺が基地を目指してやってくる。
そして、警備の兵が門から出てきて。
その数、8人と少ない。しかも二手に分かれて左右に分かれていく。
「左の部隊を始末する。けど、殺さないようにね!」
「ああ。君らしいな。」「・・はい。」「まかせるんじゃよ~」
「要は装備さえ剥ぎ取ればいいんだから。」笑う魔女。
「エロいんじゃよ~」「黙れ。」拳をカボチャに叩き込んでから走り出す。

警備兵を見つけ。
「あの。すみません。道に迷ってしまって。ここはドコでしょうか?」
殊勝な言葉で道を尋ねる少女?に警備兵は警戒しながら「ここはガレマール帝国領内だ。お前はどこから来た?」
「あ、すみません。」外套を羽織った少女?は「この近くで農業をしていまして・・雪で目印を見失ってしまって・・・迷い込んでしまいました。すみません。
すぐに出ていきますので。あ、お詫びと言ってはなんですが、このカボチャを差し上げますから。」脇に抱えていたカボチャを放り投げる。
「な!?」警備兵が慌てる「な、投げるか?普通・・って!?え!」
「ワシの出番なのじゃよ~」ダイセクター(切断者)を振るう剣王。
為すすべもなく、手首の腱を切られ無力化されて倒れこむ警備兵。
「はい。ここまで。」残る3人を見据え。
「命までは取らないわ。大人しく武装解除させて。急いでるの。」迷惑来訪者の一言。
「ふざけるなっ!」警備兵の一人が抜刀して斬りかかる。
「しょうがないわね。」回し蹴りで剣を飛ばし。さらに繋がる後ろ回し蹴りで腹を突き抜き、もう二歩ステップで踏み込んでからの裏拳で張り飛ばす。「まだやる?」
「「いえ・・」」彼らも気がついたはずだ。周りに「火種」が多数ばら撒かれていることに。

あんまりといえば、あんまりな状況に一番驚いているのが彼女、トリコロール、いやコーラル・ラグーン。
(なんなの・・・この異常な戦闘能力・・こんなの、わたしじゃムリだ・・)が、逆に味方なのだから、頼もしい事この上ない。

奇策を重ねる「天魔の魔女」しかも近接攻撃能力も半端ではない。
剣技において、見た目とは裏腹の冴え、の「剣王」
絶妙な配置の火炎術式をする「発火者」

改めて凄い面々だ。
そこに。
「おい。脱げよ。」とその魔女から。
「え?」
「こいつらの装備に着替えないとダメだろ?」
「えええ?こ、ここでですかにゃあ!?」
「うっせえ。誰もお前の裸に興味はねえんだ。」言いながらすでに上着を脱いで帝国製装備を着ている魔女。
「なあ、レティ。一応さ。男がいるんだ。もうちょっと遠慮がいるんじゃ?」アルフレートの言葉に。
「羞恥心で命が買えるなら安い買い物だよ。アル。」
「ワシは?」
「王様はそのままでいいよ。さっきの策、もう一回使えそうだしね!」にっこり。
「全く・・」アルフレートもローブを脱ぎ捨て、着替え始める。
(あわわわわ!)コーラルは混乱しながら・・・ローブ、脱いだら下着だけになっちゃう!が、そうしないと着替えれない。
(ええい!)一気に脱ぎ捨て、慌てて帝国の装備を身に付ける。
「ふううん。意外とスタイルいいじゃないか。」と、魔女の言葉。
「きゃ、きゃあああ!な、何言ってるんですかあ!」高速で着替えたのだが・・
「そんでいいよ。年頃の子が陰気になってるよりは、そっちがいい。」
頬を赤らめながら、呻くしかできないコーラル。
「じゃあ、行くか。で、レティ。どこから?だ?」
「抜かりは無い、ってね。」

しばらく歩き、「ここ」大きな排水管がある場所に。

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