哄笑を続ける蛮神ガルーダ。
そのシルエットは、翼を持つ乙女の様だが、実際には。
女性のシルエットをそのままに、悪意を持って造形されたモデルのようだ。
「我に敵うわけあるまいに。愚かなクソムシ共が。手を煩わせた罰じゃ。いや。褒美として与えてくれよう。」
歌が始まる。
(いけない!)先程の空間破砕で意識が朦朧としていたミーランは、周りを見る。
(なんてこと!)周りの石柱は全てなぎ倒され、そこに避難していたメンバーも少なからずダメージを受けている。ここは自分がなんとかしなければ。
全力を振り絞って立ち上がると歌うための構成が見えた。
(コレを壊せば!)ジュワユースで斬りかかる。
「この!」気合の一閃。
「ほほ。まだイキのいいのがいるようじゃ。」歌を途中でやめて、羽根を振りまいて宙に浮かぶ蛮神。
「278の頁。炎の洗礼を!」イフリートの断片が赫い熱の塊を蛮神に。
「おのれッ!小癪な!」鋭いカギ爪で召喚士を襲う。
(う、こいつは・・ダメか。)先程のダメージが・・・眼を瞑ろうとした瞬間。
「させない!」剣聖が間に割り込む。そして・・・背中に大きなカギ爪が食い込んで。
「かはっ!」大量の赤い液体がが口から吐き出され・・小さな声で・・「ごめん。わたし・・もう・・」
「何言ってんだ!これからだろ!くそう!121の頁、癒しの術の現出!」回復術式を使うも、彼女の出血は止まらない。
「皆に祝福を!」リトリーが範囲回復術式で皆を癒していく。
だが・・
「まだ足らんか!」さらに範囲回復術式をミコッテの社長が。「おい!色男!蘇生術式は使えるな?それに専念しろ!時間稼ぎは何とかする!」
「はい!」リガルドは腕の中で動かなくなった恋人を抱き抱えながら必死にページを探る。
「まずは、お返しや。」氷結術式を瞬間で展開するブロンドの少女。
引きずり落とすように翼が羽ばたくのを強引に止めさせ。
「いてて。よーやってくれたやんかっ!」斧を振り回す。
「ホンマやで。よくもミーをっ!」グランツファウストで胸部から顔面へと拳を叩き込む拳聖。
「次回の査定のためにもねっ!」豪快な蹴り技を叩き込むエリス。
「このッ!」ガルーダの視線が妖しく光る。すると・・・外周から暴風がどんどん内側に迫ってくる。
「なんだと!この立ち位置は・・まずい!巻き込まれるぞ!内側まで走れ!」マルス社長の声に皆が移動する。
「ほほほ!あーっはっはっはあぁっ!我の領域でムシケラ共がイイ面できるとでも思ったかぁ!」
両手を広げ、高らかに笑う蛮神。
「だが!褒めて進ぜよう!我が猛信者たるイクサルとかぬかす彼等すらたどり着けなかったこの領域に初めて訪れた愚者共。
その無残な最期を語る事すらできず果てる事を誇りに思うがいいッ!」
「黙れ。蛮神。」
「ん?」ガルーダは己の胸を見る。
蒼く光る刀身が背中から胸を貫いて。その切っ先を眺める。
「私たちは!誇りよりも大切なモノがある。そのためなら、相手が神であろうが、抗ってみせる!」喜ばしきもの を握り締め、剣聖が言う。
「ほう。騎士とやらが背後からの不意打ちとはの。」緑色の光の粒を撒きながら蛮神が笑う。
「問題はそこじゃない。お前は、人の世を。この母なる星を蝕む存在だ。手段はなんでもいい。果てろっ!」差し込んだ剣を一気に斬り下ろす。
「ぐあ・・ふ・・・何も知らぬ・・輩が・・・抜かしよるわ・・」
「な、何を!」
「我は・・また・・・顕現するぞ・・この・・屈辱・・・恨み・・晴らさずに・・・おくべきか・・」
緑の粒子となって散っていく。
「終わった、のね・・」ばたり、と倒れこむ剣聖。
「ミー!」駆け寄る相棒のエレディタ。同じく駆け寄るリガルド。
「さて、剣聖殿は二人に任せてだな。まずは船に乗らないとな。そんでもってミンフィリアの救出劇に一役買わないとな。」ミコッテの女社長が戦場となった舞台を見渡す。
「社長~。どうやってシドさんに連絡しますか?」部下のミコッテがすがりついてくる。
「お前、そりゃあれだ。お前、飛び降りろ。そうしたら向こうも気がつくだろ。」
「無茶言わないでくださいよー!」
「あ、嵐の勢いも収まってきましたし、気がついてもらえるんじゃ?」とは、リトリー。確かに主を亡くした暴風は収まりつつある。
「なあ。待てや。ええか?という事は、や。この浮島、落ちるで?」ブロンドの術士、ユーニの正確極まる予想に。
「お姉ちゃん・・・勝っても負けても死ぬ、って事?」
「今頃何言うてんねん。このアホ。せやさかいの艇やろが。」
崩れていく岩の浮島の下。
「おーい!こっちだ!」船長の声が聞こえた。
飛び降りろ、と言われたらどうしよう?という高さ。
が。
艇が急上昇をしてくる。
「さ、どうぞ。」手を差し伸べるシド。
女性から順番に・・・最後のリガルドは恋人と共にタラップに。
(ヤヴァイわー、ホレかけたって)(お姉ちゃん、いっつもそれ)
「じゃあ、お疲れ様。帰って祝杯でも上げたいところだが。もう一つ直行便の仕事があってな。だろ?」
「はい。」「だね。」リトリーとミーランが眼を合わせ・・
「悪いが、途中下船は無理だ。このまま飛ぶぜ。」
シドが舵を切る。
「もうひと仕事、か。腕がなるぜ、全く。」