「あたしは用事できた。みんなはそのままでね!」
魔女はそっと去っていく。
その隣にいたはずの青いローブのミコッテはいつの間にか消えていた。
「レティさん、どうしたのかな?」エレゼンの女性、またの名を「剣聖」
「さあなあ?さっきのミコッテと関係はありそうやな。」相棒のヒューランの女性「拳聖」
とりあえず、切羽詰まったワケでもないだろうが、急用には違いないのだろう。
そして、それを伝えに来たミコッテ、というわけか。
「なんだかイヤな予感もしますね。」ミコッテの青年。
「ふむ。しかしかの「魔女」殿が呼び出されるほどの案件というなら、確かに。」若いミコッテの女社長。
「ほうれすか?」ここ、ウルダハでその社長の部下として勤めている子会社の社長と。
「でふねー。」露天で鍛冶師を営んでいるその親友。
「お前達、しゃべるとひはのみこんではらにしなはい。」筆頭秘書。
ミコッテ4人のやり取りを見ていたハイランダーの姉妹が「どの口でいってるんや・・・」「せやなあ。」
ホライズンから西にしばらく行った先にベスパーベイという町がある。
そして、リムサ・ロミンサまでの玄関口であるこの町には「砂の家」という、対蛮神を目的とする秘密結社があり、そこのリーダーも此処に居を構えている。
「そ・・そんな・・・」
ミコッテの白魔道士、(今は)トリコロールは、愕然とした。
砂の家の玄関ドアが壊され、人だかりまで。
もう陽も落ちて、夕餉の支度に忙しいだろうに、この人だかりはちょっと信じられない。
「あの・・・?」
「ああ、お嬢ちゃん。なんだか胡散臭い連中が町に入って来たと思ったんだ。最初はカンパニーかと思ったんだが、見慣れない服装で統一されていてね。
今から思えば、あれは帝国の装備だったんじゃないかって。」見知らぬおじさんが説明してくれる。
「そ、それで?」恐る恐る。
ああ、いきなりあそこの借家のドアを吹き飛ばして、中に走り込んでいってね。ああ、これは俺も見たわけじゃなくて、聞いたんだ。」
「・・・・」
「で、中から何か激しい物音がしたかと思うと、悲鳴めいたものも聞こえてきて。この時点で人だかりが出来始めたんだが、
兵士が二人ほど玄関を見張っていて・・・俺達じゃどうにもならねえし、遠巻きに見てただけなんだ。」
「どうなりました?」
「半刻ほど前に静かになって、見張りの兵士も中に入っていった。だから、中で何かがあったんだろうけど・・さすがに中に踏み込むのは無理ってんで、
冒険者を待ってたってわけだ。が、連中もいるにはいたが、何人いるかわからない兵士相手にさすがに踏み込めずに、指くわえて見てやがってな。
何人かは踏み込んだんだが、帰ってきてねえ。」
「くっ!」
「さすがにそうなっちまったら、誰も踏み込むなんてできやしねえ。仕方ねえからこうやって眺めるしかできねえんだ。」男はそうやって肩をすくめてみせた。
・・・・・・・半刻前といえば、パールからの連絡が途絶えた時間と重なる。そして、パールはもう輝くことなく鈍い色に濁っている。
恐らくパールが破壊されたのだろう。そして・・・
「ミンフィリア・・・みんな・・」ふらふらと玄関に歩いていく。
「ちょっと、アンタ!危ない!おい、誰かあの子を止めろ!」男が叫ぶが、誰もが二の足で・・
その時横手から。
「おい。こりゃどうなってんだ?」と女性の声。
「へ?」と男が隣を見れば、グレイの髪を後ろに束ねた女性がいつの間にか立っていた。
「ああ。今、あの子が帝国の襲撃があったかもしれない家に入ろうとしているんだ。アンタ、冒険者か?あの子を止めてやってくれ!」
「ふうん・・・アレも中々、度胸あるじゃないか。少しは見直したよ。」つかつかとミコッテに近づいていく。
「おい。」肩を掴んで振り向かせる。すると、呆然とした表情の術士が「あ。・・・」
「度胸は認めてやる・・が、まずは防御術式だ。」魔女がゆっくりと語って聞かせる。
「あ、ああ・・。」構成が編まれるが、霧散していくのがわかる。
「ち。我らに加護の光!」魔女が代わって術式を。「行くぞ。」
まずはエントランス。慎重に敵がいないか、さっとドアから手鏡を使って中を見渡す。
「いない、な。タタルだったか。アイツもいない。」
「え!?」
「代わりに死体があるな・・4.5か。冒険者と・・兵士だな。兵士3に、冒険者2か。」
鉄と生臭い匂いが入り交じる中、階段まで進む。物音はしない。
「ああああ・・・・」ミコッテは錯乱し始める。
「黙れ。そして術式の準備をしとけ。出会い頭にドンパチなんてこともある。」長爪を引き抜く魔女。
新調した長爪「アイラバグナウ(山猫の爪)」は獰猛な笑みを彼女に与えている。彼女の名を冠した爪が怪しく光る中、音を立てずまさしく猫科のよう。
(いいか?開けるぞ。お前はドアが開いたらすぐに術式を展開だ。ただし、まだ撃つなよ?)
(・・・命令、するんですか?)
(ピーピー泣いてる子猫ちゃんに、こういう場合のアドバイスさ。)
(3・2・GO!)バン!ドアが開けられ、屈んだまま周りを確認し、生存者、敵がいないか確認。
「ち。死体だけか・・・。」周りを見渡す。
「あ・・・あ!みんな・・・。シン・・」倒れていたミコッテの男性に抱きつくが、もう事切れているようだ。
「なんだ、男か?」「・・・・婚約者、です。」「そうか。そいつは気の毒だったな。」黙祷を。
「さて、いつまでも悲劇のヒロインってワケにもいかない。さっきのドアの音で誰も向こう側から来ない、ということは連中、もう撤収したな。
誰が襲撃したのか分かりさえすれば仇も討てるだろう。後は生存者がいないかと、それと死体がないヤツがいるってことは拉致された可能性がある。
男に別れを告げたら、こっちの仕事をしないとな。」
「・・・・・・・・はい・・・・。」涙でもう・・ミコッテの女性は嗚咽と共に「さようなら。シン。」
オフィスのあるドア。もうこっちは待ち伏せする理由がない、との判断で勢いよくドアを開け、中を確認。
「あの女はいないな・・・生存者は・・」
「ノラクシア!」トリコロールは、デスクの前に転がっているシルフを抱き上げる。「あなたまで・・」「シルフまでいたのか・・。ん?まて。そいつまだ息がある。」
「!?」息を呑む白魔道士。慌てて蘇生術式を編む。「お願い!死なないで!」が、シルフの生命は流れ出す一方・・
「もう、寝かせてやれ。致命傷だ。傷口は・・銃、か。」そっと仮面越しの目を。
!? 突然、明確なビジョンが目に、いや、脳裏に流れ込んでくる。
襲撃の映像。ミンフィリアは拉致された。これは確実だ。そして、その主犯。白い鎧のおそらくは女性。
「おい。ガキんちょ。」シルフを撫でてやる。「よくやった。あとは任せて、ゆっくり寝ろ。お疲れ様、だ。」
レティシアは、傍らのミコッテの術士に「行くぞ。目的地が見えてきた。」
「え?」「帝国の前線基地、だよ。そこに数人拉致されてる。お前の男の仇もおそらくそこだ。」