871セブンス。進撃のために。

「ちょいっといいか?」
赤毛のエレゼンの元海雄旅団、現トランキル防衛隊隊長。
「あん?」
応えたのは黒髪のヒューラン。
「いや、このメンバーだと、多分あんただろうと思ってね。」
「口説きに来たんか?」

トランキルにいるという大きな亀の魔物・・いや、大きくなりすぎて魔物扱いされてしまっている動物なのだが・・
その卵は3大珍味として有名だが、乱獲されて一時期は絶滅すら危ぶまれ・・今は卵を採ることは3国の条約で規制されているくらいだ。
おかげでかつての個体数が確保できてきたため、規制の緩和もあるが、乱獲だけは禁止されている。
だが、そのせいで「珍味」としての価値は跳ね上がり、闇業者がならず者や、冒険者を雇い入れ「仕入れ」をさせているのだとか。
なので、このトランキルで鬼哭隊のメンバーはそういう者たちにも目を光らせているのだが・・

「いや。パールでオッサンからの差金って聞いてなければ、即、捕縛だったわけだが。」
「ふうん。まあ、珍味としては有名やからな。」
「まあな。で、だ。さっきのメンバーの中で、おそらくはリーダー格はキミじゃないかと踏んでの話でね。」
「惜しかったなあ、兄ちゃん。うちやなくて、あのエレゼンの騎士やで?」
今は残りのメンバーと宿に向かっている相棒を思い浮かべ、エレディタはニヤリ、としてやったりだ。
「ああ・・言い方が悪かったかもしれないな。オレの見立てだと、彼女の参謀、といったところか。ミコッテの青年もそれなりに知恵袋だろうが、感情が先立ってそうでね。」
「・・・・ふうん。ええとこ突くやんか?」
「もうひとりのミコッテの術士の子は、まだ日が浅いだろ?メンバーとしては。」
「・・・なんや?何がいいたい?」
「ヴェイスケートのオッサン、他には何も言わなかったのか?残りの二つとか。」
「ああ、それやったら別のグループが取りに行っとる。」
「なるほどね。じゃあ、後は・・ワインだろ?」
「何がいいたい?」
「情報はいるかどうか?だ。」エレゼンの隊長は、まあ座れよ、と席に案内する。「おい、ワイン持って来い。二つだ。」部下に言い「飲むだろ?」
「付き合ったるけどな。酔わせてどうこうする気なら明日は足腰立たなくなるで?」
「情熱的なお言葉、嬉しいね。」
「拳聖、の名に掛けてな。」
「まあ、そういう女を口説き落とすのも悪くはない、が。いるのかいらんのか。その返事さえ聞ければいいんだが?」
「もったいぶるやんか?」
「急くのはモテない男のする事さ。大人の余裕ってヤツかね?」
「言うなあ、オッサン。」
「ま、言葉遊びもこの辺りがいいか。本題としてはどうなんだい?」
向こうはこちらが「バッカスの酒」という幻の逸品を欲しがってるの分っていて、情報をちらつかせている。エレディタは少し考え・・
「条件はなんや?」
「別に。口説きたけりゃこんな手間はかけないさ。強引に」いきなり立ち上がると、腕を背中に回し、顔を近づける。「こうする。」
突然の事に反応できず、されるがまま・・・「魅力的なのは間違いないけど。」手を戻し、椅子に。
「そうだな。条件か。そうじゃなく、改めて口説くとしよう。敢えて言うなら、かつてのメンバーとウマイメシを一緒に食いたい、ってところか。」
バクバクと高鳴る心臓を必死に抑えながら・・「じゃあ、ワインはどこや?」
「おや?キミほど頭が冴えるなら、もうわかるだろう?」
「・・・・ワインポート。」
「正解。そこにシャマニ・ローマニってララフェルがいる。ヤツはかつての対戦で光を失ってな。今じゃすっかり引退しちまって、酒造りに凝っているんだそうだ。
ただ、そのせいで見えないモノが見えてきた、なんて言いやがる。アイツなら何か知ってるだろ。
ただ・・聞いた話じゃ、寝かせていた樽が先の大戦でほとんど焼けちまったらしいからな。今じゃ町も復興して、むしろ前よりデカくなったみたいだが・・。」
「そ、それやったら、アカンのちゃうんか?」
「だからこそのヤツの話になるんだが。どうせ先の大戦で樽は無くなったが、瓶詰めしたのをコッソリ持ってるヤツがいるかもしれんしな。」
「ふうん。」
「ワインってのは。」グラスを揺らす。「寝かせてナンボって言ってやがったしな。オレは酔えてこその酒だろう?と言ったが、ヤツはそこはこだわるみたいだな。」
「まあ、わかるけどな。」
「だから、今、いいとこ3年程度の樽熟成だと、何をどうしようが幻の逸品みたいなワインは手に入らねえ。ソコんとこを、な。以上だ。」
「感謝するわ。おおきに。」
「美女と酒を楽しめたんだ。十分すぎる報酬さ。」去っていく隊長

(ヤバイなあ。もう少しで落ちそうやったわ・・)宿に・・・

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