「まったく。」
天魔の魔女、レティシアは必死に砂の都ウルダハを駆け抜ける。
ついさっきまで港の都リムサ・ロミンサで買い物をしていたというのに。
「実は依頼がありまして。」などと。
全くフザケた奴だ。
キーファー、いや、この街リムサだとピーノ、だったか。
銀髪のなんだかへらへらした笑顔。その原因も知っているとはいえ・・
「なあにが、暗殺の阻止、だ。自分で演出しておいて!」
どう考えてもこんな計画自体がただのライバル潰しに決まっている。
無名に近い議会員がたまたま横領をした?そんなわけ無い。ただのワナだ。それに。
暗殺要員に「フネラーレ」を駆り出した理由は?それでも阻止?少し頭を整理しなくては。
過去、自分はフネラーレに何度となく勝利している。そして、共同で勝利も。
お互い手の内は大体わかっている・・・
レティシアは思考を一旦、水平に戻す。
「相打ちねらいか!あのやろ!」
あの青年は自分たちのどちらかが倒れてくれればいい。そう判断したのだろう。
「高く見積もられたものね。」
とりあえずは護衛対象のララフェルの女史を確保しなければ。
その上で、フネラーレを殺す事無く無力化しなければならない。
どこだ・・?
この街は高低差はあるものの普通に生活する分や、冒険者が出入りできる場所は高低差に限りがある。
フネラーレが弓を使っての暗殺をするなら、高所よりも恐らくは近場・・・・平坦な道あたり。
走りながらも自分の推測が中った。あたってしまった。
「・。」沈黙と共に倒れるガード。
ララフェルの女性議員ナナーシサスは悲鳴と共に。
「伏せろ!」グレイの髪の女性にいきなり押し倒され、何事かと。遠くで何かが落ちた音が・・・
まさか!?弓での狙撃?
「怪我、ないわね?」少し年上かと思いきや、少女のような童顔の女性。
「あ、貴女は?」
「誰かと聞かれたら、天魔の魔女、と応えるようにしているわ。貴女の身柄はあたしが全力で護る。ガードさんは・・・間に合わなかったけど。」
しかし今の狙撃で大体の方向は掴んだ。
あとは距離だけ。
「おい!葬儀屋!街中で派手にやってくれるな!」
これで返答があれば音量で大体の距離が掴める。
・・・・・・「僕の・・・仕事ダ。」
近い。
この方角、距離。そこか。屋台の裏。
さすがにあたしの挑発には乗ってくれるか。まだまだ、ね。かわいい暗殺者さん。
無駄話で時間を詰める。
直線で距離を詰めれば、一瞬の出来事と相手は錯覚してしまうだろう。なので喋る音量を少しづつ抑えながら距離感を無くしつつ目の前に。
首筋に手刀を。軽い脳震盪を起こした彼女を抱き抱えながら。
パールで連絡を。
そして・・「あいつとは・・」
クライアント、とはいえ初対面のララフェル議員に挨拶だけをして、移動術式を。
「ねー、ここって百鬼夜行でしょ?」ドアを開ける。
「なんでい、てんめ・・・・うぇ?もしかして・・・魔女、様?そんで姐さん?」
「話が早いわ。この子、カルヴァランに渡しておいて。しばらくグリダニアには帰ってくんな、って。いっといて。」
「わ、わかりやした!」 (おい、姐さんが!誰か女よべ!姐さんを寝台に!)
「じゃ、頼んだわよ。」「へい!」
「全く。たまんないわよね。」
「どうかしやしたんで?」
「バデローン。ラム。」
「あいよ。」
「なんてか、面倒ばっか。せっかく娘が自立したってのに。」
「お孫さんの教育にも熱心、とか聞きましたぜ?」
「いらん情報仕入れてんなっ!」
「まあまあ、これはマユ嬢ちゃんから聞いたグチでね。もちろん商売のタネにする気はさらさら無いですって。」
「あんにゃろ・・・」
ぐいっとラムを煽り、「おかわり。」