822セブンス。騎士の悩み。

「う~ん。」
オレンジ色に輝くようなストレートで短めの髪。
フォレスターらしい色白な。
背には刃のついた丸い盾。
腰には細身の剣であろう、鞘。
ミーラン・ロートスは、向かいに座る相棒、エレディタに浮かない顔。
「う~ん・・・・。」

エレディタは、といえばヒューランで中肉中背の少し女性としては筋肉質な。でも確固たる信念の下、邁進する雰囲気。
「なんや?」相棒に気遣いを。
家名の無い彼女を分け隔てなく見てくれ、かつ信じてくれているミーランの面倒は自分が、とも。
ただ、真っ直ぐすぎるこの相棒には常にツッコミをいれないと・・しかしながら、育ちのせいゆえか、依頼を断るなどしない。むしろ突っ込んでいく。

ミーランは。小さなおとがいに指を当てつつ、悩みというか。
今回の依頼に対してどうしたものかと。

以来の内容はこうだ。

さる貴族の令嬢が、先の大戦、もしくは事故で顔に大火傷を。そして治療を試みたが、傷跡が消えないことを苦に、屋敷に引きこもってしまった。
そこまでは、よくある話だ。現に実家も先の大戦で焼けてしまった。
(ミーランとしては、大事にしていた物の全てが無くなったわけで、喪失感はかなりのものだった。)
ただ、顔という、女性にとっては掛け替えのない物を失った彼女の想いはいかばかりか?
そして、その後に続く女性の失踪事件。
この事件との関連性はあまり考えが追いつかない。
依頼として聞いたのはいいが・・・
たどり着いた先は、フォールゴウド。
そこでの依頼。何やら痛ましい遺体、それも女性のみ、という。
魔女の助力もあって事件解決まではできたのだが、どうやらそこから出てきた話として。
「ハウケタ邸」
この館の女主人がその「火傷の貴婦人」らしい。
まだ未婚、との事らしいがその美しさは定評もあったらしい。
そして、男爵夫人として貴族らしく、気品も高い、それゆえに顔の火傷が許せないのだろう。

ミーランとしても、確かに納得は行く。爵位もあり、壮麗な女性が顔に癒せない傷を残すというのは、相当に辛いだろう。未婚であり、引く手数多だったなら、尚の事。
だが。
女性の変死事件と何らかの関わりを持つ、となれば話は違ってくる。
別荘に引きこもった彼女がどういう関わりがあるのかわからないが、繋がりが見えた以上、問いただして、彼女の潔白を証明するべきだ。

「その男爵夫人が、毎夜生贄を集めている。」の。

「ミー?」エレディタは悩み顔の相棒に。
「うん・・・」冴えない返事。
ここは。
「何とかしてアマディンヌさんの潔白を証明しなきゃ!」
「あの、ハウケタ御用邸、な。いい噂は聞かへんで?」
「調べたの?」
「当たり前や。なんでも夜中でも灯がつかないとか、奇妙な声とか。後、女の悲鳴とかあるらしいで。
郊外やさかい、あんまり目立たへんのと、それでも給仕志望の女の子が帰ってこない、ないしは連絡がとれへん、とかな。」
「そ・・・そんな・・・。」
「ミーは、少しは疑うって勉強せんと。その純粋なところは、うちは好きやけどなあ。」
「む。でも!ミーだって、事件かな?って。」
「その推察自体は間違ってへん。でもな。ミーみたいな考えは少し、いや、かなり甘いんやで?」
「そう・・・なの?」
「アマディンヌ・ダルタンクール男爵夫人か。こいつは間違いなく黒。大体やな、考えてみ?使用人って、邸宅がどれほどデカイか知らへんけどな。あくまで別荘や。
そこに何十人も給仕、それも女ばっかり。必要か?しかもその採用された子が何人も変死体で発見。ありえへんやろ?」
「それは・・・・」
「せやさかい、もう一言つけとくわ。変死体の子、何かに喰われた傷やろ。ミー、ちゃんと見れへぐらいの傷。」
「う・・・。」
「あんな傷、そこらの獣やったらできひん。魔物しか。」
「確かに・・・フォールゴウドの人もそう言ってた・・・」
「せやからや。」
「うん。」
「ちょっとこれはうちら二人では始末できひんかもしれへん。」
「・・・といえば?」
「あの凶悪姉妹も呼ぶか、そこらへんやらんと。」
「・・・うん。(男爵夫人の潔白の証明、なんとかしたいんだけどな・・)」
エレディタはパールを取り出し(あ、エレディタや。ああ。ちょっと仕事があるねん・・・)

「ミー、来るってさ。なんかやけに苛立った感じやったけど、今はその方がありがたいわ。」
「そう。」
「ま、後味の悪い結果はもう見えてるで。覚悟せえや?ミー?」
「・・・・。うん。」

<<前の話 目次 次の話>>

マユリさんの元ページ