荒涼とした地。
そこに。
二つの墓標がある。
子供の頭くらいの岩と、盛土。
そして、その小岩には何かが書かれていたが、風化のせいで読み取れない。
「あの?」
オレンジの髪が風に煽られているが、気にもしない、できない。
「ミーラン、エレディタ。ここが、おいらの師匠の墓所。つまりは、前剣聖の墓だ。」
二人は息を呑む。
もう二人、姉妹は「辛気臭い話はごめんやで。」と、不滅隊の方に行ってしまった。なので二人は師について行き、この場に。
ベスパーベイから少し。ウルダハにほど近い場所。
「この少し先においらの家族も眠ってる。」
「・・・・・・。」声もない。
「きっかけは。そうだなあ。家族を護るため、か。救う、なんておこがましい話じゃないなあ。」
「おっさん・・」
「エリ・・・」
「だけどなあ。そう。受け継げ、って。そんな話がな。少し長くなるが・・・おいらには、二人の師がいたんだ。
どっちも女性でなあ、しかも「剣聖」を名乗ったのはおいらよりも年下の女の子で、遊び半分みたいな教え方でなあ。
ただ、「剣聖」を名乗るだけの事はあって。でも彼女は心の臓に病があって・・・・おいらと対戦中に命を落としちまって・・・。」
息を呑む二人。
「もう一人の師は、ヒューランの女性で、ちょっとした繋がりで紹介してもらったんだが、彼女は同い年くらいか。それでも剣術の達人で、闘技場の花形だったんだ。」
「その?」
繋がりがよく・・・剣聖と?ミーランはイマイチ把握が。
「ああ、先の剣聖、アイはこの彼女ヴィーと親友でなあ。普段の相手はこのヴィーだったんだ。」
「それでな、アイ師が心の臓の発作で倒れ、おいらに「剣聖」の名と、剣を。それが、ジュワユース、だ。」
「あの?ユパ様?」
「ミー、ここは・・・・」
「それで、ヴィー師も試合中の事故って事で倒れてなあ。身元の引受をおいらが。で、仲良く二人でザナラーンの風が心地いい、おいらの故郷の近くに。って。」
「ユパ様・・・。」
「それで、今回。敢えて。この場に連れてきたのは。」
剣を取り出す。
古く、使い込まれたグラディウス。
「おいらの相手をしてもらう。」
構える。
「え?」「おっさん!」
「参る。」
小剣が閃く。
咄嗟にジュワユースで受け流す。
カキン!
「な、なにを?ユパ様!?」
無言で短剣に替えた右腕が振り下ろされる、ように見せかけて横薙ぎの牽制。
慌てて避ける。
その大きな回避に小剣に持ち替えて、踏み込んでの一撃。
脇腹に鈍痛が走る。
「ぐっ!」
「おっさん!ちょっと待て!」エレディタの叫びも無視して、剣を振るう。
もう一撃。
左肩口、鎖骨が音を立てて折れるのがわかる。
「ぐ!」
さらに来る剣戟に、かろうじて盾を構える。
盾に魔力の灯がともる。
「ユパ様!」吠える。
が、剣聖は黙ったまま剣を。
「ミー!癒せ!」杖を手に、相棒が回復術式を。
「エリ!どうすれば!?」
「自分でなんとかせえっ!」
・・・・・・・・
「うん!」
続く斬撃を盾の剣で弾き、いなし、追撃をさせない。
さらに剣を振るい、追い込む。
だが、さすがにそこまでは許してくれない。深追いすれば逆に距離を詰められ、短剣が襲いかかる。
慌てて距離を取り、盾で薙ぎ、なんとか持ちこたえる。
「ユパ様!」さらに声を。
「ミーラン、まだだ。まだ足りない。」
小剣に持ち替えた、と思わせそのまま短剣で突きに来る。
反撃どころか、受けきるのに必死だ。まさに「剣聖」
盾と剣でなんとかかわしつつ、それでも腕や脚に傷が増えていく。
「癒せ!」
エレディタからの回復術式がなければ、出血と痛みで倒れそうだ。
「どうして!?ユパ様!」
ミーランは必死に問つづける。
「・・・・・」無言の師。
だが。
次第に盾と剣が調和し始めて・・・
盾に備えられた短剣と、ジュワユース。
二つの動きが、剣の舞と化していく・・・。
(おお・・・・アイ師匠。)
ルガディンの師は、かつての師を見るような、憧憬の眼差しを弟子に。
(おいらの出番はここまで、か。)
首筋にジュワユースを当てられ。
「ユパ様?」
「ああ、おいらの負けだ。今日をもって、ミーラン。お前が「剣聖」を名乗れ。」
「え?」
「ミー・・・。」
「師匠達の前で、お前達の成長を見せたかった。ミーラン、エレディタ。二人共、よく頑張った。おいらは、剣聖の名を継ぐいい弟子に巡り会えた。
ミーランは「剣聖」として。エレディタは、「拳聖」として名乗るがいい。これにて、おいらの授業は終わり、だ。」
「ユパ様!」「おっさん!」
「おいらは、家族に挨拶してから帰るよ。お前達の活躍を楽しみにしてるからな。」
荒野を行くルガディンに二人は・・・
「エリ・・・・。」「ん?」
「わたし・・・その・・・」「どうした?剣聖?」
鞘に一度戻した剣を抜き、蒼天に掲げる。
「わたし、ミーラン・ロートスは、「剣聖」の名を受け継ぎます!」
二人の墓標の前に、高らかに宣言する。
「ミー、がんばろうな。」「うん。」鞘に愛剣を戻し。