「おい!ガキ!」
いきなり呼ばれ。
「鼓を持て」と。
鼓?
あー、確かあったなあ。なんか叩くヤツだっけ。
ミッタークは、ごそごそと「押入れ」と呼ばれる倉庫から問題のモノを取り出し。
呼ばれた先にいく。
そろそろ寝ようと用意していたのだが・・・。
その呼ばれた庭先には、紅い着物の白髪の美女と、胸元もあらわな黒髪の女性。
双子の姉妹。
「ミッター・・・もう寝てなさい。」白髪の美女が。
確か、彼女は先日に求愛されたと聞いた。
少し、心が乱れる。いや、かなり。
少年から青年になる年頃の彼には・・・・。
だが。
「いい。白。打て。」
「姉さん!」
「今宵はいい月だ。」黒髪の美女は空を見上げる。
つられて見上げ、「ああ・・・。」と声を。
下弦の月。
西に落ちていく月は、下方に弧を描き、薄い青色を地面に落とす。
ぽん。
小脇に鼓を抱えた白雪が一打ち。
さらに。
ぽん。
今宵は・・・・
薄き月にて、踊りだす・・・・
それは・・・
儚き恋ゆえか・・・・
遠い恋愛か・・・・
ぽん。
白雪が吟じる唄に合わせて、黒い髪の美女が舞う。
綺麗過ぎる・・・・。
少年は・・・幻想的なまでの舞を見て・・・。
「俺・・・」
時に扇子を拍子に合わせ、開いて魅せ、くちにくわえた簪をおどけるように振って魅せる。
ぽん。
「白。お前の人生だ。好きに舞え。」
舞は続く。
「姉さん。」
「唄え。」
喜ばしきは・・・・・
雪のように・・・・
月のように・・・・
花のように・・・・
ただ、散る定めにあらず・・・・・
愛でるのみ・・・・・
ぽん。
この一打で唄は終わり。
姉は舞を終える。
「ガキ。寝ろ。」
「姉さん!」
「え?」今の舞踊を見せつけられて、すぐに寝るなんて・・・無理だ。
「いいから。ミッター。寝所に。」白雪。
仕方なく・・・。
でも。
少年は複雑な気分で。
「ハク姉ちゃん、お嫁さんになっちゃうんだよな・・・。」
黒姉ちゃんはどう思ってるんだろう?
「白。気持ちに整理が付いたか?」
「・・・・はい。たぶん。先のお話、受けようかと。」
「いい話だ。」
「・・・姉さん。」
「気にするな。ミッターのことだろう?私が面倒を見る。」
「はい・・。(でも・・・この・・・)」
「あいつがお前に恋慕を抱いているのは先刻承知だ。が、そこは気にするな。」
「・・・・。」
「とりあえず、あいつには仕事を手伝わせる。順当な選択肢だ。」
「そ、そんな!?」
「ついてこれなければ、それまでだ。その責は私が一人で負う。」
「・・姉さん。」
「元々は、私一人で始めた事、かもな。父の墓守もお前任せ、皆伝者としての責も果たせていない。」
「そんな!」
「そういう事だ。「刀の主」としての責を全うする。私の後を、あのガキに押し付けるとしよう。お前は、幸せになれ。」
「!」
「いいな?」
「はい・・。(姉さん・・・ごめんなさい・・・やっぱり私には・・・耐えれない。全てを・・そして、姉さんにはこんな責任から開放されて欲しい・・・)」