「白。私は少し夜風にあたってくる。」
舞を終えた黒髪の姉は妹にそう告げ、一人出て行ってしまった。
「姉さん・・・。」見送り。
「ふう。しかし久方ぶりの舞だったな・・・。」どこに目的があって行くでもなく。
ただふらっと。
夜風が心地いい。月も西の森のほうに落ちかけている。
グリダニアは、陽や月が見えている時間が立地的に短い。
今夜の月は下弦だったが・・こういう月が一番好きだ。
満月も嫌いではないが、明るすぎる。
特に、こういう仕事に手を染めてからは。
儚く消え入りそうな月に、哀愁に近い情感を覚えるのは、いつ頃からだったろう?
「ふ、一杯飲んでいくか。」
月見酒とは、洒落た話だ。
着流しを翻し、適当な露店を探す。
夜の街を巡りながら、少し・・・・
「チ。」
ターゲットは済んだ。後は・・・・・
「僕が・・・スタッブしてやるよ。」
背中から強弓「コフィンメイカー」を取り出し、適切なポジションを探す。
ただ・・今回の仕事はなんだか気が乗らない。
いつものあのへらへらした男からの仕事依頼ではあるが、今回は・・・
「はい。実はですね。カヌ・エ様の護衛役なんですが。ところがこの護衛が不埒者でして。イクサル族と繋がっているかもしれない、と。」
「・・・かもしレない、で殺すのカ?」
「まあ、万難を排する、ですしね。」
「どいツだ?」
「はい。コレですね。似顔絵です。」紙を渡される。
「・・・・・・まだ子供ジャないか・・・。」
「そういう事もありますよ。貴女もこの仕事を始めた時は俺・・いや、僕から見れば子供でしたよ?」
「チ・・。」
「カヌ・エ様の護衛を交代した時に。そして、カヌ・エ様に気がつかれないようにお願いしますね。では。」
どうしたものか。
嫌疑だけで暗殺するべきなのか・・・。
だが。
交代をして、家に帰るかと思いきや郊外に向かうターゲット。その向こうには・・墓。
「ン?」
そして蛮族の姿も。
声が聞こえる。「うん、大丈夫。だから・・・」「ヨシ、ワカッタ。ソノママツヅケロ。」「ああ。だから・・・」「ジャアナ。」
少年は墓に花を手向け、そのまま街に帰ろうとしている。
「チ。」
「僕が・・・スタッブしてやる。」
狙いを定める。
ひゅん。
蛮族の首に矢が突き刺さる。どさり、と倒れる蛮族。そして、少年は驚いて振り返る。
ひゅん。
その眉間に矢が。
「終わりダ・・・。」
墓に手向けられたニメーヤリリーの花を一輪。少年の手に握らせてやる。
「・・・疲れたナ。何か・・飲みニ行こウ・・・。」
夜の屋台というのは、それなりに盛況なものだ。とりあえず仕事を終えた冒険者が宿が取れなくて、朝まで居座ったり、夜の蝶達が仕事あがりに訪れ、ついでに明日の客をそこで拾う。
「こんなトコしか無いのか・・。」
黒髪は流すに任せ、席で飲んでいるとその格好ゆえか、商売女と勘違いした男が寄ってきては殴り倒されている。
「なンだ?お前まデ?」
「ご挨拶だな?葬儀屋。」
後ろからかかった声に、黒雪は不機嫌そうに。
「僕ガどこニいようトいいだロ?ついデに、酒場で暴れるのハやめとケ。」
「人を商売女と勘違いしてるバカに教育してるだけ。文句ある?」
「そんナ格好だかラだろ?」
確かに、着流しの胸元は露わで、ほんのりと頬が上気した美貌は魅力的で誘ってるとも思えなくもない。
「そちらこそ、色気の欠片もないな。男がいるらしいが、もう少し選ぶべきだろうな。」
フネラーレは黒いチュニックではなく、モスグリーンのシャツにスラックス。髪も後ろで束ねている。
少し地味と言えばそうだが、袖にはワッペンをつけているあたり、少しはお洒落をしているのかもしれない。
とはいえ、暗殺をしに行くのに目立つ格好もありえないのだが。スナイパーなら尚更。
「死にたいノか?」
「冗談。私とやり合えば、死ぬのはお前だ。」
「試すカ?その年で男の一人モ居ない生娘のくせニ。」
「ほう。挑発する以上は死ぬ覚悟がある、でいいんだな?」
「やル?」腰に挟まっているダガーに手が伸びる。
「一応、言っておくが生娘じゃないぞ?」剣の柄に手が伸びる。
そこで。
「ちょっと!お客さん!!勘弁してくださいよ!」と店主。
周りもあまりの剣呑さに、無言で遠巻きに見ている。
「ふん、興が覚めた。」どさり、と腰を落とし直し、酒盃を煽る。
「僕もダ。」隣に座り、ワインを注文。
「こうなれば、どちらが先に潰れるか、だ。」と酒盃のおかわりを。
「いいだロう。」ワインを一気に煽る。
「もうね。その・・私さ。ちょっとね・・・あのガキが気になって・・・」
「うン、なんとなク分かル。僕もサ、最近ネ・・・」
二人は、恋人にまつわるグチを言い合い、お互いを励まし合っていた。
グリダニアの朝が近い。