「ちょっと待てエっ!」
黒髪を振り乱すように。
荒い息もそのままに叫ぶ。
フネラーレは左手に棺桶製造者を持ったまま、ひたすらに走りやっとの事でたどり着いた埠頭に。
そこでは。
「カルヴァラン。」と伏し目がちな金髪の女が恋人に対して・・・
(なんぢゃあ!それは!)と心の中で絶賛絶叫中。
「な・・!?リッ・・いや、フネラーレ?」褐色の肌に青いジャケットのエレゼン。まさかの恋人の登場に、動揺を隠せない。
「カルヴァラン?あのさ?僕っていうのがいながら、この光景はどういう事なのかナ?」
金色に光る目を見せながら、凄む葬儀屋。
「いや、まて。リッラ。本当にこれは、その・・・」
うろたえまくる。
「カルヴァラン?この余興、アタシを辱しめるつもり?」
金髪の女性。
「いや、ちょっと待ってくれ、ローズウェン。これは・・」
フネラーレは・・・
「ふうん。ファーストネームで呼び合える仲なんだ?」と、剣呑な空気を。
「いや、だから待て、リッラ。これには事情が・・・」
カルヴァランはしどろもどろに・・・
「今夜は逢えない、ですって?ほう?宿の手配はしてあるっていうこと?それとも?」
剣呑から、どんどん危うさが増していく表情の黒髪の美女。
「何よこの女。ザコが邪魔しないで。」
紅血聖女団の長、ローズウェンが一言。
「!」
この一瞬。
百鬼夜行を束ねる、元アスタリシア号の副長は空気は凍る事が出来るのだと。
そう実感した。
「なンだァ?この糞。僕にケンカ売るっテ?100年早いンじゃネ?」
「イクスパイレーツ(元海賊)ごときが、この紅血聖女団、団長に言うじゃないか?」
(ちょーっ!)青年は頭の中が沸騰している二人を止める術がわからない。
そもそも。
この女性と相対する理由は、百鬼夜行と商売面での対立であって(私掠船での)、他意はない。しかも、正面きっての決闘をする、と挑戦状が来たのだ。受けて立たないわけにも行かない。
そして、万が一、自分が死ねば当然の事ながら「今夜逢う事」ができないわけで、なおかつ、そんな話を恋人にしよう物なら、飛び出してこの相手を暗殺しかねない。
だが・・現実には・・・
「ほウ?最近流行りの女流海賊ってネ?アスタリシアの僚艦に乗ってた娼婦風情ガ?」
「言うじゃないか、この売女。自分の船を売って体まで売った分際で?」
「殺ス。」
「やってみろ。」
うわあ。としか言えない展開だ・・・
カルヴァランはとりあえず、「あ、その、なんだ。二人共。ちょっと待て?」
としか言葉が出てこない。
「「何?」」
女性二人に睨まれて。
「いや。そうだな。少し誤解がある・・・かもしれん?」完全に目が泳いでいる。
「「だから?」」
「いや、ちょっと、そのだな。少し話をしようじゃないか。」
「「は?」」
二人はエレゼンの男性をそれこそ殺しかねない目つきで、しかも答えがハモっている。
(俺は一体何を間違えたのか?)自問自答してみるが、答えが出てこない。
(たしか・・・東方ではこういうのを蒟蒻問答と言うのだったか・・・?)違うけど。
だが。
意外な展開で決着はつく。
「はん、興ざめだよ!コレでも食いなっ!」
金髪の女性は、白い箱を放り投げその場を去っていく。
「待テ!お前、ぶっ殺す!」
黒髪の女性は弓を構え、
「待て待て。」と言って後ろから抱きしめる。
「ア。」
力が抜けていく。矢を取り落とし・・・リッラはそのまま身を任せる。
「すまない。リッラ。」強引に振り向かせ、くちづけを。
振りほどこうとするが、強く抱きしめられそれもかなわない。
長い口づけが終わると・・・「なんだったの?」としか言えなかった。
「いや、彼女は・・まあ海賊稼業のライバルとして、かな?決闘を申し込まれてね。こちらとしては引くに引けない話だろう?」
(そりゃ、女相手に決闘申し込まれて逃げ出した、じゃ頭領はできないネ。)
「わかった。」
リッラは大人しくなる。
「それで、決闘ともなればやはり誰かを、できれば第三者がいいんだが、見届け人が必要で・・」
「あア、それがベッキィだったノか。」
「?」
「こっちの話。」
「もしも俺が負けるような事になれば、今夜どころかずっと逢えない。でもそれをお前に言えば、だろ?」
「・・・うん。」ぎゅっと抱きしめる。
「まあ、悪かったよ。ところで・・。」
さっき投げられた箱が気になる。ほど近い場所に投げられたその箱を見に行く。
「カルヴァラン!」
トラップの可能性もある。こういった事にはおそらく自分の方が、魔女なんかと一緒に仕事をしてれば耐性がつくというもの。
が。
「なんだ?これは?」
白い箱はハートの形をしていて、赤いリボンが丁寧に。
かすかに甘い香りもする。
「!!!!!!!!!!!」リッラは気が気ではない。「あの女!」
「いい?カルヴァラン?コレ、毒だから。僕が処分する。」
「そうなのか?あいつ、そんな卑劣な手段はしないと思ってたんだがな。」
「卑劣きわまりない!」
(う・・目が離せなくなったよ・・・やっぱり、カルヴァラン、モテるんだな・・)
恋人に抱きつき
「いい?僕だけを見ててくれればいいんだよ。」
「ああ。リッラ。」
(アイツ、やっぱ殺しておこう・・・)