「ン・・・?」
朝から仕事で出ていて、帰ってくれば昼食時を過ぎるくらい。
つい寝台でうたた寝をしていれば・・気がつけば夕暮れという頃か。
グリダニアにある、とある「家」の中、黒髪の美女は黒いチュニックから胸当てだけを外しただけの格好で寝ていた事を思い出し、のろのろと起き上がる。
本気で寝るか、それとも食べ損ねた昼食を取り返すべく夕食は豪華にするべきか。
まだ頭の中がぼうっとして、少し考えがまとまらない。
お腹も空いたが目覚めた理由が少しづつ頭の中に浸透してくる。
まず、外が騒がしい。
基本的にこの「家」は郊外にあり、一般人ではたどり着けないような立地だが。
そんな場所にまで喧騒が届いてくる。
「・・・?」
「ねエ!?ショコラ!いル?」
ほぼ同居に等しい情報屋のミコッテを呼ぶ。
こんこん、とノック。
「どうゾ。」
このノックは同じく同居しているエレゼンの給仕?の女性だ。
「フネラーレ、どうかしましたか?」と声が掛かる。
「ベッキィ、まア入れヨ。」
「はい。失礼します。」
そして。
「ハ?」
フネラーレは意味がわからなくて、口がぽかん、と開いたまま。
「どうかしましたか?フネラーレ?」
給仕姿の女性。
髪は銀髪、漆黒にも近い肌、オレンジの瞳の彼女は「いつものとおり」給仕服だ。
が。
真っ赤なうえにエプロンの胸のあたりはハートマークを型どり、あまつさえ帽子には赤いハートがついている。
しかも脚には白黒のボーダーのタイツだし、なぜか厚底の靴で身長が高く見える。
「そ・・・ソれ?」
「ああ、フネラーレ。ご存知ありませんでしたか。今日の夕方から聖ヴァレンティオン祝祭の開催でございます。」
「・・・ソれって、あれカ。恋人の祝祭日とカ。」記憶を掘り返す。去年は確か祭りそっちのけで恋人のいるリムサ・ロミンサで過ごしたはずだ。
しまった・・・・!カルヴァラン!もしかして怒ってないだろうか?もしかすると航海中かも知れない。とりあえず首にぶら下げているパールで。
(ねえ!カルヴァラン!ごめん!僕、ちょっと仕事で忙しくって!今日中には行くから、少し待ってテ!)
パールからの返事がない。コレは少しマズイかもしれない。
「ベッキィ?あのボンクラとショコラは?」
「お嬢様は何処かへ行かれました。おそらくお祭り騒ぎですので屋台が増えているでしょうから、そちらを見物されているかと。
キーファー氏はわかりません。彼はこういう騒ぎには関心があるように思えませんし、その辺を歩いているか、家で寝ているのでは?」
「デ?ベッキィ?なんでそンな?」
「ああ、このエプロンドレスですか。似合いますか?」
「・・・まア、いいンじゃなイ?でも、なんダ?」
「この衣装はイベント用です。少し里帰りしてきましたらお使いを少しするだけで入手できるという事で、給仕が本分のワタクシとしましては入手すべきかと。」
「お前らしクねーナ。」
「そうですか?それと、ひとつ。お伝えするのを忘れていました。」
「なンだ?」
「カルヴァラン卿が少し考え事をされていましたよ。なんでも女性からのお誘いを受けたとか。」
「え!?」
「はい。お使い仕事のうちの一件ですね。3国を周るうちの一件でしたが。ワタクシでは解決というか、あまり興味が無かったので忘れていたわけですが。
そういえば、フネラーレの恋人だった、と。」
「・・・・・・!!!!!!!!」
「もしお気になさるなら、お会いされてみれば?確か、今夜のお誘いだったようですし。」
今、まさに夕暮れを過ぎる。
黄昏時の短いグリダニアと違い、リムサ・ロミンサは長い夕暮れが素敵な街だ。
「行ってくル!」
「はい。お気をつけて。」
移動術式の準備をする。
その時、パールから・・・
(ああ、リッラ・・・実は、これから用事がある。今夜は逢えないかもしれない。)
思考が停止する。
移動術式の構成が霧散していく・・・・・
な、なんだって?今、なんて?
思考が回復していくにつれ、どんどん深みにはまっていく。(どういう事!?)
無言。恋人の思念はそれだけ。
はぁ?どういう事?他の女との逢瀬?ちょッと!確かに今年の祝祭にはまったく気がつかなかったけドっ!イヤだ、許せなイ!僕だけを見ていて欲しいのニ!
「フネラーレ?大丈夫ですか?」エレゼンの給仕が聞いてくる。
「僕・・・行って来ル。」
「ええ。キーファー氏も何も連絡をしていませんしね。おそらく仕事はしばらく無いでしょう。」
「頼ム!」もう一度、移動術式を編む。
淡い光に包まれ、彼女は姿を消していく・・・・
「殿方にお会いするのでしたら、色直しくらいはすればいいのですけれど。」
今度、そのあたりはしっかり言う方がいいかもしれない。お嬢様ならその手の事は朝飯前だろう。
ベッキィはとりあえず部屋の掃除を始める。
「カルヴァラン!」
黒髪を振り乱す勢いで彼の元に。
だが、執務室に彼の姿はなく。
「あ、姐さん。」と、海賊、百鬼夜行のメンバーから。「これ、預かってます。」と封書を。
「あ、ありがと。」封を切る。
(すまない。今夜は少し腐れ縁と用事ができた。パールも使えないから、こんな手紙で悪い。また今度な。)と。
「はぁ!?ざけんな、あんにゃろう!僕というのがいるってのに!」紙を破り捨てる。
「おい!あいつ、ドコいった!?」
「え、頭領は・・その・・」
「ドコだ?」コフィンメイカーを取り出す。
「その・・・埠頭です・・。」
「わかっタ。」
走り出す。
「ローズウェン・・・」褐色の肌のエレゼンの男性は、向かい合うヒューランの女性に。
「カルヴァラン。」伏し目がちに。
「ちょっと待てェっ!」黒髪の美女が乱入する。