799セブンス。少し先の話・・・・・・鞘の居場所。

「なあ、黒姉ちゃん。」
少年は。そろそろ年頃になってきたからか。
少し色気づいたのか、髪も少し伸ばしそれなりに様にはなっている。

ここは婚儀の場。

黒雪と呼ばれる女性はいつものような着流しだが、色は銀色っぽい白。黒髪がさらに映える。
少し上品な場所だけあって、気を使ったのだろうか?
少年は同じくこの日のために仕立てたスーツだが、どちらかといえば「服に着られている」感が拭えない。
「ハク姉ちゃん・・綺麗だなあ。」
「そりゃ、私の妹だからな。」くいっと一杯。祝杯といわんばかりに杯を干す。
「行くぞ、ガキ。」
「え?お祝いの言葉とか言わないの?」
「ひと目、晴れ舞台を見れば十分。ここに私の居場所は無い。お前はどうしたいんだ?」
「え?」
「残るのか?それとも・・・私と来るのか?」
少し酔いがあるのか、頬が赤らんでいる。
「・・・・行くよ。ダメかな?」
「・・・・・・・・好きにしろ。ふん。」
着物を翻し、宴の間から二人は出ていく。

(ハク、幸せにな・・・)振り返らない。


夕暮れ
グリダニアの郊外から二人は出てくるとそのまま「家」に向かう。
理由なんて・・・ただそこしか帰る場所が無いからだが・・・
「あ、黒雪さん?」と、パールから伝心が。
「なんだ?」
「ひとつ、案件がありましてね。」
「・・・なんだ?」
「いやあ、実はまた暗殺依頼なんですよね。」
「お前・・・今日が何の日か知ってて言ってるんだろうな?」
「もちろん。妹君の婚儀でしょう?」
「・・・・悪趣味なヤツだな?」
「いやまあ、小物なんですけどね。」
「葬儀屋は何してんだ?」
「いやあ、彼女・・・実は・・・その、今手がつけれないほど荒れてまして。」
「なんだそりゃ?お前、あいつのマネジャーだろ?」
「そうなんですけどねえ。僕の手に負えない、というか・・まあ、グチらせてもらうと、ショコラがやらかしちゃいまして。彼女、ああ見えてすごくナイーヴなんですよねえ。」
「どうでもいい。それで?」
「まあ、小悪党の一味が居るんですよ。で、それだけなら暗殺じゃなく普通に冒険者に依頼すれば済むんですけどね。」
「何が言いたい?」
「そこのリーダーが「議会」メンバーの一人娘でしてね。娼館の裏のボスとしているのが、ほら、先日に新米冒険者の娘を売ってる賊の始末をしてもらったでしょう?」
「ああ。」
へらへらとした表情が思い浮かぶ。おそらく今もそうなのだろう。
「そこで名前が出てきちゃったんですよ。困ったものですね。」相変わらずの調子で続く。
「もちろん、メンバーはそんな事実は無い、と言い張るんですが、調査すれば証拠が出てきすぎで、ヘタすりゃそのメンバーまで一枚噛んでる可能性まで出てくる有様でして。」
「・・・・ヒドいな、この国は。」
「ウルダハだと、このくらい日常茶飯事でニュースにすらなりませんよ。」
「・・・・」
「リムサだと、公然とやってますし、それこそニュースよりは茶飲み話レベルですね。」
「それで?」
「まあ、この国は清貧を旨とするカヌ・エ様もいますしね。こういうゴシップは避けたい、という事でしょうね。「議会」としては。」
「ちっ。」
「それで、そのメンバー、名前は明かせませんが、娘を差し出す事に承認を得ました。ということでこの仕事です。」

・・・・・・・腐ってるな・・・・保身のために娘すら差し出すか・・・
その思念も届いたはずだ。

「そういうことで。今夜、地図はショコラに渡しておきますし。一味全員抹殺してください。」

「・・・・わかった。」
パールをしまう。

「おい。ミッター。」

「え?はい?」名前で呼んでくれた・・・!
「仕事だ。「家」に戻り次第、準備する。お前も来い。」
「・・・・・・うん。でも・・。」
「イヤならこのまま消えろ。」
(そんな事・・・名前で呼ばれたんだ。出来るわけない!)「行くよ!」
「なら準備だ。」
首を縦に振る。でも。
「悪党共を一刀両断、って。それだけで満足?」
「今更何を。たわけた事を抜かしているとお前も斬るぞ?」
「ごめん。」(父もそうやって斬られたのか・・)



終わってみれば。大したことのない仕事だったのかもしれない。
小さな宿の一室で乱痴気騒ぎみたいに喚いている連中を黒雪が撫で斬りにしていっただけだ。
普段は淑女の振りをしていた女は、まだ若く・・自分と変わらないくらいの年なのかもしれないと。ミッタークは思った。

女が懇願する。
「た、助けて!あたしの親は!」と。

そこで、もう二度と言葉を口にできなくなった。
髪を掴まれ、立たされていたのだが、体が床に倒れこむ。
頭を残して。

「ミッター。この女の首だけ詰めろ。」と。
ごろん、と首が放り投げられる。
「・・・・うん。」仕事を始める。


「家」に戻る。
さすがに今回は返り血が無し、というわけでもなかった。
白い美貌が朱に染まっている。

「ミッター、水浴びしてくる。」と。「うん。後で僕も。」

水浴びから戻って来たミッタークは少しどころか本気で驚いた。

「ミッター。抱いてくれ。」
黒雪は一糸まとわぬ姿で待っていた。


二人の夜が過ぎていく。

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