「く!」
砂埃の混じった風の吹く中、一瞬の躊躇か、それとも・・・
「ま、待って、軍曹さん!」
崩れかけた遺跡の壁際に身を隠していたが、隊長である軍曹が部下に命令を下した。
アマルジャ族を捕獲して、事件の内容を吐かせる、というものだったのだが。
異変を察知、というか、嫌な予感がしたのだ。
冒険者というのは、トラブルとは常に隣り合わせだし、それが対処できてこそのトラブルバスターである。
中天も間近な陽の下、オレンジの髪のエレゼンの女騎士は、軍曹を止めるが、すでに部下達はたった2体の蛮族を捕獲すべく躍り出ていた。
内心、何もなければ、とは思いつつ、そうはいかないだろうと。
覚悟も決める。
「なんだ?」と、軍曹が顔色を変え・・・
やっぱり・・・!
蛮族の咆哮が聞こえる。おそらくは仲間を呼ぶ気だろう。
こうなってしまえば、できることをするだけ。
すぐ後ろに控えている相棒に「エリ!」と呼べば。「ああ。行くで。」と返ってくる。
うん。
その後ろからも姉妹の声が。
場を飛び出してみれば、アマルジャ族がわらわらと現れてくる。
どう考えても、今しがた呼んだだけではこうも行くまい。
ハメられたか、と思い後ろを振り向こうとし・・・
聞きたくなかった言葉を聞いてしまう。
「・・・・・・って、寸法さ。」
隊員、いや、「元」か。
壁際から出てきた軍曹相手に剣を突きつけた男。そして、その横でニヤけた顔の男。そして哄笑を続ける商人。
度し難い。
抜刀する。自分の信じる正しき道のために。
「許せません。」
ミーラン・ロートスは、師から受け取った剣を前に。
「このジュワユースに誓い、あなた方を厳正なる裁きの場に連れて行きます。」断言。
凛とした発言に、「元」隊員は濁った目で。「あ?」
「姉ちゃん、なにいってる?お前ら全部貢物だぜ。その前にたっぷり遊んでやるがな。」
下卑た笑みで返してくる。隣の男もだ。その意味は十分わかっている・・・
一度目をつむり・・
もう一度開く。
盾を構える。
盾の中に魔力の火が灯る。主の意志を汲み取り輝き出す。
「覚悟なさい!この外道っ!!」
走り出す。
陽光を照り返し、蒼い刀身が冴える。
そこに相棒から「ミー!こっちはこっちでやるさかい!そいつらブチのめせ!」
うん。
「エリ!無茶はしないで!それに、こいつらにはちゃんとした罰を償ってもらいます!」
駆けた速度をそのままに。
向かってくる剣を、ジュワユースではなく、盾についた短剣で弾く。
「なんだとお!」男は弾かれて勢いを逃がすことができずにバランスを崩す。
そこに盾をそのまま正面から叩きつける。
「ぐお?」たまらず転げる男。
「こっちはどうだ!」と、もうひとりが斬りかかる。
「あんた、バカ?」
ミーランは、愛剣をさっと振る。
信じられないような速度。
ジュワユースは、軽いわけではない。ただバランスが恐ろしく「神の領域」なのだ。まるで平手で触るような。重さを感じさせない比重。そして、そんな剣を扱える人間は限られている。
「剣聖」と呼ばれるような。
「なん・・だと!?」剣を弾き返され、しかも腕の腱にひと太刀。
「斬りかかる前に「挨拶」するなんて。初歩以下だわ!」
自分もしっかり返事をするあたり、相棒からは「お人好しにも程がある」と苦言を散々言われているのだが。
がつっ。
剣が脛に中る。「あっ!?」
ミーランはとっさの事に注意が逸れていたことを悔いるが・・・
「あめえ。姉ちゃん。」
さっき、盾で転ばせた男が寝転びながらも足を狙って剣を。
「う。」バランスを崩される。
剣士としては、バランスがとても大切だ。
そのことは愛剣が一番教えてくれている。なのに・・・
「じゃあ、たっぷり遊んでやるぜ!」
転びそうになりながら、なんとか・・
「ミー!」相棒が叫んでくる。彼女も3体ほどのアマルジャ族を相手に獅子奮迅の活躍を見せている。
こんなところで!
エリにもし・・
いや、させない!
「とああ!」
後ろに転びそうになりながらも気合を入れ、逆に後ろに倒れ込んでしまう。
が、その重さと勢いを利用して転がり、体勢を立て直し間合いをしっかりと取り。
立ち上がった時に勢いよく剣を振りかざす。
「喰らいなさい!」
振るう。
だが、この一撃は剣でしのがれて・・・・
いや。
次の剣。
弾かれた剣を立て直しての次?は神速に等しい。
相手の剣を弾き飛ばす。
さらにもう一撃。
うつ伏せに近い男の首筋に。
その直前で止める。
「降参してください。あなたを裁くのはわたしじゃありません。」
「この・・・・くそアマ・・。」
男は断念したようだ。
もう一人の男も剣が握れないように切ったので、問題ないだろう。
「エリっ!?」
相棒に目をやる。幸いにも2体を倒し、残る一体だけのようだ。
周りに目を。
姉妹はそろって問題なく敵を排除しているようだ・・・・「殺さないでね・・・」とは、もう遅いかもだけど。
そして、隊長の軍曹を見る。名前すら聞いていなかった気もするが・・・
彼は問題ないように見える。
ただ、虚空を見つめるように・・脱力した感じが・・・
「あの?」と声をかけ、そして振り返る。
「。」絶句した。