757セブンス。さるご家庭 いち

雑踏と威勢のいい売り言葉、それに負けじと声を張り上げ冒険の誘いをする者達。
薄暗くなりつつある街並みは、商売魂とそれを上回る熱気とでむせ返りそうになるが、最近は馴れてきた。住んでみれば意外と心地いいのかもしれない。
ふわふわした金髪をゆるい風に揺れるがに任せ、マルグリットは家(とはいえ、アパルトマンだが)に足を向ける。
ウルダハも色々と物騒な話や、ちょっとした犯罪・・スリや、恐喝、ナンパ(強制)などはあるが、その程度くらいなら自分ひとりで対処はできる。
ただ、主人の方はちょっと・・。実力はあるし、問題は無いというか。主人は、手加減?いや、加減がよく分らないのか・・。
すぐ、謝り倒して、事なかれ主義・・・悪く言えば、少々情けない。もっと堂々としなさいよ、と言っても「相手に怪我させちゃ悪いし、俺も怪我したくないしね。マリーも怪我はしちゃダメだぞ。」
とにっこりされたら、反論などできようハズもない。などと、考えながら、今夜のメニューを考えながら露店を回っていると、そういう考えが流れ出たのか・・・。
露店で野菜の値段を見て、「今夜はサラダは控えようかしら・・」とか言って店主と値段交渉を始めた矢先に。ぐいっ、と後ろから右肩を強く掴まれ、振り替えらさせる。
「あの?何でしょう?」と、「何」が聞いて呆れる台詞をぽつん、と出す。
未だ右肩から手を離さずにいる男はイカめしい表情で、「お嬢さん?あんた、アラミゴ者だな?」と。
確かに自分はアラミゴ出身だ。が、帝国に蹂躙された故郷はもう無い。それゆえ、散り散りに他国へと流れ行き、あるいはレジスタンスのために荒野に反撃の狼煙を挙げる者達もいる。
ウルダハは、意外と受け入れをしたのだが、その大半は隷属に等しい環境であったり、剣闘士であったりと、お世辞にもいい環境とはいえない。
その中でマリーのような年頃で自由を謳歌できるというのは珍しいといえる。そこにつけ込んだチンピラなどは、
それこそ数多いのだが、彼女の剣の実力で屋外であれば全く問題なくご退散、となるが・・。
街中で剣を振り回すなんて話はさすがにできない。ソレを狙って、か・・?と少しウンザリしながら相手をしようと。一人くらいなら、なんとでもなるだろう。
ところが、幾つか考え違いをしていたようで。
まず、第一に相手は一人ではなかった。少なくとも4、いや6人?そのくらいは。
次に、別にアラミゴだから、が理由でもないらしい。というのも・・
「この前よお。ウチの若けえもんが、アンタと同じアラミゴ者にいきなり蹴り飛ばされてよ~。治るのに1ヶ月とかいう怪我したんだよお。
でな、その話には後があって、だ。アンタとソイツが仲良くおしゃべりしてるのを見た、って話さ。じゃあ、どうするか?わかるだろお?」顔が近づいてくる。
「あの・・・。すみません。」
「あやまりゃ、イイってんじゃあねえんだ。なぁ?」
「いえ、そうではなくって・・。」
「あん?なんだ?」
「息が凄くクサイので、離れてくれませんか?それと・・・もう手遅れな感じですし、手も放したほうがいいかも。」
「ンだとぉ!」わめくチンピラの肩を誰かが叩く。
「んだよ、今シメるトコロなんだよっ!邪魔すんじゃねえ、舎弟のクセによお。」振り返る。
そこには。
「いえ、俺は舎弟になったつもりは無いんですがね?で、俺のかわいい妹に何迷惑かけてるんですか?」
「は?」男はポカンと。大口が開いたまま。
「いや、申し送れましたね。俺はウルラ。ウルダハ剣術士ギルドにて、師範をしているんですがね。」短めの金髪にクセ毛がトレードマークの優しい感じの青年。
「お兄ちゃん。来るの遅い。」
「いやあ、悪い。少しファーネの修行に熱が入りすぎた。」
「もう!イジワルはいってない?ソレ!」頬が膨らむ。マリーの夫ファーネはヒマな時に兄であるウルラに剣術を指導してもらっている。
普段はアリティア物産なる企業にコネで入れてもらって全うに働いている(元大金持ち)
その兄の肩越しから、二人の人物・・夫であるファーネと、親友のマユ。
完全に孤立状態になった男は無言のまま、なんとか立ち去ろうと・・。
「ダメだなあ、君。俺の妹に乱暴しておいて逃げ出そうなんて。あ、そうか。人目の無い所でゆっくりと、だね?いい心構えだよ。妻なんかさっきの連中だけじゃ物足りないみたいだし。」
と後ろを振り向く。
その時に見えた女性は、確かに弟分を施療院送りにした女、聞いたとおりの容姿。「え・・」
足元には、手足の関節が普段は曲がらない方向に向いている手下達。
「あの・・その・・・お話だけではダメでしょうか?」
すると、「うん!お話でいいよ。ところで、あたしの旦那様もアラミゴ出身だし、あたしも半分アラミゴなのよね?どう?いっぱいお話しましょうね?言いたくなければ体に直接聞くから♪」
朗らかに、少女っぽい声と容姿の女性は、短めに整えてあるブルーグレイの髪を揺らしながら。ただ、目は笑っていない。
「はは・・・」男は連れて行かれ・・・・


「もう!まいったわね、ホント。」マリーは帰り道すがらに。
「ごめんごめん、迎えに行くの遅れちゃって。」マユがぺろり、と舌を出して謝る。
「いや、これはお兄ちゃんが悪い。」
「まあまあ、マリー、その元は俺なんだから、あんまり義兄さんを攻めないように。」一番年長ながら、この親戚の中では一番下になる?ファーネ。
ややこしいので、上下はなし、という事にしているのだが、この青年は真面目というか、腰が低い。ただし、根っこの部分は一番芯が強いのかもしれない。

そして、ようやっと目的地のアパルトマンへと。ここは、マユ、ウルラの住処であり、マリー、ファーネは今夜のゲスト?というか、皆で食事をするという計画だったのだ。
マリー達のアパルトマンも実は近場なので、気負うことなく、というか、マリーの子供とマユの子共を交代で面倒をみているという。
そして今日は・・・・「ママ!おかえり!」と長女アナスタシアが出迎える。
「まま!」と、アナスタシアより、幾つか年下の男の子、アクィラも。
そして最後に、「まーま!」とアクィラと同年代ほどの男の子、マリーの子で名はセレーノ。
「みんな、おとなしくしてた?」とマユ。そして荷物持ちの男達がキッチンに向かい、マリーも子供達の相手を始める。
「うん!だいじょうぶ!」とターシャが言うと、男の子達はそろって首をブンブンと縦にイキオイよく振り続ける。
(あー、これは・・また、ターシャめ・・・)この3人の中では、ターシャは絶対的君主として君臨しているのである。
マリーの家では得意のネコかぶりを発揮しているのは予想するまでもない。なにせ、マリーはその事に全く気がついていないのだから。

さてと、男供にいつまでもキッチンを任せておくととんでもない事になるのは経験積みなので、
マリーと子供達を連れてリビングに行くと、交代を言い渡して、マリーとターシャの3人で準備を始める。
「今夜は何にするきだったの?マリー。」
「んとね、シチューかな。野菜が高くってね。サラダとかあきらめると、野菜はシチューで摂ろうって。」
「なるほど、じゃあ切り出しお願いね。あたしはお肉準備しとくから。ターシャ、そっちからボウル持ってきて。」「はーい。」
「ターシャちゃん、お手伝いちゃんとできるのね。」「えっへっへー♪」「もう、甘やかしちゃダメよ?」

空色の瞳をした男の子セレーノは、この叔父にあたる金髪の青年の武勇譚が大好きだ。
そして、それが少し誇らしいアクィラだが、セレーノの父、ファーネの紳士な物腰も凄くうらやましいなんて。
そんな息子二人と父親たちは談笑し、テーブルのセットを用意しながら、今夜は飲んでも大乗だよな?とか、年代モノのワインを弟が送ってくれてね。是非飲もう。など。
和やかに夕食の準備が進んでいく・・・。

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