756セブンス。何処・・・

「まったく、世話の焼けるコト。」
あたしはついイキオイで受けてしまった依頼にちょっとばっかしの後悔と、キナ臭さを。
なんだか、回りくどい。正直な話、家出してしまったシルフもシルフだけど、イタズラかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
ついでに言えば、このくらいの捜索なら、シルフでもできる、というか、人間が怖いなら何故あたしに依頼するんだか。かえって隠れるんじゃあ?
ここで、考えを整頓。
まず(イタズラかもしれない)シルフの家出。
次いで、そのシルフが怖がっている(らしい)人間(あたし)に捜索依頼。
さらに、長老の会わせてほしい話から、信頼を得るのにという理由。コレは挨拶の時点で、あたしがカヌ・エと同席しているのを思い出した時点で問題無いハズである。
この条件で、といえば。
まず第一に、時間稼ぎ。なんらかの都合で長老には「今」会うことができない。病に臥せっている・・は無い。それならかなりの長期にわたり時間を稼ぐ必要がある。
という事は、今どこか・・それこそシルフ領に出向いているとか。もしくは、なんらかの敵対勢力に捕らわれている・・・。どちらかが有力・・・。

第二に、体よく追い払われた。シルフの家出が本当であれ、狂言であれ、見つかるはずが無い捜索で失敗、ないしはそのまま帰らず依頼を放棄することを望んでいる。
無くは無い。書状の内容がなんであれ、不干渉を望んでいる可能性はある・・・

第三に、二つの理由の混成。長老が居ないのでとりあえずの時間稼ぎと、できれば帰って欲しい。無くは無い。

「どれか?な・・・。あたし的にはやっぱり一番目が濃厚っぽいんだけどな・・。」
独り言をつぶやきながら、まとめた考えをとりあえず放置して感覚を研ぎ澄ます。
ん・・・。さっき、なんかが動いた・・・。羽音がするわけではないシルフ達だが、木々の葉がこすれたりや、虫達の鳴き音色が少し変わったりと、変化を感じ取る。なつかしい感覚。
いた。
思ったより早く接近できたみたい。これは、家出はあながち狂言ではない、か。動きがなんだかフラフラとしてそう。
行くアテがない、訳でも無さそうだが・・・ハチミツ云々とかの話もあったんだし。いや、もうハチミツは分けてもらったのか?うーん?あ!?思い出した。
ミルクートだっけか。好物らしいし。これで交渉条件としては好転したと言えそうだ。
あたしは仮宿用に持ってきたハズの3本のうち1本はココが使いどころだと踏んで。
気配のした方に進んでいく。できるだけ静かに・・・。

「ねえ、ソコの君?クラクシオかな?」
ふわふわと所在気なく浮いている、というか、飛んでいる、というか。
コッチを見ると、驚いた顔?で逃げ出す。
アタリか。マップを見る。ホウソーンさんとこに程近い森の中。割と行動範囲は狭そうだな、と飛んで行った先の予測をしながら、静かに歩く。
と。その前に保険だけはしておくか・・。
「紡ぐ声は、盾となりし。」光の盾が周りに展開し、「土の声は、我が身をかばう。」土や小石の障壁が、ざぁっと周りに渦巻いてその意志を示す。
予想だと、この先は崖で到底上りきれるものではない・・・マップでは通行できない、となっている。そして案の定、そびえ立つ崖の前でこちらを伺ってくるシルフ。
軽いステップで挨拶をしながら、「皆が心配してたわよ?」と声をかける。
「ぐ・・・でも!でも!悪い子達が怖いでふっち!」
「それをなんとかしようって、お話を長老さんにしに来たのよ。あたしは。」
なだめて・・・本当に書状にそうあったかは知らないが、方便も交渉には必要である。
「ウソだふっち!」あっけなく瓦解した交渉だが・・はて?となると・・。
「長老はどこかに行ったでふっち!もうもう、ダメかもでふっち!」
「ちょ!?え?待った。マテマテ。ダメ?どういう事?」
「ニンゲン、知りもしないのにウソついたでふっち!やっぱり怖いでふっち!」
慌てて逃げ出していく。
「あ、待って!」
どういうこと?やはり時間稼ぎで正解っぽいが・・。ダメとは?どうにも穏やかじゃない。
いやいや、そんな話は聞いてない、着いてみれば会わせてくれなくって、とホントの話をしても、信用が無さ過ぎる。まいった・・。
少しの反省をしつつ、とりあえず追いかける理由が増えたのは間違いない。
今度は大きな樹の根元あたりで見つけた。どうもウロがあるらしく、頭をそこに突っ込んで「隠れた」と思っているのだろうが。いかんせん、頭しか隠れていない。
こっちも簡単に見つけた理由の一つとしては、焦って逃げると大体直線コースをとる。ジグザグに逃げているつもりでも、知らずそうなるものだ。
そして、概ね利き手の方に少しづつずれていく。足で歩いていれば利き足の逆だが。
これは訓練しないと矯正できない。
「さて。クラクシオ。そのお話をちょっと聞かせて。長老がそんな危機なら、あたしがなんとかできるかもしれない。どうかな?」
「な、なんでココがわかったでふっち?ちゃんと隠れたのにオカシイでふっち。」
頭を引き抜き、こちらを見てくる。いや、睨んでいる、か。そして。
「クラクシオがねがうでふっち!なんだかいろいろとめのまえのイジワルなヤツにこれでもくらえみたいなものをぶつけるでふっち!」
な。術式か。構成を読み取ると少し噴出しそうになる。かわいい・・・。
突風はびゅうっと吹き抜け、土の加護に頼るでもなく怪我どころか、髪をなびかせただけ。
空撃(エアロ)だろうが・・構成があちこちとほつれていて、しかも呪が長すぎて、魔力を十分に展開させた構成に注げていない。初心者レベル、というか、見よう見まねかしら?
しかしながら、コレはかなり重要なポイントでもある。雷撃ではない。ラムウに心酔してしまえば、雷撃、それも上位のものが扱えるだろう。それが・・コレ。
「ふう。」息を吐き。交渉材料その2を取り出す。
「コレ、何かわっかるかな~?」白い液体の入ったビンをとりだす。
「そ、それはまさかでふっち!」
簡単に術式をあしらわれているのも忘れ、ビンに夢中だ。
「そう、ホウソーンさん家のミルクートですよ?」
「ほ、欲しいでふっち・・・・。」
「そう?じゃあ、おねーさんのいう事聞いてくれないかなあ?」
「きくでふっち!ホントにくれるんでふっち?ウソはダメでふっち!」
「はいはい、じゃあ、君もウソは無しね?」
「ウソなんかつかないでふっち。シルフはウソは無いでふっち!ニンゲンと一緒はダメでふっち!」
「そのかわり、イタズラは真剣なんだっけ・・・。」
「そうでふっち!それをニンゲンがウソとか言うものだから、シルフも怒るでふっち。真剣なイタズラは敬意を表してするのでふっち!」
「今回の家出はイタズラ?」
「本気だふっち!悪い子が怖いでふっち!」
「ま、その辺はこの際おいといて、長老からね・・・・」

「なるほど・・。トトラクの千獄、て言ったわね?ふむ・・。」
「ミルクート、おいしいでふっち!」
なんだか、すっぱいんだか、発酵しすぎたミルクというか、ちょっと味見がしたくない香りが漂う中、推測だけじゃダメだな。と結論付ける。
ついでに言えば、逃げ込んだ先も問題がありそうだけど、それはそれで今はどうにもならないわけで。すでに1日以上が経過している。
これは、一度仮宿に行かないとダメかしら。
「とりあえず、おうちに帰りましょう。ね?」
「んー・・。わかったでふっち。」


帰ればさてどうしたものか。救出隊に志願すべきだろうが。
「なるようになるか。」「なにか言ったでふっち?」「長老さんを助けなきゃね。」「ありがとうでふっち!」

そして、救助が確定し、その一員に・・・。詳しい説明を受けたのは、もう隠す意味が無いから、とのこと。それに夜になってしまい、今日はもう休みになるからだ。
そして、朝イチでグリダニアに報告し、とんぼ返りで救助に向かうという手筈に。
「疲れるわね。ま、しゃーないか。」
まずは休息だ・・・・

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