「お帰りなさいませ。ご主人様。」
真っ赤な給仕服、白髪を少し黒く染め。
ヒューランの少女は「黒衣」を迎え入れる。
グリダニア郊外にあるこの「家」
年の頃はそろそろ17かそこら、か。
そんな少女に、黒衣の男は「ただいま。」とだけ。
そのままリビングへ。
すでに用意されていたワインを片手に男は帽子を脱ぐと、「クラ、おもしろい物が見れたよ。」と、珍しく話題を振ってくる。
「はい、ご主人様。どういった物でしょうか?」クラリオンは問いかける。
「それがね、東方?かな。剣技でね。ああ、コレは土産だ。」袋を手渡す。
「いつもありがとうございます。」袋の中身はクッキーだ。そして袋にラベリングされているのは有名店のもの。すぐに売り切れるため、簡単には手に入らない。
(どうやればこういうのが簡単に手に入るのかしら・・?しかもお仕事の後に・・。)
「いやあ、それでね。」黒衣の男の話は続く。
黒髪の女性の剣技の冴えを見物していた、との事だが。
あいもかわらず、この黒衣の実力というか、真実はつかめない。ただ命の恩人、というだけ。
自分としては、恩返しがしたいのだが、どうしていいか分らない。
5年前、家を蛮神に焼き落され、半壊した家でたった一人生き残り、瀕死の重傷だった自分を助けてもらい、後から聞いたのだが、死んでしまった家族の弔いまで。
この恩に報いるべく、必死で彼の行方を探して。
そして、茶色いミコッテの女性の情報屋を見つけ、事情を話し、どうしても、という事で教えてもらったこの「家」(話しを聞いたミコッテは泣きながら教えてくれた)
ここに移り住んでからの自分は何をすればいいのか?
そう考えて、給仕でこの主に尽くす、と決めた。
彼は「ご主人様」という呼び方がいまいち気に入らないようだが、自分、クラリオン・シュピラーレにとっての「ご主人様」には変わりが無い。
もし、身体を求められても、抵抗するつもりはないが、そういう事は一切無い。
(ちょっと残念・・。)
そういうストイックなところも尊敬に値する、と考えて。
ただ・・。
この方の年齢はいくつなのだろう?とは思ったことはある。
聞いた事は無いが。
出逢ったのが5年も前なはずだが、容姿は変わらない。
そして、聞いた話だと、かの魔女よりも早くにこの「家」に居るらしい。
という事は・・・・。
もう考えても意味が無いので、自分のできる事に専念するしかない。
「なあ、クラ。僕もあの剣技、やってみようかな?」
いきなり話を振られ
「え?ええ。わたしは見た訳ではないので、是非拝見したいです。」
「そうか。これなんだが。」と刀を取り出す。
「え?」いきなりの事に驚き。
「左文字、といふらしい。」
椅子から立ち上がると、空いたワインボトルを放り投げ。
何をしたのかが分らない速度でボトルが綺麗に切り裂かれていく。
「え?」
ちん。
鞘に刀が納まる音が聞こえたが、それすらが何か分らない。
そして落ちてくるボトルのカケラ達が。
「滅する。」
この一言で消えてなくなっていく。
あんまりといえば、あんまりな事に、開いたクチが塞がらない。
「どうかな?」
「。。。。。。。」
「もうちょっと趣向を凝らすべきだったかな。ワインのおかわりをいいかな?」
煙草に火を灯すと、ゆったりと椅子に座り。
「はい。すぐにお持ちいたします!」と駆けて行く。
やはり、師と仰ぐだけあり、とんでもない速さで呪を紡ぐ。
しかも、そんな名刀をいきなり手に入れて、尚且つ、先ほど語って聞かせた抜刀術なるものを、いきなり披露し、かつその後の術式など、見た事も聞いた事も無い。しかもあの速さ。
ワインセラーに向かいながら「さすがご主人様。」としか言いようが無い。
「お待たせしました。ワインをお持ちいたしました、ご主人様。」
「クラ、その「ご主人様」はそろそろ勘弁してくれないかな?」
「いえ、ご主人様はご主人様です!」