「アンタ。」
黒髪の女性はナックルを装備して。
「どうかしたかな?」
黒衣の男は涼しげな空気を振り撒く。
さっきまで、恐ろしいほどの術式構成を相棒にぶつけ、一瞬にして標的を変える、というある意味離れ業をしでかしながら。
この笑み。
とんでもないヤツと組んでしまった。
「さっきのは、どういうつもりなんや?聞かせてもらおうやないか。」
「おや?敵がいたから術式を構成したのが気に入らなかったのかい?」
素知らぬ顔で。
「さっき!ミーを狙ったやろっ!説明せえやっ!」
「ああ。手違い、だよ。ちゃんと敵を落しただろう?」
「この野郎っ!」
次の瞬間。
膨大な術式が展開される。
「おっと。」霧散する術式構成。
「ひ・・。」腰が砕ける。
「女性に手をあげる趣味は無い、といわなかったかな?」
「アンタ、何者や?」
「ただの術士、だよ。特に付け加えるなら、女性には甘いね。」
「マヤ、とかいうたな?そんな名前、その腕前。聞いた事あらへんで。」
「おや?では、仲良くしませんか?」座り込んだエレディタに手を。
差し伸べられた手を受けながら、油断のならない男だ、と記憶に入れておく。
「それでは、エレゼンのお嬢さんもお呼びして、依頼をさっさとこなしましょう。」
にっこり。
コイツの笑顔は絶対ヤバイ。
本能が告げる。
ただ。
悪人では無い。
それが、一番タチが悪い。
善人ヅラしながら近寄ってくる男なんてのは、イヤというほど見てきた。
ほとんどがカラダ目当てだったが、そういうのは大抵見た瞬間分る。もちろん、早急にご退場していただくのだが。
この男はヤバイ。
悪意が全く無い。感じさせない。
ただ。
殺気だけは人並みはずれて凄まじい。
ただ、それが。
たったの一瞬しかない。
術式の構成展開も一瞬だが、その時には殺気が無かった。
ただ、ふとした瞬間だけ、殺気が。押さえ切れないのか、試されているのか。
悪意が全く無いにもかかわらず、あれだけの殺気を隠そうともしない。
いや、隠している、のか?
とりあえず、「要注意」とだけ。
「どうかしましたか?」と黒衣の男。
「いや、まあええわ。」とりあえずは今だと二人でも勝てない。
「ミー、行くで!」相棒を呼ぶが。
「エリっ!ごめん!今それどころじゃない!」
「ミー!?」
ギャリンっ!
剣戟の音。
「おや、お目当ての相手に出会ったようだね?」
「アンタ!ミー、今いく!」
「エリ!大丈夫、なんとかなる!」
「このアマがっ!いいやがる!」
男の声が混じり。
「おとなしくしなさいっ!」ミーランが珍しく大声。
「なあ、アンタ。俺じゃちょっとばかり無理だ。そこで交換条件といこうじゃねえか?」
短剣を振り、盾で流されて。
剣の一撃は横振りにされて、刃が当たっていない。
「どういうつもり?」
「本当はこういう相手に会いたかった、と言えば分ってもらえるかな?」
「意味が分らないわ。盗賊なのよ?」
「ああ。ただ、俺はもう正直限界だ。ただ。ただ。コレだけを。エメリアに。頼む。俺はどんな罰でも受ける。お願いだ。」
次の一打で倒れる盗賊。
「おや、終わったみたいだね?どうする?」黒衣の男に。
「コレを預かったわ。」書簡を。
「ミー?怪我は?」
「うん、大丈夫。名のある盗賊さんだったみたいだけど、腕前ではわたしの方が上だったみたいね。」
「ミー、自信もてと。いつも言ってるやろうが。」
「おや、頼もしいね。このくらいは防げるかな?」構成術式を展開。
「ま、まてや!アンタ!」
一瞬で展開された術式は。
倒れた盗賊に向けられていて。
「ちょっと!」ミーランが盾を黒衣の術士に中てに行く。
「おっと。」すっとかわし、構成を霧散させる。
展開された術式は相手を即死させるに十分以上、完全なオーバーキル。
そんなものを無表情で展開する、たとえ相手が犯罪者であっても、だ。
コイツの方がよほど犯罪者よりタチが悪い。
「とりあえずは衛兵呼んで、とその前に縛っておくか。」
「まず、このにーちゃんを縛るのがええと思う。」
「はは。そういうのは遠慮したいね。」
「これは?」
書簡を受け取った女性は。
「その・・。あなたに色々と送りつけていた盗賊が、どんな罰とも引き換えにしてもいいから、あなたに届けて欲しい、って。」
書簡を受け取り、女性は。
その場で泣き崩れてしまった。
「おにいちゃん・・・・。」
宿で聞いた内容はこうだ。
涙を流しながらエメリアが語ったのは。
「実は・・・兄、だったんです。」
と。
送りつけられた書簡には、一緒に暮らしたい、とか。変質者めいた内容と思えたのだが。
違ったのだ。
幼い頃、引き離された兄妹。
記憶も曖昧な。
言われて見れば。
顔も思い出せないが、確かに居た。
そして、好きな花も。
確かに贈り物には常に花の種があった。
「おにいちゃん・・。」
そうだ、二人で花畑に遊びに行った。思い起こす。過去の・・・素敵な思い出。
書簡には、親族の都合で引き離され、盗賊に身をやつして偶然見かけた妹を。
探してまわり、ハーストミルに勤めているのを見つけ。
居ても立ってもいられなく、当時好きだった色の衣装や、似合うだろう、と思った物を勝手に送りつけ、迷惑をかけただろう、とも。
罰を受けた後、一度でもいいから声を聞かせて欲しい。と。締めくくられていた。
涙に濡れる女性を慰めながら。
(うん。情状酌量してもらおう!)と、ミーランは。
視線で、わかってるで、と相棒。
「いいね。君達。また遭おう。」と黒衣の男は去っていく。
「なんやったんやろうな?」
黒衣の男を見送りながら。
「え?」
「あの黒衣。」
「ん?だれ?」
「ミー?」
「さっきの男やんか。」
「あれ?そんな人いた?」
「ミー?」
あれ?なんだか自身も記憶が・・・。
「ん?黒い服の・・あれ?顔が思い出せへん。って?あれ?男?」
「エリ?何言ってるの?」
「いや、気のせいや。なんかもう一人おったような気がしたんや。」
「いえ、お二人だけでしたよ。」涙を拭きながら。
「ほら、エメリアさんもそう言ってるじゃない。」
「そーかー・・。なんや、おかしな気がすんねん。」
「エリ、気にしすぎ。」
「そーかいなー。」
黒衣の男は。
「ふ。」と笑みだけを。
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690話 どんどん話数が増えてくねw
Marth Lowell (Durandal) 2013年09月05日 14:17
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>マルスCEO、話数は・・・
読者様が居られる限り、どんどことw
そして、もーちょっとで700が見えてきたw
年内に1000とか、自分で無茶振りしてみるw
やっぱ、無理かw
まずは700だね!
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年09月05日 14:57
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やる気の勢いに「いいね!」ポチっ
Ephemera Mitoa (Durandal) 2013年09月05日 21:20
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>えふぃたんも。そーいや無茶振りする派だったよね。
えー、3月で100話がええとこですよーだw
その3倍増しって、赤い彗星じゃあるまいしw
そんな感じでたのんますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年09月06日 00:09
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まゆ~デュランダルきてる~?tellしてくれればすぐ回収するよ~。
もしやと思ってきたらまだ†ロードスに篭ってたか==;
Crystal Mana (Hyperion) 2013年09月06日 02:48
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>まなん、回収さんきゅw
ロドスト小説はなんか、日課だねwもうw
1日空けるとウズウズしちゃうw
ネタも色々と欲しいからインもしてるけどw
最近、キャラ増えすぎでどうしよう、とか悩んでますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2013年09月06日 06:35