691セブンス。師弟?

「ご主人様。どちらへ?」
森の古都グリダニア。
「別に。それに僕の事を勝手に主人にするのはやめたまへ。」
黒衣の男は、ミッドランダーの女性に。
小柄な彼女は給仕服。それも「主人」に反して真っ赤。
が白い、というか白銀を少し黒く染め、コントラストとしてはかなり奇異にも映る。
「いえ、ご主人様はご主人様です。」
少女は譲らない。
なんというか。
押しかけでやって来た少女には手を焼くが、雑用には向いている、ということか。
黒衣の男は半分あきらめた(もうしばらくこの関係だ)みたいに。
「おい。ちょっと面白い屋敷があるそうだ。僕が行こうと思ったのだが、お前。行ってみるか?」
「はい。ご主人様の仰せとあらば。」

黒衣の男。
彼は「家」の住人だ。
この街で「家」と言えば、イレギュラーメンバーとして、暗部のみ認知されている。
かつて魔女と呼ばれた少女や、葬儀屋もこのイレギュラーメンバーだ。
所属はいろいろだが、暗殺や不可思議な案件を秘密裏に始末する、という。
そして、先ほど銀髪の冴えない青年が持ち込んだ案件はこうだ。

「不可思議な館がある。探索してほしい」だった。
どうせ大したことも無いだろうとタカを括って「いいよ。」とだけ。
少し前に女性二人を煙に巻いて戻ってきたところで。
面倒なうえに、大したこともなさそうだ。
まあ、暇つぶしにはうってつけかもしれない。
と思っていたら。
押しかけ弟子(自称)の給仕娘がうっとおしいので、厄介払いも兼ねてこの案件をやらせてみようと。
そもそも、「家」というのはイレギュラーだ。
一般人はともかく、冒険者ですら知らないのが普通だ。
先のマネジャーのキーファーとかいったか。そのくらいしか知らない。もしくはオファーをした「上部」の人間だけ。
なのに、この娘ときたら。
ドコで聞きつけたのか、押しかけてきた。
以前、第七霊災で仕事、というか。
まあ、その時に受けた仕事はらしくも無く、救助だった。
人が死ぬのは仕方の無い事だが、目の前、というのはさすがに気が引ける。
焼け落ちる家からこの少女を助け出し、治癒を施した後さっさと退散したのだが。
どういうわけか、居候兼給仕をしている。
せがまれて術式の基礎などを教えてやったのが問題だったのか。
居つかれて、かつ「ご主人様」などと。
趣味ではない。
もう少し「大人の女」なら、いいのだが。

「ほら。これが地図だ。迷うなよ?」
トレードマークである帽子を顔にかぶせ、ソファで横に。
「はい!では行ってまいります!」
と、元気に出て行く少女に
(そのまま館で暮らせ。)などと。
軽く惰眠を貪るが。
「ん?」目覚める。
「待てよ。あの館は・・・。」
記憶を探る。
「しまった!」
帽子をかぶりなおし、黒衣の男は部屋を出る。


5年前、あの少女を助け出した館だ。
その時の火災で確かあの少女以外、全員落命している。
少女自体も瀕死の火傷を負い、治癒に手間取った覚えが。
記憶障害だろう。その事実をほとんど覚えていないあの少女に致命的な心の傷を負わすかもしれない。
「僕としたことが。」





「魔魅夜くん、大丈夫かなあ?」銀髪の青年。
「キーさん、いつも仕事熱心じゃないよね。」ショコラ。

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