472書き物。冒険者達の日常・・・。魔女は・・。

「ふう。」
一仕事終え、一息つけたとはいえ。
つい先ほど、グリダニアの豪邸から退却というか、帰参というか。
とりあえずの場所までは帰ってきた。
両手は血にまみれ、服もかなり血がついている。
「まいったなあ、こりゃ。」
黒髪の少女と決闘の後、「銃」で撃たれた彼女は死に瀕していて、その彼女を救うためにかなりの無茶もやらかした。
裏通り、ふらふらとしながらとりあえずカフェに行こうかと考える。
(ミュー?いる?)
(は、はい。レティさん?どうしたんですか?)
(ちょっと休ませて。それとちょっと見た目は凄いけど、ケガはしてないから。あと着替えも欲しいかな。なんでもいいし。)
(わかりました。今からですよね?)
(うん。よろしくね。)
(はい。お気をつけて。)
さてと。当面は寝るとしようか・・。

「きゃああ!レティシアさん、大丈夫ですかあ!?」
カフェに着くなり給仕のミコッテの少女オーアが声を上げる。
「ミュ!レティさんをお部屋に案内して。」ミューヌの指示に「はあい!」
「ごめんね。迷惑かけるよ。」と力ない顔の魔女。
「いえいえ!何か食べますか?後でお持ちします。」女主人は馴染みのよしみ、というか尊敬している魔女を気遣いながら。
「んー、そうね。スープかなにか。よろしく。」
「はい!」


「ねえ、ミューヌさん。」
「ん?どうした?」黒髪のミコッテは女主人に問いかける。
「レティさんって何してるんです?」
「わからないよ。でも、人殺しなんかは請け負うハズがない人だから。多分、逆に誰かを助けてきたんだろうね。」
「ふうううん。」
「それじゃあ元気の出るスープの準備でもしていようか。」
「りょーかーい。」



二日後。
「なあ、魔女サン?」
「なんだ?バデロン。」
リムサ・ロミンサにある酒場兼冒険者ギルド。「溺れた海豚亭」
カウンターに一人の女性。
そして、カウンターの中にはヒゲの主人と、そのパートナーのエレゼンの女性。
「いや、だからサ。こういう事態はどうかと思うんだぜ?俺としちゃあ。」
「どうかしたのかな?」もう一人。つい先ほどカウンターのスツールに腰をかけた青年。
ミコッテの彼は褐色の肌に真っ黒な髪と尻尾、そして金色の瞳をしていた。
「いや、その。ファルベ家次期当主サマがなんでこんな場末の酒場に足をお運びになるのかがわからないんですよ。」
少しへりくだるヒゲのマスター、バデロン。
「おや、この酒場は客を選ぶのかい?」青年は悪びれもせずに問いかける。
「クォ、お前は目立ちすぎなんだよ。」と魔女からのひと言。
「ふうん。」と「黒猫」とあだ名される彼を呼び捨てにするのは彼女くらいだ。
「せっかく今回の報酬をと、直接来てみたのに。つれないね。魔女殿。」
ことん、と小箱をカウンターに載せる。
「ふん、ラムの一杯でも飲んでから言いやがれ。」グラスを傾ける魔女は小箱に一瞥をくれただけでそっぽを向いてしまった。

(マスター・・。コレ、やばいですね・・・。)
(ああ、正直これほど胃が痛いシチュエーションはそうそう無いな。)
カウンターの中でコソコソ話。二人にとってはかなりキツイ状況といえよう。

「じゃあ、マスター。僕にもラムを。それと彼女にも。」
「・・・はいよ。」どうもぎこちない。
グラスが出され、「乾杯。」と青年。
「ああさんきゅー。」とグラスを受け取り、一緒について来た小箱にもう一度目を落とす。
「エシュテム工房」の字が捺印され、「アリティア物産」の封印シールがしてある。
間違いなく本物の高級品だろう。
「で?」と切り出す魔女の顔はかなり剣呑だ。
「いやいや、仕事に見合う対価を支払うのは当然でしょう?」
「あたしは今回、あんたの依頼を受けたわけじゃあない。成り行きでそうなったけれど。」
「でも、僕にとっては十分に仕事をしてくれた、そのお礼ですよ。」
「踊らされたあたしを笑いに来た、ってか?」
「いえいえ。オッドアイの命も救ってくれたことですし。感謝しきりですよ。」
「てめえ、その対価でいうなら、こんな安いモンで納得できねえよ。」
「200万ギルなんですがねえ。」
「値段出してる時点で語るに落ちたな。クォ。」
「さあて、本当にその値段かどうかは見てのお楽しみ、ですね。」
腹芸は続く。
「ふん。どうあっても受け取らせる気、ね。」
「さあ?貴女しだいですよ。」
「この封を切ればまたぞろ何か仕事をねじ込む気なんでしょ?」
「どうでしょう?したくなるような仕事をまわしますけど?」
黒髪のミコッテは名残惜しそうにラムを飲み干す。
「ショコラの頼みなら聞いてあげてもかまわないけど。」
「あの不肖の妹はそれほど可愛いかな?」
「あなたよりはね。」
「言ってくれますね。まあ結構でしょう。またお会いできることを楽しみにしていますよ。天魔の魔女。いや、黒衣森の賢者。」
席を立つ。
「お前!」魔女の顔に殺意めいた表情が浮かぶ。
「では。殺される前に退散いたしますよ。マスター、勘定はここに。」
にこにこしながら立ち去っていく青年を睨みつけながら。

ふぅ・・。
マスターとウルスリは、ほっと胸をなでおろし。
「寿命が縮むかとおもったぜ・・。」「ですよね・・。マスター。」

「悪かったわよ。バデロン。あたしもいきなりだったから。まさかここに来るとはね。」
「まったくだ。とりあえず今の話は誰かに聞かれたワケじゃない。ウルスリが監視してたからな。しっかし迷惑来訪者とはよく言ったもんだな。」
「ふん。まずはラムのおかわり。」
空いたグラスを差し出し。少しヒビが入っていたが・・
「あいよ。」

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