467書き物。それから、そしてこれから。

森。深緑の森。黒衣森。

「ちょっと!あなたちゃんと走りなさいよ!」
ふわふわした金髪の少女は掴んだ手を振り返りもせずに走り出している。
そして掴まれたこげ茶色の髪の青年はなすがままに。
「ムチャクチャだねっ!とりあえずその手を離してくれないか?」

「だーいじょーぶまーかせて!」と言っていた女社長。
ほんとに大丈夫かしら?
かすかな不安と、もうちょっとの信頼と、それなりの罪悪感と。
いろんな感情が心を占める。

「マリー!キャンプが見えた!まずそこで休憩にゃっ!」
リンクシェルPt「風見鶏」その参謀が声を上げる。
「りょ、了解!」
横を走る青年は無言で応える。
(ふう。ルーってばああ見えて体力あるわね。さすが、か。でも。)横の青年もオボッチャマでは少し厳しい道程を難なく走りこんでいる。

キャンプ・ナインアイビー
東にあるキャンプとしては、中級クラスの冒険者が集まるキャンプ。

「で?」とは、リーダーの青年、シュナーベル。
参謀ル・シュペヒトを見て、次の策を問う。
「そ、そうにゃあ。まずは休憩にゃ。」ミコッテのルー、ことル・シュペヒトはひとまず腰を落とし、手持ちのジュースを美味しそうに飲みだす。
「んむ。確かに派手な逃走だったな!はっはっは!あの社長には感謝しきりだ!」
赤毛のルガディン、グリュックも腰を降ろし、携帯用に持っている干し肉をかじり出す。
「まあ、いいか。当面はここで時間つぶし、でいいのかな?ルー?」と自身もポーチからパンを取り出し、固いな、といいながらかじりつくベル。

「えーと。その。あなたも。これ。」マリーは傍らの青年にジュースを差し出し、自分もジュースを取り出そうとしたら無いことに気がついて。
携帯用の干し肉を捜していたら、半分だけ飲んだジュースを返された。「飲んじゃったけど。どうぞ。」と。

う。

メンバーは特に何も言わない。こういうことはよくあることではある、か・・?
ルーの視線が少し気になるが・・。

「ありがと。」受け取る。
「こちらこそ。生き返るよ。」
少し頬が熱くなるのはきっと走ってきたせいで。
ごくり、と飲み干す。
ぷはっ、口を拭う。
「マリー、おっさんみたいだにゃあっ!」
ミコッテの少女は遠慮なくツッコミを入れる。
「ルー!失敬ね!あなただって、その座り方、おっさんだよっ!」
あぐらをかいているミコッテにさらにツッコミ。
ふふ。あはははは。少女二人は声を上げて笑いあう。
「おい、ベル?何がおかしいんだ?」とルガディンの青年。
「さあ?彼女達のルールみたいなものがあるんじゃないのか?」

さてと・・。
「それでは今後の方針、とやらを聞いてもいいかな?策士さん。」ファーネは。
「せっかちだにゃ。モテないわよ?しばらく待ってほしいにゃ。それと。あなたは切り札なのにゃ。
もう2枚のカードを切ったにゃ。グリュックと、社長。後はあなただけなのにゃ。
使いどころは決まってるから、今は追っ手を出し抜いて動くしかないのにゃ。なので・・・。」
淡く、蒼い光が皆を包む。
移動術式。テレポ。

「みんな、飛ぶにゃ。」と一声。

光に包まれた後。
眼をあければそこは森の街グリダニア。
「これでゆーっくり宿で寝れるにゃ。」
大きく伸びをするミコッテの少女。
「あ、安宿にゃ。」少しがっかり。
「いや、俺が・・。」ファーネの提案に
「かたまって寝れる安宿の方が安全にゃ。明日までもう少しにゃ。がんばろうにゃー!」
手を振り上げながら、宿のある郊外まで走りだす。


「ベルさん?」
「ああ、はい。」
「こちらの策士、いや参謀殿はたいしたもんだね。」
「ああ、あの子は好きなんですよ。策を練るのが。」
「俺のところにもほしいなあ。ぶっちゃけるが、母の執事、ベルクライスってオッサンも策を練るのが得意でね。
おそらく今回の「話」も「黒猫」とやらと出来上がってたんじゃないかなあ。まあ邪推、ではあるけどね。」
目を閉じて。
「すみません。わかりかねますよ。僕達はただの、と言えばなんですが、冒険者です。
「冒険」に足を踏み入れることに怖れはありません。ですが、陰謀となるとそっちは門外漢でして。
結局僕達は困っている人達に加勢する。そこに尽きます。」
黒髪の青年は目を閉じながら宣言する。
「なるほどね。俺はそういう意味ではまったくもって、なっていないな。
まあ、少しだけの猶予がある。出来る限りその思いを汲んでいこう。」
「そうですか・・。わかりました。」
「なあ?」
「はい?」
「言っちゃなんだが、あんた、モテるのに全く気がつかないだろう?」
「へ?」
「いや、気にしないでくれ。」(マリー、か・・。)




翌日、調印式を館で済ませたファーネがカフェで憩いを楽しんでいるリンクシェルの皆に。
「やあ!見事に当主の座から転げ落ちてきたんだ。おかげで俺は職無し文無し生活さ。どうかな?俺も仲間に加えてくれないか?」
にこやかに手を振りながら。
黒髪のリーダーの青年は。
「歓迎しますよ。ファーネ。でも、なんで?」
「そりゃあ・・。イイモノを魅せてもらったから、じゃダメかい?」
「おっけーにゃああ!」とルー。
「おう。」グリュックの語彙は本当に少ない?のか。
「もちろん。」新参の少女は笑顔で応える。

「それじゃあ、LS風見鶏(ウェッターハーン)に新入りが来た。皆で歓迎しよう!」

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