398書き物。急変からの変動。

風が心地よい。
初めて乗る飛空挺だ。
長い黒髪が風にさらされる。
ふわり、さらりと舞う髪に、周りのメンバーが見とれているのがわかる。

が。

この先には、やらなければいけないことがある。

海賊船、アスタリシア号の始末。

轟沈確実な武装をもって挑む今回の作戦のプランニングで、なぜ?と自分が。
そして、その実行の日、昨日。
冴えないマネジャー、キーファーは一つのチャンス、というか、提案というか。
どっちにしても、頼るところが何一つ無い自分にとっては、ありがたいプランだった。

そして。

二日目にして、アスタリシア号を捕捉した。

「意外と早かったな。」とは隊長。
狙撃兼、見張りだった自分としては複雑だ。

なにせ、もともと「マーキング」してあるのだ。近くに行けば確実に見つけられる。


「よし、攻撃準備。」「はいっ!」と隊士達。
囮の商船は残念ながら?というか幸運というか、近くにはこれなかったようだ。


「フネラーレ、第一射。」
風に揺られながら、マストに立つ男に目をこらす。
アイツか・・。
投げつけたジュースの容器がまさか矢になって来るとは思うまい。
気づかれないように、一枚の紙を括りつけ、ご挨拶とばかりに射る。

当然のように中る。

この暗闇の中、この距離での狙撃を成功させた少女に歓声がおこる。
「ふン。」
だが頭の中では喝采が満載だ。
ちゃんと芝居しやがった。



射られた男は、自分の服の袖口に矢が刺さるのを見て、驚き、そして付いている紙にすぐに目を通す。
「死んだフリしろ。フネラーレ」
コレを見た瞬間、命綱を確認してマストから飛び降りた。
本当に死んだほうがマシかと思う。






あとは・・。
少女の大弓は、操舵士に向けられ、その横にいる最愛の人に目が付いた。
「カルヴァラン。」
まず、操舵士に一発。これは致命傷にも操舵にも影響の無い肩に浅い一撃。

これで気づいて。
願いを託す。

まさか、こんな船で、爆雷を満載しての襲撃だとはさすがに思わなかった。
書いたメモには、「逃げて。リッラ」としかない。
そのメモを載せて、最愛の人に矢を射る。



アスタリシア号は、突然の襲撃に騒然となっていた。
「おい!どうなってる!」
副長のカルヴァラン。彼が基本的には船の運用をしているのだが。
「副長~。」マストから飛び降りた見張りの男。
「これ」と、メモ。
その瞬間、目を見張る。「リッラ?」
次いで、操舵士に矢が刺さる。だが見た目には浅手だろう。
そして。

袖口に矢が刺さる。


「逃げて。リッラ」

このメモを見た瞬間、彼女はこの襲撃に参加し、かつ自分たちを逃がすための算段を用意したのだ。
おそらくギリギリの駆け引きだったに違いない。
「リッラ・・。」
不意に空から何かが落ちてきた。
爆音が響く。
「まさか。」
さらに上から落ちてくる。

「回頭しろ!取り舵いっぱい!」カルヴァランは指示を大声でする。



「騒がしいな。」船長室で執務デスクに座る男は、まるで気にした様子は無い。
「終わるときは、いつでも終わる。」つぶやき、海図とコンパスを手に。




この樽の爆雷は、破壊力は抜群だが、一つだけ欠点がある。いや、二つか。
一つ目は管理。まず湿気たら火薬そのものがパァになる。
それに、ヘタをすれば誤爆やその他。積んでいること自体がリスクのカタマリと言っていい。

次に、一度点火してしまえば、もう、後は放り投げるしかない。
このサイズになると、導火線を切る前に吹っ飛ぶ。

と、いうわけで。

バラバラと樽が、死の樽が振り注ぐ。

「マジかよ・・。」珍しくカルヴァランがグチを言う。
「帆を西に張れ!爆風で逃げるぞ!!」
リッラ。ありがとう。

どかん、ドカンと樽が炸裂するなか、なんとか逃げ切れた。

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