ゴンゴン・こん。
ドアのノック。
これは符丁だ。音やタイミング、リズムでおおよその事を理解できる。
海賊時代でもよく使われていた。
そして、このノックは。
「仕事だ。」
あのオフの日の二日後に、冴えない青年キーファーがやってきた。
海賊船アスタリシア号の撃破。
そのおおまかなプランは聞いていたが、詳細は当日、ということで今日に至る。
覚悟はしていたが・・。
最愛の人が乗る船を沈める作戦。
このプランを聞いたときは、さすがにキレた。なにかが頭の中で音を立てて、たしかになにかがキレた。
だが。
「いいヨ。」
ドアが開く。
矢が放たれる。
青年の胸に命中する。寸分たがわず、心臓の場所。
が。
「うぎゃあああああ!!!!」
ひっくり返った青年に一瞥をくれると、着替え出す。
青年は自分の胸に中った、子供用のおもちゃの矢を見て、さらにひっくり返った。
「し、死ヌかとおもった・・・。」
いつもの黒いチュニックにブーツ。黒髪の少女は、覚悟を決めかねていた。
ただ・・。
先ほどの青年とのやり取りで、青年はおもちゃの矢に紙を括りつけて、投げ返してきた。そこには。
「しっかりやれよ。キーファー」
と書かれていた。
なにがだよ・・・。
ん?もしかして・・?
集合場所、カーラインカフェ。
なんだって、こんな場所に・・。
そして、おもむろにカウンターに行く。女主人、ミューヌに
「ごめン。ちょっと頼みごとがアる。僕は字がかけない。これから言うコトをメモに書いてほしイ。」
「あ、ああ。」
「できれバ、リムサ語で頼ム。」
「わかった、で?」・・・
よし。用意はできた。後は・・。
待ち合わせ場所は、カフェの下。サロンがある。ここから?と。
「よし、メンバーの点呼をする。」とこの作戦の隊長。名前は知らないが、神勇隊でも幹部の一人だろう。
まさか隊長自ら指揮を執る、とも思えないので当然といえば当然だ。
そして。
カウンターを全員。10名。通り抜ける。
「え?」
飛空挺。
軍船とは聞いていたが・・・・。まさか・・。
どおりで期日が迫っているのに(2週間とかいっておきながら、この10日ほったらかしだった)
そして、飛空挺には装備もいろいろあった。まず、砲。船首についている。
大抵の船は、船腹につけているものだ。衝撃やスペース、といった問題としてその方がいい。
安定しているから、命中率も上がる。
だが。空を飛翔するこの船は別かもしれない。
横からの衝撃にはおそらく、とんでもなく弱いのだろう。
すぐに制御ができず落ちてしまう、というところか。
逆に正面に着ければ、制動になりこそはすれ姿勢はそれほどムチャにはなるまい。
まして、対面する面積が小さい。これはかなりのメリットだ。
そして。コレがおそらく今回の作戦のキモだろう。
爆雷。
普通、海戦だと風を読んで相手のどてっぱらに砲弾を撃ち込む。
これがセオリーだが、稀に小型のガレー船で仕掛けてくるヤツラがいる。
そういうヤツラには、砲が中りにくい。どうしても射角が下までおりないせいで。
なので、近接してきたヤツラに、火薬を満載した小型の樽を投げつける。
ただ、扱いがデリケートなうえに、巻き添えを食らわないように、とあまりポピュラーな兵器ではない。
が。
この船。飛空挺からばら撒けば、確かに巻き添えは無い。
しかも反撃される可能性もかなり少ない。
そして、その樽。爆雷の数は優に10を超える。しかも、普通の小さい樽ではない。
一般的にワインなどを詰めているサイズだ。
こんなもの、一発でも中れば甲板は木っ端みじんだろう。3,4発でおそらく轟沈、というところか。
本気でやる気が伺える。
「よし。乗船!」隊長の声。
そして、簡単なミーティングがはじまる。
「・・・・。」「・・・・・・・・・・。」「・・・・・・・。」
「フネラーレ、君はまず船のマストにいる見張り役を射殺だ。
次いで操舵手、もし居れば、船長、ないしは副長。」
「判っタ。」
おねがい。気づいて。カルヴァラン。
矢に願いをこめる。