265書き物。とある双子の日記XX

「ん。」
黒いローブ。

「少し臭うな・・。」
袖口を鼻に近づけ、少年はぼそり。

黒いローブには、染みのようなものは無いが、右手の袖口からは少し異臭がする。
「もう少し鍛えないとな。」
右手で金髪をかこうとして、左手にしようとするが、やはり止めておく。

「まあ、ここの空気が綺麗だからな・・。臭うのは仕方ない。宿にでも戻るか。」

グリダニア。
森から溢れ出す、泉からこぼれ出す、小川から紡がれる、清浄な空気は、
つい先ほどまでいた陰湿な穴倉からの異臭を追い出せといわんばかりに教えてくれる。


「最近、独り言が増えたな。あいつと離れているからか・・。」

金髪の少年は、クセっ毛のある、少し長めの金髪を風に任せながら、間借りしているソーサラーの家に歩を進める。


住宅街の一角。そのうち一番手前にある家。一軒家としてはそれなりではあるが、大きくも無く、小さくも無い。
石組みの土台に支えられた、木で出来た家。
今の彼の住処としては、かなりの上出来だ。
なんといっても、しばらく前はリトル・アラミゴという岩窟に住んでいたのだから。

もちろん、この家の持ち主は別にいるのだが。

「・・・・。」
その玄関。

目の前には張り紙がしてある。

「ウルラ君、すまない。少しばかり家を空けることになった。数日で帰れるとは思うが、その間の食事はどこか別の場所で頼む。
                       アルフレート」        
  
内容を見た後、もう一枚の張り紙に目が行く。
背の高いソーサラーの張り紙は、ちょうど目の高さに貼り付けてあったが、もう一枚はやや低い位置に。

「ごめんねえ、ウルラお兄ちゃん。ちょっと家族で旅行に行くことになったの。お土産いっぱいもって帰ってくるから、ちょっとのあいだガマンだよ!
                           みー」 

「まったく。」
苦笑が止まらない。

玄関の横にある植木を見る。普段なら、そこに家のカギが置いてあるはずだ。
お互い、冒険者などをしている以上、留守はつきものだ。普段なら夫人が居て、特別心配はいらないのだが。こういう場合の取り決めだ。

「ふむ。」カギはあった。
もしかすれば、家族そろって拉致された、などということもありえたが、カギがここにある以上、その心配はあるまい。

一度、部屋に戻って着替えてからカフェにでも行こう。夫人の料理は絶品だが、ここは仕方がない。
一応の用心はしつつ、家に入る。

闖入者もなく、普段から借りている部屋まで行く。
「あー、疲れた。そういえばあいつは何してるんだろうな。」ローブを脱ぎながら、少し出来の悪い妹の心配もしてみる。
普段は「妹に頭の上がらない兄」を演じているが、実はその逆だ。
目を離すと、何をしでかすかわからない妹は、常に心配の種。
先ほどのパールからでも・・。
「まあ、大丈夫だろう。」と頭を切り替える。

手ぬぐいで身体を拭き、チュニックに着替えると食事のためにカフェに行く準備をする。
夫人からは「食費」と称したメモつきの皮袋が用意してあった。


カフェまでの道中。
もう夕闇の帳は済み、どちらかと言えば夜の気配が増す中。
緊張が走る。
半月に照らし出された少女と目が合ってしまう。
夜の闇を切り取ったかの様な黒髪。不自然に切りそろえられた前髪。

一陣の風が、さっと吹いてその前髪をかき上げる。ひと房の銀髪。
そして、前髪が何故不自然に斜めになっていたのか。

右目は、夜の色。左目は、金色をしていた。
月の明かりをそのまま返すような、そんな色。

「ん?僕になにか用か?」
「いえ、気がつかなくって。すみません。」
髪と右目と同じく、身に纏った黒いチュニックは、たしかに夜には見えにくいだろう。
が、反対に病的に白い素足と手は目につきやすいのだが・・。
(こんなんで言い訳になるかな?)緊張は解けない。

「ふん。まあいいだろう。でも僕に見とれるのはやめとけ。」
「はい?」
「気配を消しながら歩いていたんだ。僕に気がつくほうがおかしいだろう?」
「え、そんな。」(こいつは、少しまずいか。)
「まあ、いいよ。その金髪に免じて、なかったコトにしとくよ。」
「あ、ありがとう。」
「妹さんによろしくなー。」


気がつくと、もう姿は無い。
「何やらかしてんだ、マリー。」



着いた先のカフェ。
ふわふわした金髪の妹が先客で居た。


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街中で気配を消して歩くとは
なにやら訳ありな人物のようじゃな~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月03日 09:14

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>しゃくなげさん、いらっさ-いw
はいなw「双子」の話の最中に出てきた彼女、この後も出張りますw
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月03日 10:18

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