266書き物。黒髪の少女。

物心ついたときには、船にいた。

リムサ・ロミンサ。海洋国家であり、3大都市のひとつ。
この街(および周辺)に住んでいる住人は、大きく二つに分けられる。
すなわち。

荒事に関わっているか、そうでないか。

他の都市も同じような事情なのだろうが、ここならでは、な仕事がある。
船乗り。

そして、先の大別される住人もこれに適用される、という次第だ。

漁師。船に乗って、魚を手にする日常。もちろん丘っぱり、と言われる釣り師もいる。
彼らはその日の釣果にに一喜一憂し、日々の糧にあてる。

海賊。基本的には無法者の集まり。船の操縦に長けた漁師が食い扶持に困り、など。
その日暮らしが馴染んでしまった荒くれや、代々海賊稼業なんていうものも。人様の船を襲い、生計という言葉に置き換えている。

私掠船。基本的には海賊。ただし国家公認。そして、非常時には軍船としての責務がある。
普通の海賊と違う点は、「国家のためになる」海賊行為。
そこらの海賊ではなく、自国の船は襲わない、敵勢力の船を優先的に襲撃すること、定期的に結果報告を出し、免状の維持をすること。
なので、かなりハードルは高い。


そして。
物心がついたころから船に乗っている少女は「海賊」というカテゴリにいた。

「おーやーじー。」
黒い髪は長く。しかし。前髪は眉毛の上どころか、さらに上で真っ直ぐに切りそろえられている。
「ん?どうした?」
船長であり、いかつい大男の実父に、少女は食って掛かる。
「アイツ、だめだ!」少女はぱっつんぱっつんに切られた前髪を指差し、
「砲弾括りつけて、あっちン方まで吹っ飛ばす!いいよな!?」
「がっはっは!」大男は、大笑いをあげる。
「なにわらってんだ、このクソ親父。僕の自慢の髪がこうなってるんだぞ?おかしーじゃないか?」
この春、16になった少女は、クルーに頼んで髪を切ってもらったのだが、
いつもの女性クルーは、港に寄った際にデキてしまい、もう居ない。

少女は黒い双眸を、船長である父親に向けるが。
「アイツに頼んだお前が悪い。デキはいいが、俺の娘に刃を向ける、なんてできっこないからな。まあ、大方目を瞑って切ってたんだろ。」
副長の評価はこうだ。
「もっと悪いじゃねーか!」



その夜。


音と衝撃と。そして、もっと悪いものが感じられた。

カンカンカンカァン!!!

「どうした?」「何が!?」「砲撃だ!!!」「どこのどいつが!」「知るか!それより船長に報告だ!」
「お嬢は?」「わからん、が、どこに被弾したかわからねえ。そっちが先だ!」

副長は「船長・・・・。」声は消え入る・・。
最後尾にあった船長室は木っ端みじんに砕かれていたが、デスクは奇跡に的に残っていた。
執筆途中だった航海日誌には。副長に髪を切られた愛娘とのやり取りが書かれていたが、そこには羽ペンと、右手が残されていた。

急ぎ甲板の操舵手に命じる。「回頭しろっ!取り舵だ!」
「え、副長!それだと相手に横っ腹みせちまいますぜ!」
「いいからやれっ!」

「お嬢!!!」
あらためて船室のある区画に走る。声を振り絞る。
「お嬢!!!返事してください!!!」
一室のドアが開く。自室から出てきた少女は、黒髪をかきあげながら。
「お嬢。よかった。今から甲板に来てください。」
副長は、寝着のままの少女の手を強引に掴むと走り出す。
「ちょ!てめー、どういうこったあ?僕にこの仕打ち、後で痛い目にあうぜ?」
「いいから。後でも何でもいいです。今は言う事を聞いてください。」

もう一度、振動。

「ありゃなんだー?おい。」手を引く副長に声をかけるが、無言だ。

もう一度。木のカケラが少女の右目の上にキズをつける。
「おい、やっぱり髪切りすぎだろー、おい?聞いてるか?ついでに、こりゃーなんなんだよ?」
「襲撃、です。」
「おいおい、まじでか。夜中にこんな砲撃かますよーな、ってか、
僕らの船って分かってやってるのか?一般の船と間違えてたらエライことだぞ?」
「おそらくは、狙っていたものだと。それと、アスタリシア号なら、このくらいは平気でできるでしょう。」
「ち。」

甲板にたどり着く。少女は生まれつき目がいい。というか、大海原で育ってきたからか。
右手側に赤い光が灯る。
水平線、ぎりぎり。

ドオォン!!!!
振動に身体が崩れそうになるが、副長が支えてくれた。
「おまえ・・。」
「おい!用意はできてるか?お嬢はつれて来た!」
「アイアイサー!」
「ちょ。おい?」
「お嬢。生きてください。」優男で冴えないような副長は。
「では。」海賊流の敬礼をする。

「おい、あほか、お前ぇぇぇぇ!!!!」
その言葉は、尾を引き小船に突き落とされる。

小船の盾になるように横っ腹をさらした海賊船は、次の砲撃に。

二つに折れて沈み込む。

「おい。まてよ。親父?セッカ?みんな?」副長の名を呼んだのは、
いつぶりだろうか?淡い恋心を胸に秘めていた、あの優男。恥ずかしくって、名前が呼べなかった。

「おい!!!返事しやがれー!!!!」

船が沈む際の渦に、小船が巻き込まれる。このまま皆と一緒に。
が。


渦は皆と共に。

「何で僕だけ、なんだよー。」小船にはご丁寧に少女の愛用の弓と、おそらくは数日は大丈夫なはずの必需品。
見るのもいやだが、しがみついて泣いた。

遠くからやって来る船。仇。
泣きはらした目。その右目に血が流れ込む。視界が滲む。
「いいじゃねーか。」
右手にナイフ。
「こっちにも血がたりねーっぽいしな。」
左目にナイフを突き立てる。
激痛に身をよじる。
「リッラ・コスタの名前は、この海と、親父、仲間に。それと。セッカ。弔ってやるよ・・。みんな。」
もう一度鮮血に染まる両目を向かい来る船に向ける。

アスタリシア船長は目の前の黒髪の少女に、いそいで回復魔法の指示をする。
「ムチャしやがるな、最近のガキは。」
「船長!」「どうした?」「その。眼が。どうしても。」「あれがあるだろ。」「いいんですか?」
「俺に二度目の台詞をいわせるのか?んん?」「ダッコルド!(了解!)」

「さて。お嬢さん。お名前は言えるかな?」
「フネラーレ(葬儀)、だよ。おっさん。」
「いい名だ。」
「そのうち、お前も沈めてやるからな・・・。」

黒い右目、金色の左目。
その両方を閉じて、少女は眠りに着いた。
「いつでもどうぞ。お嬢さん。」


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なんとも壮絶な過去が今あかされる!じゃよ~w
Syakunage Ise (Hyperion) 2012年08月03日 14:18

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>しゃくなげさん、いらっしゃいw
次回に引く、新主人公・・・かも?
マユの母、レティも相当きっついけど・・。
この子は、もうチョイダークな展開になりそう・・。
Mayuri Rossana (Hyperion) 2012年08月04日 01:28

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