「カピタン(船長)。」
最後尾にある船長室には風穴が。大きな窓がひとつ割れている。
吹き込む潮風は追い風だ。もうじきリムサ・ロミンサ港に着くだろう。
報告に来た船員は困り顔で船長に尋ねた。
「お怪我は?」
「あるように見えたか?」
「いえ!」
「で、被害は?」
「あ、はい。ペンデンテは沈みましたが、乗員全て無事です、アスタリシアの乗員も気絶くらいですか。」
「そうか。」
「で、あの娘はなんだったんです?」
「魔女、ってところか。」
「魔女ですか?」
「あのマイスターすら手玉に取ったみたいだからな。」
「え!」
「さしずめ、天魔の魔女(ウィッチケイオス)というところか。礼儀正しい娘だが、やることが破天荒だな。」
「はぁ。」
「まあ、噂には聞いていたが、あれは人災そのものだな。」
割れた窓を見やる。既に後続の僚艦は無い。
半年後。
「あ、ミューヌ!お久しぶり!」
「え?」
パールから伝わる伝心にびっくりするカーラインカフェの看板娘。
「わたし、大丈夫だから。」
「え?ウルスリ?」
「うん、今リムサ・ロミンサでお仕事の準備してるの。」
「ええええ?」
「心配かけてゴメンね。」
「何言ってるの、もう!」泣きだしてしまう少女に、常連客が心配そうに声をかける。
「パール、しばらく使えなかったから、遅くなったけど。ゴメンね。」
「また会える?」
「もちろん、ね。」
「で、ウルスリ。今からお仕事。」不敵な面構えの不精ヒゲの青年。
「はい、マスター。」凜とした声で返す少女。
「まあ、こんだけあれば、酒場の大将も納得だろ。もういい歳だしな。」
「そうですね。」
「で、従姉にはちゃんと挨拶できたのか?」
「はい。ありがとうございます。」
「いや、すまんな。乗船許可の替わりに取り上げちまって。」
「いえ、返していただけて、それだけでうれしいです。」
はにかみながら目元に少し光るものがある。
ふう、と息をつく青年。
坊主頭に斧を背に。
でかい斧を担いで海を泳ぐのがどれほど酷かを思い知ったというか、
もう何度目だろうか?リムサ・ロミンサ港には明け方前にたどり着いた。かつての船はもうたどり着いている。
「さて、あの娘はどこに行ったかだ。」
一人で考えても答えはなかなか出てこない。
「ん?バデロンならわかるか?」
船に行くが。
「バデロンなら船長の許可をとって降りましたぜ?今はどこにいるのかね?」
「なんだとおお!」
「マイスター、乗船許可の無いヤツとおしゃべりすると、叱られちまいやす。このへんで。」
同じく半年後。
「見つけた!」
カーラインカフェは今日も賑やかだ。