スノークローク大氷壁。
青白い氷の絶壁は、クルザスならではの光景かもしれない。
高さでいえば、何人分になるのだろう?
少なくとも、見上げることしかできない、この氷の壁の向こう。
そこにこそ、かの「氷の巫女」を崇める「異端者」の拠点がある。
「おい、にーちゃん。」濃い目のブロンドを長く伸ばした小柄な女性(といっても、ハイランダーにしては、だ。)
黒髪のエレゼンの騎士、もっと言えばイシュガルドの神殿騎士団長を相手に。
「レディ。何か見つかったのか?」
「ああ。あの穴、やな。アタリやったで。」
「そうか。クリスタル・ブレイブのメンバーには?」
「今、妹やらが話にいっとる。」
「ふむ。それでどうして君だけが?」
「ちょっと、腑に落ちひんところがあってな。」
「ほう?」
「具体的にはわからへん。せやけど、内通者がいるんやろ?」
「・・・・(ほう?)」
「そっちはどうなってるんや?」
「そちらはクリスタル・ブレイブで手配を出している。こちらの仕事はまずは「氷の巫女」だ。何か接触があったのか?」
「まあな、その巫女ってヤツは、イゼル。自ら巫女を名乗ってるみたいやで。言うとったシヴァの代弁だか、なんだか知らんけど。」
「それは、確かにアタリだな。よくやってくれた。それで?」
「相手と場所が悪かったさかい、一旦引いてからの報告や。」
「そうか。確かに少人数では危険だな。なんとかしたいが・・・こちらもそれほど手数が割けない状況でね。
追っ付け冒険者達が来る。そこで編成を練ってもらおう。それまで休憩していてくれ。」
「ほうか。逃げられへんかったらええねんけどな。」
「そればっかりは、な?」
「ああ、意地悪いうたな。」
「あ、お姉ちゃん。」
妹が駆け寄ってくる。
「騎士団にはうちから報告しといた。後で合流するメンバーでもう一度探索になるやろって話や。」
「そうなんですか?」ミコッテの白魔道士は少し心配げに。
「こちらは、ブレイブに報告したんだけど・・・どうにも密偵の足取りがまだらしくって。しかも、その密偵がこの件に関与してるかも、捕縛しないことには。」蒼いローブのミコッテ。
「ほうか。ほんなら、とりあえず休憩しとこ。あっちに、ブレイブの連中の作ったキャンプがあるさかい。どうせなら、一晩寝とってもいいやろ。」
「いいん?お姉ちゃん?」
「なんかあったら起こしに来るやろ。そんくらいのノウミソが無いようなら、こっちからオサラバや。」
「「「え~」」」と3人。
「ほな、行くで。」スタスタと歩いていく「氷結の娘」
(お姉ちゃん、あれやな・・・二つ名がかぶってるみたいでイラってしてそうや・・)ユーリは内心・・
不貞腐れたのか、真っ先にキャンプにたどり着くとテントに直行。そのまま毛布にくるまる姉。
(今後はどうなんやろな?)(どうなんでしょう?)(とりあえず、援軍待ち、ですね。)
「こっちの」女王を刺激しないようにヒソヒソ話。
そして日は暮れていく・・・
明け方も近い頃・・
「おーい。そろそろいいか?」
遠慮のない声。
4人は結局寝込んでしまっていて、その声で起こされる。
「ん?」「なんや・・?」「はひ・・?」「どうかした?」
ユーニ・ユーリ姉妹、そしてリトリー、コーラルが声をあげ、起きたことを伝える。
「ああ、そうだな、朝早くすまない。私はムーンブリダ。暁のメンバーの一人だ。」
男勝りだが、キビキビした感じの女性の声。
「なんや?」ユーニは眠気など感じさせない声で。
「実は、君たちが探索した穴なんだが、どうにも行き詰まってしまってね。それで私の出番と相成った。」
「は?」
「いや、先日の探索で「巫女」の洞穴を探索した結果、彼女たち「異端者」は既に姿をくらましていてね。そして、その奥にエーテライトがあった、というわけだ。」
「ほう?」
「ただ、粗悪なエーテライトだった上に、追跡を躱すためだろう。一部を破損させて機能不全にしてしまった。」
「ほんなら、どうなんや?また別の穴かいな?」
「いや、私はエーテル、そしてエーテライトの研究もしている。そして、この損傷ならば一時的にも回復させることができると判断した。
いま、シャーレアンの同志を招集しているところ。皆でエーテルを集め、集約させて再起動をさせてみようと思う。」
「そんな事、できるんですか!?」コーラルが口を。
「そのための私だ。」ルガディンの女性は、にっと唇を笑みの形に。
「ほんなら、リベンジやろうっか!」ユーリが笑う。
「お前、あほか。話聞けや。」ユーニがつっこむ。
「まあまあ・・」ようやっと眠気が頭から去ったリトリー。
「とりあえずは、朝食の準備は出来ている。暁のメンバーも追っかけてくるから、まずは腹ごしらえでもすれば?」銀髪の女性はそれだけ言うと去っていった。
「あれですね。これは。」「なんや?」「援軍が来るよりも、先にそっちから?」「一応、万全の対策がいるやろ?」
黒魔道士二人の簡単な打ち合わせ。
そうこうするうちに人員が揃ったようで・・・
「ああ、君たち。ご苦労様。私はアイメリク。シュガルドに於いて、神殿騎士団長の勤めをしている。」
黒髪の騎士は、到着した冒険者に声をかけている。
「あたいは、シャン。鬼哭隊の一員としてグリダニアから馳せ参じました。」オレンジの髪のミコッテ。
「俺は・・・フィズ。だ。まあ、傭兵稼業だが、強いヤツが好きなんでね。」
暗い肌のエレゼンの青年。
「私はセネリオ・ローウェル。今回の事は我が社にも・・(あんのクソ社長!自分で逝け。)関わりがあるみたいなので。」ダークグレーの髪を揺らすミコッテの女性。
最後に。
「あ、うち、あゆな。なんか、勧誘されちゃった。てへ。」ララフェルの少女?はニコニコしている。
(この人選・・・大丈夫なんだろうな・・?)内心、アイメリクは不安を覚えないでもない。
「とりあえずは、先行メンバーと合流してもらう。そこで詳しい役割分担と、作戦だが・・」
「ああ。揃ったのかい?」ムーンブリダ。
「ああ。ムーンブリダ女史。そちらは?」
「こっちも全員そろったよ。それと・・・」懐からなにかの塊を取り出す。
「それは?」
「これは、エーテルを一時的に貯めておける、魔導器さ。こいつにエーテルを貯めて、壊れたエーテライトにエーテルを注ぐ。
それで一時的にでもエーテライトが回復すれば、その間に交感しちまえば、後はその先に飛べるって寸法さ。」
「なるほど。」
「ただし、まだ試作品でね。そうそう何度も使えるわけじゃない。万全を期して、できれば一回でケリを着けて欲しいところだね。」
「ふむ。諸君、聞いてもらえたかな?」アイメリクが援軍の4人に声を。
各々の返事を聞いて、銀髪の女性は先行組の女性陣にも簡単な説明をしに行く。
「なるほどな。」ユーニは、全員を見渡し・・・
「ああ。先行組の後に、暁のメンバー、そして援軍組で進んでいく。こちらはエーテルをごっそり使うから、戦闘には参加できない。
ついでに言えば、ブレイブの連中や、軍は手が一杯らしく、全くの役立たずになる。」ムーンブリダの声に・・・
「はあ。」ユーリはアクビ混じり。
「なので、その後は諸君らに期待、ってわけ。」ムーンブリダと、イダが笑い合う。
「そりゃ、期待されちゃったね!」あゆなが、白いローブをひらひらさせながら笑っている。
「大丈夫かいな・・」ユーニが口を挟むが、彼女は気にしていないらしい。
「まずは、突入からにゃっ!」鬼哭隊のミコッテは意気揚々。
「そうですねっ!」リトリーも少し興奮気味に。
「ああ。」黒づくめのエレゼンは、腰の立方体を眺めながら・・・
「今回は、ハズせませんね・・」コーラルは杖を握り締める。
「了解しました。(社長、ボーナスよろしくです。)」セネリオは愛剣デュランダルの鞘を。
8人は覚悟を各々決め・・・先の洞穴に。
「あの?」エレゼンの青年は少し文句が言いたいようだ・・
後列の4人だが、彼が先頭に。
「女性が多いんだから、先頭だろう?」
「いや・・・そうだが・・・(これだけミコッテさんがいっぱいなのに・・)」
ちなみに、彼の前を行くのはエレゼンの賢者、ウリエンジェ。
(なんで男のケツを見ながら・・)
やがて、大きな空洞に出ると、こっち、と指示が出される。
そのまま進んでいくと、また違う広場。天井の高さは先程よりもやや高いだろうか。
そこに、歪な水晶、いや、エーテライトらしき塊がある。ただ・・
「これは・・完全に機能不全か・・?いや。」エレゼンの女性は詳しく調べ始める。
「何かわかるのか?」ウリエンジェの問いに「ああ、任せておけ。」と応える。
(あの二人、いつ引っ付くんだろう?)(イダ、聞こえる。)(はぁ・・)(ヤ・シュトラ、今度食事でも行くかい?)(サンクレッド、寝言は寝てからに。)
歪な塊の近くには、未だその欠片が浮遊しているが、その光はもはや尽きようとしているのは目にも明らかだ。
「これは・・・思ったより悪いな。急がないと。」銀髪の女性は懐のカバンからランタンサイズの
、それこそランタンのような物を取り出す。
「これは・・詳しい説明は後。みんな、エーテルをこれに注いで。」
賢者たちは、その魔導器に手をかざす・・ 蒼い光が、その白いクリスタルに吸い込まれていく・・
段々と、魔導器に光が蓄積されていく・・・
「よし、今!」エレゼンの賢者は、魔導器を歪なエーテライトに向け、念を振り絞る。
パキン。
魔導器にヒビが入ると同時に、その蒼い光がエーテライトに吸い込まれていき・・・
「よし!今。さあ、交感して!」
8人は、手を掲げ、エーテライトとの交感を。
「よし、無事済んだみたいだね。あとは、貴方達の出番。よろしく頼むよ。」
「まかせとき。」「やで!」「です!」「はい。」「にゃ。」「ああ。」「分かりました。」「おう!」
「では、後はよろしく。」ムーンブリダは膝をつき、微笑みを。それを支えるウリエンジェ。
冒険者達は蒼い光に包まれて姿を消していく・・・
「さーて・・地獄の何丁目やろな?」ユーニは周りを見る。
予想だと、連中の倉庫や、演説台みたいな場所を考えていたのだが・・・
そうでもなかったらしい・・・。
見渡す限り、青と、影、そして淡い白炎。
舞台のような広間と、中央には魔法陣。
あるいは氷の神殿か。
そして・・
その魔法陣の中央には、青い衣を纏った銀髪の女性が背を向けて座り込んでいた。
「追って来れないようにしたのに。何故、静寂を乱す?」か細い声。
「そんなん、知らんわ。逃げるヤツを追い回すんが、うちらの仕事やしな。特に害があるなら、なおさらや。」ユーニは淡々と。
「そう・・・我が望みは、争いなかれと・・」
「人のモン、盗んどいてそら、あかんやろ。」
「そうですね・・」ジゼルは、座ったまま応える。
「正義は我にあり、にゃ。」槍を構えるシャン。
ゆっくり、ゆっくり、と。銀髪の女性は立ち上がり、振り返る。
銀髪と同様にその瞳も、氷の色を宿していて。
青い衣装も、その肌も、「氷の巫女」として、完璧すぎる。
「聞いてください。」ぼそりと巫女が語りだす。
「我らが救いを祈る神がいないのなら・・
聖女にこそ、この祈りを捧げよう。聖女シヴァに。」
「よくわからないな。」エレゼンの青年。
「イシュガルドの民と竜族との果て無き戦い。これは、人の犯した罪の因果。」
「それで、どういった得があるんですか?」ミコッテの騎士。
「それを今。断ち切らねばならない。この戦いはいつからなのか?発端は何処にあるのか?」
「今更、問答するつもり?」コーラルは杖を構えている。
「ですよ!」隣ではリトリーも。
「んー、うちは、とりあえず蛮神はダメ、ってコトで。」あゆなが杖を取り出す。
・・・「そう・・やはり争いになってしまうのですね?」
「そう仕向けてるんはそっちやろっ!」ユーニが怒鳴る。
「いえ・・解っていない・・・・ああ。そういうことなのですね。では、私も「力」を振るうしかないのですね・・」
!?
「我が、五体を依代にかつて融和をもたらした聖女の魂を喚び下ろそう・・・」
「ヤバイ!防御術式を張れっ!」ユーニの悲鳴じみた指示。
次の瞬間・・・
「聖女シヴァよ!今こそ、我が身に宿り全ての争いに氷結の静寂をっ!」
イゼルの声に応じて、魔法陣から巨大な氷柱がいくつもせり出し、彼女を飲み込み・・砕け・・・
その一番大きな欠片がさらに砕け散る。
そこには・・・
青と蒼と碧の美麗な女性が浮き上がる。
「何故、静寂を乱す?」氷の女王の顕現。
「これは・・」セネリオが盾を構え、前に進み出て「うちも出番やな。」ユーリ。
「やるしかないにゃ。」「ああ。」「いきます。」
蒼い舞台のような神殿?の中心に浮いた氷の美女。
笑すら浮かべることなく・・「凍土が秘めし、千年の知をここに。」
ささやくような声。
その瞬間、あたりの温度が一気に低下した。
「やるやんけっ!」対抗するように氷結術式。だが・・「戯言を・・」軽くいなされる。
「ほうかい!」大きな斧が振るわれ、氷の女王を削りにかかる妹。
「何故、静寂を乱す・・」
「貴女方が顕現すると、世界が乱れるのにゃ!」槍を突き出すシャン。
「ああ、このレディがおっしゃる通りだよ。麗しの君。」
両手の立方体はただの黒い箱ではなく、幾何学模様を浮かべ、絶えず変化しながらも・・女王の振るってくる腕をかわしながら胴を薙ぐ。
「炎よ!」業火が氷の女王を包む。ミコッテは安心せず、様子をみながら。
「癒しの風!」「まかせてー!」ミコッテと、ララフェルの白魔道士達は、回復と応援を。
肩ほどの高さに舞い上がり、宙を踊るように駆ける氷の女王。
「戦を呼ぶ者達よ・・あくまで静寂を乱そうというのか。」
その声に、さらに冷気が増す。
「まあ、そう言いなさんなって!」黒い、しかし幾何学的な紋様の浮いた四角いモノで殴りかかるエレゼン。
「ほうーっれ!」巨大な斧を振り回して、足を狙いに行く姉妹の片割れ。
「あんまり、突出しないでください。」盾を構え、ユーニの前に出てくるミコッテの騎士。
「ナメんなや、巫女だか女王だか知らんけどな!」巨大な氷の塊を頭上に召喚する「氷結の娘」
「おねえちゃん・・・相手も氷やで・・耐性あるんちゃう?」「うっさいわっ!」
「これは・・・少し、長引きそうですね・・コーラルさん。」「そうね。」
無表情な女王は「出でよ、氷柱。」一言。
空中から、大小の氷柱が数十を数える程現れ、降り注ぐ。
「わお!」「盾だけでは辛いな。」「小癪な、仕返しかいっ!」「ここは華麗によけ・・うわ!」
「くっ、リトリー、平気?」「ひああ!尻尾が凍る~。」「コーラルさんこそ!」「うちは、小さいから中りにくい・・・と思ってたら、痛い!」
まだまだ、これからだ。
体制を立て直しつつ、氷の女王と相対するメンバー。