これは・・・困ったもんやな。
「氷結の娘」こと、ユーニ・ロアーは、臍を噛む。
なにせ、得意としてきた氷結術式が、全く、とは言わないが、ほとんど効果がない。
そらそうやな。
相手は氷の蛮神。
こっちにかけては、相手の方が当たり前のように強いし、効果が薄い。
魔力任せのダメージはあるだろうが、本来の威力は出せていない。
救いといえば、周りには氷属性しかないので、消費が抑えられているところか。
しかし、このままではジリ貧だ。
なんとかしなければ。
焦燥だけが募ってくる。
ダメだ。冷静になれ。ステイクールだ。
周囲を見渡す。
白魔道士二人は懸命に回復術式と、防御術式を織り交ぜながらメンバーのフォローをしている。
おなじく、黒魔道士のミコッテは盛んに火炎術式で相手の存在を削りにかかっている。
エレゼンの青年と、ミコッテの槍使いも盛んに攻撃を繰り出しては、引いたり、押したり。
盾のミコッテは、できうる限り蛮神の注目を集めるための策を講じながら、打撃を。
そして、妹も可能な限りの打撃で敵視を集めようと踏ん張っている。
ちっ。
(うちが一番、足で纏いか。)
ユーニは・・・
もう・・・
心が少し折れかかっている?自己分析。
いや。
まだ、まだだ。
「よーっし!いっちょいったるで!」
自分自身を鼓舞しながら。
「任せて!お姉ちゃん!」
妹からの声に、勇気が沸く。
「ああ。頼む。」ミコッテの騎士。
「よっしゃあ!」
もう一度、構成を編む。
氷結術式。
しかし。
氷の女王は・・・
「清らかなる氷よ。我が、刃となれ。」
発音と同時に、地面から鋭利な氷の刃が溢れ出す。
「うっ!」ユーニは避けるタイミングが・・・
「させへんで!」ユーリが溢れ出る刃を斧で受け止める。
「やるやんけ。」妹に賛辞。
しかし。砕けた刃がユーリを襲って・・・
「いけない!」リトリーが回復術式を編む。続けて、あゆなが防御術式の上書きを。「守って~」
結果、術式を途中で断念せざるを・・
「俺を頼ってくれ。」エレゼンの青年。
「あたいもにゃ!」槍使いのミコッテ。
「皆でやりましょう。」蒼いローブの黒魔道士。
ああ、そうやな。
しかし・・
何か。後ひとつ。
足りない。
なんだろう?
そこに。
「我が下僕。かの者達を悠久の静寂に連れて。」
魔法陣を中心に、氷の欠片が集まり始める。
それは、塊から、やがて人型のシルエットを。
「なんやこれ!?」ユーリが不意を突かれる。
「これは・・先にこちらから始末ですね。」セネリオ。
「わかりやすい敵は、やりやすいですね。」杖に炎を灯す、コーラル。
「俺的には、こっちがいいね。女性相手に殴り合いはごめんだしな!」フィズ。
「あたいも、こっちメインですにゃ!」シャンが槍を構えて。
「全くや。」ユーニは、術式の構成を展開させる。
「はあ、無茶しないでくださいね・・・」リトリーは今更ながらのメンバーを見ながら。
「うちは、ケンカ上等!だよ!」あゆなは、むしろ楽しそう。
4体の氷のゴーレムを相手に。
「ボディが甘めぇ。」フィズは立方体にしか見えない武器で殴りつける。
「これでも喰らえ、ですにゃ。」シャンは槍を突きこみ。
「炎、です。」コーラルは冷静に火炎術式。
「アツアツの器に、氷結は効くだろうが。」ユーニの氷結術式。
バリン。
ゴーレム達が砕けていく。
(なるほど。)
一瞬、表情を曇らせた、いや、気のせいか。
氷の女王は・・・
唱え始める。
「風よ。」
吹雪のような風が舞始める。
「光よ。」
その風が、微かに光沢に近い光を帯び始める。
恍惚にも似た表情を浮かべ・・・氷の女王は謳う。
「その全てを凍てつかせ・・」
仰け反るような女王の表情はもう読めない。
「世界に、静寂をもたらせ。」
その言の葉は、まさしく「静寂」だった。
「ダイアモンドダスト。」静寂の女王の断罪の言葉。
吹雪などでは、到底表せないほどの嵐。それも、氷と冷気を伴って。
「まじか!」ユーニの悲鳴は誰にも届かない・・・
「お姉ちゃん!」妹が傍らに。
「お前!」
段々と氷柱になっていく妹を呆然と見ながら・・・
「あほかっ!」もう、絶叫・・・
「お姉ちゃん、後は頼むで・・」・・・氷の中に包まれていく妹。
周りを見渡す。
数人が同じく、氷の中に封じられていく中。
「俺は、このまんま、ってワケにはいかねえ。」右手には・・銃。
どん。
ケルベロス・レッサーから放たれた弾丸は、女王の右肩を抉る。さらにもう一発。今度は太ももに。「へっ、ざまあみろ。」
エレゼンの青年は、そのまま氷柱の中に。
「あたいも、こんなところで終わるワケにはいかないのにゃ!リルが待ってるにゃ!」
槍を振るう。しかし、耳や、尻尾はすでに霜が・・
「震えろ、炎!」コーラルは緻密な構成を編んで展開。灼熱の沸点を相手に転移させたのを見送ってから。そして、氷に飲み込まれていく。
「この!やってやるわよ!」リトリーは。
光属性の攻撃術式。ホーリー。光り輝く軌跡を放ち、術式が撃ち込まれるとさすがの女王も少し、動きが止まり・・
「うちは、回復専念する。」あゆな。広範囲回復術式を編む、ララフェル。
「これは、こたえるな。」降りかかる魔力の猛吹雪をものともせず盾をかざし、女王に突撃する騎士。
今、か。
先ほどの経験則。
熱したモノを急激に冷やせば・・・
「凍えろ!死ね!!墜ちろ!!!こんの、ブス!!!!」
氷結術式の連打。
ユーニはありったけの魔力を注ぎ込んで。
ぱき。
パキパキ。
「そんな・・・」氷の女王にヒビが入り始める。
「あぁ・・愛しき竜・・が・・・永遠に・・・・」
女王のヒビは加速していき・・
パリン。
薄氷が割れるような音と共に・・・
どさり。と、女性が魔法陣に投げ出される。
「・・・ぅ・・。」
氷の巫女、イゼルが意識を取り戻す。
その間にも、仲間の治療を続ける白魔道士二人。
そして、「聖女シヴァの力をもってしても・・・人々の希望は乗り越えれぬ、というのか?」
イゼルの独白。
「せやな。」ユーニは、妹を見ながら・・・
「聞いて欲しい。」うなだれた巫女は。
氷結の娘は頷く。
「イシュガルドの民と、竜族との果て無き戦い。これは、人の犯した罪の因果。」
「・・・・」
「それを・・・今こそ、断ち切らねばならない。この戦はいつからなのか?発端は?」
俯いたまま、独白を巫女は続ける。
「しかし、この戦いは凍てつく大地で見せる「氷結の幻想」などではない。人が罪を重ねた結果、確して出来上がったまごう事なき「真実」。」
独白は続く・・・
「あなた達なら聞く事ができる。でしょう・・・」
「・・・」
「始まりを知る幻龍から、真相を。」
「ほうか。とりあえず、捕縛させてもらうで。うちらにも事情があるさかいな。」
「・・・ええ。」
ユーニは振り返る。
皆は無事、なようだ。
翌日。
「いや、諸君の功績は大したものだ。イイ!実にイイ!」
イシュガルドの貴族に連なるオルシュファンは、冒険者達にねぎらいを。
「ほんまやで。」開口一番にブロンドの術士。横柄にも、ローブを脇の兵に預けて椅子のエスコートを催促している。
「お姉ちゃん・・」妹は、恐る恐る姉の後について・・
「まあまあ、レディ達。せっかくの戦勝会、それもこの御仁の邸宅で晩餐会なんて、いいじゃないですか。」
漆黒に近い暗い肌の青年が、サングラスまでかけて黒っぽさに一味足している。もちろん、彼はミコッテの席の横を狙っているので、姉妹にはそれほど意識を向けていない。
「フィズ君、だったかな。君の腕は買っているよ。なんでもアウトロー戦区でも華々しい戦果を挙げているそうじゃないか。」館の主人、オルシュファン。
彼は、老若男女問わず「鍛えている者」が大好きで、たまに(大きく)誤解をされてもいるようだが。
「いえいえ。」「謙遜を。」「これからっすよ。」「頑張ってくれたまえ。」
そんなやり取りを気にしたのか、遠慮してるのか、なかなか席が決まらない残りのメンバーだが。
そこに。
コンコン。とノックの音。
「入れ。」
「失礼します。」執事がドアを開け、「お客様を。」と、後続の人物を紹介しだした。
「お邪魔致します、アイメリク卿。此度の戦果、誠に重畳です。」
華奢なエレゼンの少年総帥に。
「おお!アルフィノ総帥。来てくださったか。ぜひ、この勇者達と晩餐を共に致しましょう!」
「あたしもお邪魔させていただくよ。」グレイの髪の魔女。
「これはまた!どうぞ!レティシア殿。歓迎させていただきますとも!」
(わ、魔女だ・・。)(え~あたい、横に座りたいにゃあ・・)(うちも・・・興味しんしん・・)(私、苦手・・)(じゃあ、わたしの横で、ね。)
「ああ、あと。」魔女の声。
「オマケ連れてきた。」と紹介されたのは・・
「誰がオマケだ、この・・っと。失礼しました。お初にお目にかかる、オルシュファン卿。グリダニア国鬼哭隊が隊長、スウェシーナです。今後共、よろしくお願いします。」
「おお!貴女が!こちらこそ。なんでも、泣く鬼も黙る、というお話をお伺っておりますぞ!」
(誰だよ、そんな話流したの・・)ちらっと横目で親友を睨む。
口元の片方を釣り上げた親友は我関せず、といったところか。
「義母、さ、隊長!どうしてここに?」シャンは少なからず焦って・・
「まあ、いい。とりあえず、皆席に着いてから歓談しようじゃないか。」オルシュファンの一言に、銘々座っていく。
「では、まずは祝杯といこう。蛮神、シヴァを退けた、勇気ある者達の勝利に!」杯を掲げる主人。
「かんぱーい!」と皆がグラスの液体を飲み干していく。
「ところで、隊長殿。今回お越しの理由は?」率直に聞いてくるオルシュファン。
これには、シャンも気になったようで、耳をそちらに向けている。同じくセネリオも。
「うむ、ここいらで問題になっていた、野盗連中に情報を流していた密偵が捕まってね。」
「ほう、例の写本師、か。」
「ええ。グリダニア領内で捕まえたゆえに、私の出番だと・・・」横目で魔女を見る。
「いいから話せよ。」魔女はグラスを傾けながら。
「結果的には、あまり芳しい話では。実は・・・」
「なんと!不滅隊のナンバー2のロアユ女史!?」オルシュファンは驚きを隠せなかったようだ。
「まあ、そういうこった。あの国もキナ臭い。この時期にとんでもない爆弾を抱え込まされた気分さ。」魔女は傍らの小さな総帥を見やる。
彼は、黙々と皿の料理をナイフで切っては、フォークを刺し、またやめては次の野菜を切り崩している。
「そうであったか・・・。我が国でも、懸念する事案が増えることは好ましくない。できるだけ早急に事を済ませたいものだな。」オルシュファンの手も止まりがちだ。
「当面は、なるようになるさ。」周りを見て。
「まずは祝勝会なんだろ?メシ食べよう!」魔女は、シチューをスプーンいっぱいに口元に。
「そうだな。そうだ。まずは一歩の前進だ。前進なくして、道はない。諸君らも、これからの活躍に期待している。大いに食べ、大いに鍛えようではないか!」
「そっち?」隊長は・・・・この後、槍での模擬戦を申し込まれ・・・一勝二敗。「花を持たせたのよ・・」
そしてシャンは、コテンパンに。
「んじゃ、あたしとやろうか。オルシュファン卿。」魔女の誘いに・・・(あ~やめとけって・・どっちも・・)だが、スウェシーナの願い届かず・・・
「参りました。天魔の魔女殿。」膝をつく貴族を相手に、ああだこうだと、レクチャーまでしている親友を見ながら・・
こんな平和が続けばいいよね、とスウェシーナは願わずにはおられない。
「おねえひゃん、つひ、どほすんの?」「お前は飲み込んでから喋れ。」「私は社に戻って報告があるからな。二次会がるなら、欠席させて頂く。」
「リトリーはどうする?」「コーラルさんは?」「私は石の家に報告だ。その後は決まっていない。」「じゃあ、ついていきます。」「俺も同席していいかな?」
「「なんで?」」「危険なエリアを女性二人で歩かせるわけにもいかないだろう?」「「移動術式があるんで。」」
見事にハモった答えで青年をやり過ごす。(おれの尻尾ちゃん・・・)「あたいは、隊長と帰還するにゃ。」シャンはコテンパンにされた雪辱もあるのか、修練をしたいみたいだ。
「うちは・・友達と約束してるから。この街でぶらぶらしてるよ~」ララフェル。
そこに。
バン!と、ドアが唐突に。
「何事か!不敬であるぞ!」衛兵の一人が。
「大事でございます!まずは一報を!」
兵士は書簡ではなく、口頭で。
「巫女が、脱走しました・・・」
ざわ・・・
場に緊張が走る・・・・・・・・・
to be continued...
10001000100010001000100010001000
祝!やっと1000話!!! \(・o・)/!ワー (*゚▽゚*)(*゚▽゚*)(*゚▽゚*)
これも、読者様方の支えあってのことです!ありがとうございます。
スペシャルサンクス!
マルスCEO、この小説の専用サイトまで作って頂きまして。誠に感謝しております!
そして、強引に小説に登場頂いた皆様!
できるだけ、個性を出しつつ、「こんなの自分じゃない!」かもなところを生暖かく見逃してくれて、ありがとうございます!
新たに犠牲者を・・いや、有志を無許可で・・いやいや・・(・ω・)
本来なら、お一人づつ、と言いたいところですが、スペースとか、リストアップできてない(おい!)都合上、スタッフロール的にできないのは、不徳の致すところです。申し訳ない。
では、この先も続けていきますので、今後共よろしくお願いします。