妖しい霧の漂う町。いや、発展も進み、街と呼べるだろう。
レブナンツトール
「暁の血盟」と呼ばれる組織の本部もあり、そこから枝分かれした組織であるところの、
「クリスタル・ブレイブ」
その本部には、総帥たるエレゼンの少年の姿はなく、ヒューランの男性が代わりに指揮を執っている。
「なんだと!」
その副官というべき立場の彼は、パールからの伝心につい、声を。
つい先日、発足したばかりの組織ではあるが、戦闘に特化した「軍」としての側面も持つ。
有志を募り、冒険者にも幅広く顔の効くメンバーもいることから、即戦力として「グランドカンパニー」をまとめた、
本当の意味での「グランド」のモデルケースとして実践を始めたばかりなのだが。
「第四分隊が、か・・」
(はい。イルベルド殿・・・自分はなんとか脱出しましたが・・。)
「レシュは?」
(申し訳ありません。レシュ・ポラリ隊長とははぐれてしまい・・本当に・・)涙声・・
「いや、よく報告してくれた。一度休息を取ってくれ。その件はこちらでも手を打つ。」
(はい・・・)
帝国か・・・
カストルム・セントリに斥候として第四分隊を遣わしたのは、それなりに理由があってのこと。
なんでも、帝国内で動きがある、と。
それでなくとも、「異端者」と呼ばれる蛮神信仰者がウロウロしていて、こちらの対応にも手を追われている。
イルベルドは、総帥たる少年に連絡をすべき、と考えながらも、今が一番忙しい彼に余計な心配もかけまい・・・と、最善の手を考える。
「ラウバーン・・上手くやってくれよ・・」
同郷の友人を、今では三国の一角を代表するまでになった剣士を思い浮かべる・・
「どうしてですか?」
銀髪の少年総帥は、目の前の黒髪の騎士を相手に一歩も引かない威勢で。
「我が国は、対竜を前提としている。」
「それはお伺いしております、アイメリク卿。」
「ならば、立場ははっきりしている、のではないか?アルフィノ・クリスタルブレイブ総帥。」
「私が言いたいのは、そこではない!」
「もう少し、穏やかに話がしたいものだな。」
「・・・申し訳ない。だが。」
「くどいな。我が国は先に言ったとおりだ。」
「その理由はいかな根拠がおありなのだ?」
「先の大戦のきっかけはご存知か?」
「?・・どういった意味で?」
「帝国が侵攻してきた時の話だ。」
「・・・たしか、イシュガルドがエオルゼア同盟に参加を表明し、帝国が侵攻してきた時にあっさりと同盟を抜けた件、でいいでしょうか?」
「かなり毒のある意見だが、本質はそこではない。」
「ほう?」
「君は洞察力に長けているが、まだまだ若い。良くも悪くも、だ。」
「おっしゃる意味がわかりかねます。」
「言っただろう?我が国は、竜族との戦争を1000年以上もの時を費やしている。」
「それで?」
「最初の侵攻の時に、竜族もまた、侵攻を開始したのだ。」
「・・・モードゥナでの神竜と、大戦艦の激突ですね?」
「ああ。このイシュガルドは、クルザス地域を治める上で、どうしても帝国との最前線になりかねない。しかしながら、この竜族との対立は、撲滅は、悲願なのだ。」
「貴殿は、それでよろしいのですか?」
「!!お言葉がすぎますよ!総帥!!」かたわらの女性騎士が。
「よい。その件に関しては、・・俺自身は納得がいかない部分がある。だが、立場というのもある。神殿騎士団長というのは、これでも立ち位置が難しいんだ。わかるかい?アルフィノ君。」
さっきまでとは違う砕けた口調。
「はい、取り乱してしまい・・」
ぽん、と肩を叩くかたわらの女性。
「ね?」と魔女。
「さて。次の件なんだが・・」騎士団長に代わり、エレゼンの騎士が。
「ええ、オルシュファン卿。報告をお願いします。」
「実は、レブナンツトールに向けた補給物資が何者かに襲われている、という件なんだが、やはり野盗の類ではないらしい。それと・・聞こえてくるのが「氷の巫女」だ。」
「それは・・捨て置けませんね。ドマの方々は?」
「もちろん、彼らは入植者だ。一番の当事者だけに捜索には手伝ってもらっている。」
「ふむ・・」
「ホワイトブリムのドリユモンにも捜索隊を出させている。近いうちに報告があるはずだ。」
「まったく・・困ったな。アイメリク卿、この場で内々の会話、申し訳ない。」
「いや、その件に関しては、こちらでも問題にはなっている。」
「と、いうと?」
「かの「氷の巫女」という女性は、シヴァの顕現と言われているらしいな。そして、我が国教では、そのシヴァという魔女は、竜と交わったとされていて、悪しき存在なのだ。」
「・・・」
「そういうわけで、と言うと軽いように聞こえるかもしれないが、共闘の下準備ができたのではないか?」
「なるほど。」
「俺、個人的には、だ。この堅苦しいのは本意ではない。が、立場上致し方ないのでな。いかがかな?」
「願ってもない。アイメリク卿!」
「では、そのように進めておこう。」
「感謝する。」
「な?」グレイの髪を束ねた女性が、小柄な総帥の肩を叩く。
「なんですか?」
「あそこで、あの話題を切り出させたのは、正解だったろ?」
「・・・オルシュファン卿ですか・・確かに彼は・・その・・・」
「単純だからな。」
「貴女にかかれば、誰もが道化師ですよ・・」
コートの襟を正しながら、雪道を行く総帥と魔女。
「またやられたか・・・」
ユウギリは覆面の内側からため息を。
「あっちゃー。ユウギリでも見つけれなかった?」
こちらはあっけらかんとした。
「キサラギ。もう少し・・・」
「まあまあ。ちゃんと手は打ってあるから。」
「私とて、そこまで無能ではない。」
「期待してるのねん。」
「黒雪、か?」
「あの子は楽隠居してるからさ。別のトコ。」
「ほう・・。」
ドマ一族でも手練を方々に散らせ、情報を集めているユウギリ。
こういった事態には、結局のところ情報が一番の武器となる。隠密を生業としてきた一族だけに、決定打は武力ではない、と熟知している。
「ま、こっちも動いてるからさ。」キサラギはにこにこしながら去っていく。
「アイツも裏が読めないな・・」
ユウギリは次の報告を待つ。
「んで?どうなってん?」
蒼いコートを羽織って、ブロンドの髪をかきあげながら。
ユーニは、不機嫌そうに。というか、寒さのあまりか。
「ジ・アイス」なんて二つ名を頂戴しておいて、寒いから不機嫌って、とは妹のユーリ。
スノークローク大氷壁にて。
レブナンツトールの開拓民向けの物資を奪う野盗の類がこのあたりを根城にしているらしく、色々と探索をしてはいるものの、決定的な証拠が出てこない。
ただ、このあたりに逃げ込んだ、という極めて不明確な証言だけで。
「なんや、ムカつくな?」
「お姉ちゃん・・」
「あの・・・」ミコッテの白魔道士。
「リトリー、言いたいことはわかる。」
「コーラルさん・・。」
「ああ、お姉ちゃんはいつもこんなんやさかい。あんま気にせんとって。」
「聞こえてんぞ?ユーリ。」
「うぇあっ!」
そこに。
「おい!隠し通路が見つかったぞ!」と声が。
「おっしゃあ!ほんなら、いっっちょやったろかい!」
「お姉ちゃん・・・言葉遣い・・」
「うっさいわ!」
(大丈夫かしら・・?)
(まあ、わたしも人のこと言えないからね・・)
駆け出す4人。
「それは・・本当か?」
(ええ。)
イルベルドはこめかみを押さえる。
「まさかな・・」
パールからの報告に・・・
「エリヌ殿が・・」
「写本師」と言われる密偵がまことしやかに噂されていて。
各国を出し抜き、帝国に利益をもたらしている。
その存在は「いる」にも関わらず、全く足を掴ませない狡猾さから、一部からは、かの「魔女」ではないか?とも言われていたりするが、それはありえない。
なぜなら、かの大戦で彼女は帝国に対抗する手段をありとあらゆる手を使い、敗戦が濃厚なのを引っくり返す戦略と戦術を繰り広げたのだから。
そして。
「写本師が・・・エリヌ大闘将だと・・?」
不滅隊局長であり、同郷の親友ラウバーンの右腕。
イシュガルド出身の彼女は、かの国の身分制度に嫌気が差し、ウルダハに亡命をしてきた。
そこを、ラウバーンに拾われ、その才能を開花させ今の立場にあったはずだ。
(はい。今は・・部下と、一人、手練をつけています。)
「手練?」
(ええ。)
「今、どこにいるんだ?」
(カーラインカフェ、です。彼女がそこに入るところまではチェックしています。)
「そうか。動きがあれば報告しろ。」
(わかりました。)
・・・・確かに。今はグリダニアで三国の首脳会談があったはずだ。そこにラウバーンが来るのは当然として、彼女エリヌ・ロアユ女史が追随する理由がない。
しかも、そのあとに一人でカフェに?怪しすぎる。しかし・・
(報告!)
「どうした!」
(エリヌ女史をロスト!周辺を探しています!)
「(ち!)何をやっているんだ?こちらの内偵が気づかれたんだな?」
(ええ・・おそらく・・)
使えんやつだ・・
「で、その手練とやらは?」
(いえ・・・その。)
「そいつもトンズラか。全く使えない連中ばっかりだ!いいか、草の根分けても探し出せ!」
(はいっ!)
ふうん。こういう逃げ方するンだネ。
金色の瞳は、一旦「目標」を見つけると「決して」逃がさない。
黒髪の女性は、ゆっくりと後をつけていく・・・
氷壁の奥に隠された通路。
「ダメだ。イダ。」
パパリモはせっかく見つけた通路が閉ざされているのを相棒の女性に。
「なんだよ~。もう!」
酷寒の中、元気に?肌を晒している女性は地団駄を。
「これは・・別に通路があると考えた方がいいかもしれんね。」
「アイメリク卿!」
イダは突如現れたエレゼンの騎士に。
「そうですね。卿。」傍らに女性騎士。
「今、別の隊が探索中です。」とパパリモ。
「いい結果、というものがあればいいのだがな。」
黒髪の騎士は物憂げに・・
「あー、おい。ユーリ?」
「お姉ちゃん・・もう少し静かに。」
「あの?」
「この姉妹はこういう感じ・・・」
腰をかがめないと入れない、というか、四つん這いで進んで。
氷の洞窟らしき道を見つけ、当たり前だがこんな背の低いトンネルなんて、大量の物資を運び込むのには到底向かないが・・
考えてみれば、下は氷で滑りやすく、ソリでもあれば別に担がなくてもいいわけだし、ある意味取っておきかもしれない。
そう言い張って、ユーニはこの通路の探索を。
で、先頭にユーリ。その後ろに姉のユーニ。リトリー。コーラルと続く。
その途中で提案者のユーニが文句を言いだしたのだ・・まだ、数メートル程度の場所で。
「本当にこの先あるんやろな?」
「お姉ちゃん・・・」
言いだしっぺがコレである。一応、侵入前に兵士に一声かけてあるから、遭難にはならないだろうが・・。
小さいランタン一つでどこまで持つのか分からないが、とにかく行けるだけ行かないとなんともならない。
そして。
不意にランタンの灯りが小さく・・いや、周囲が広くなりすぎて、明かりが萎んでいく。
「アタリ?」
「お、うちの読み通りや。」
「え~?」
(これは・・あたり、ですかね?)(そうみたい・・ね。一応結界の準備をお願い。)(はい。)
暗闇に明かりが灯る。
「これはこれは。異教徒どもかな?」
男性の声が響く。
「はっはっは!うちは、別に神様には寛容や。」ユーニは四つん這いのまま、声を高らかに。
「お姉ちゃん!それはどうかとおもうで・・」背の高い妹はようやっと立ち上がったばかり。
・・・・この姉妹ときたら・・・本当に歴戦の傭兵なのかしら?とリトリーは思いながらも、屈んだ姿勢で「加護をお願い・・・」
精霊達に語りかけ、風と、土の加護の術式を展開。
しかし。
「ほんで?アタリやな?おっさん!」
ブロンドの少女が威勢良く。いや、そろそろ女性か。
「お姉ちゃん・・・」
「俺はそんな年じゃないっ!」といささか切羽詰まった声も・・
視界もままならないので、声の方角だけで術式を編むこともできず、とりあえずの舌戦が続く。
向こうもこちらの位置はランタンの灯りがあるので把握はしているのだろうが、迂闊に術式を使えば、逆に術式を辿って攻撃術式を叩き込まれるのが分かっているのか、
構成を編むことはしないようだ。
(ち、うちの手の内がバレてんのか?)ユーニは挑発をするのを控えるべきか、このまま突っ切るか考える。
「なんやら、姉ちゃん担いでウハウハしてんのやろ!?」
適当な挑発を続けながら、冷静に判断。
(ユーリ、撤退や。こいつら、まだ裏がある。うちらだけやったら、返り討ちもある。)
(あい、お姉ちゃん。)次いで
(おい、撤退するで。ここは場が悪すぎる。あいつらの余裕がコワイし。)ユーリが後ろの術士二人に。
(分かりました。)リトリーと、コーラルが出てきた道を引き返す。
「おい。いい加減に・・」
「いい。私に一言あるのなら、どうぞ?」
男性の声を遮る、若い女性の声。
一同が固まる。
(アタリすぎやろ?)(こんなん、今するん?)(聞くだけ聞いとこうや。)(お姉ちゃん・・)
「紹介が遅れたわね。私が氷の巫女、イゼル。僻地に追われ、仕方なく野盗の真似事をしているの。
でも、シヴァの遺志を知るにつれ、彼女の生き方に賛同し、その力の片鱗を身につけることができた。彼女の悲しみと、想いを知れば、貴女方もわかってくれると思うわ。」
銀髪のエレゼンの女性は、しなやかな肢体を見せつけるように。
「そら、すまんこっちゃ。うちら、そこまでご高説を聞けるほどアタマ良うないさけな。この場はここで堪忍やで。」
その言葉を「呪」にして、広範囲の氷結術式構成を組み上げて、展開。
なにしろ、周りは氷だらけだ。好き放題できる。
「はよ逃げ!」とユーリ。
姉の足を引きずるように引っ張って、先ほどの通路を目指す。
先ほどの術式は、ダメージというよりも、目くらまし。そう判断し、撤退に集中する。
「ヤバかったわ~」「お姉ちゃん、あの状況で挑発とか、マジやめて・・」「いえ、あの機転のよさは、さすがの姉妹です。」「わたしもこういう状況は・・」
4人は報告をし、今後の対策を練るというクリスタルブレイブと相談を。
「はーイ、お姉さン。」
黒髪に色白すぎる、白磁のような肌の女性。
エレゼンの女性は、眼鏡をかけ直し、「いかがしました?」
声をかけられ、普通の対応。
東部森林の中、キャンプを目指していた女性、エリヌは思わぬ声に、当たり障りのない応えを
「いやネ。なンでわざわざ着替えなンかしてカフェから出てきたのかサ。聞いてみタいんだ。」
人形のような女性の声は、なんだか不安を呼び起こす・・
(葬儀屋!)
「プライベートで何をしようと、勝手でしょう?」努めて平静に。
「ア。そう。」
「そして、何の用かしら?」
「僕が目の前に居ル。その理由くらいハ、分かるト思うけド。」
「ほう・・・」腰には折りたたみ式の槍、エンヴィースピア。軽装ながら、切れ味は悪くない。
そして「嫉妬」を司る銘ゆえに魅力を付加する魔力。
「ここは、お互いのために引いておかない?」
少し緩い表情で。
「悪いナ。僕は少し譲れないンだ。」
「そう・・・。」
一閃。
腰から引き抜いた槍は、一瞬で元の長さを取り戻し、その煌きを葬儀屋に叩きつける。
「遅いヨ。」
矢が。
彼女の手の甲を撃ち抜いて。
「あ・・?」
槍を手放す・・・
「まダやる?」
黒髪の人形は、機械のように問う。
「いえ・・。もう・・ダメね。」
エレゼンの女性は手の甲に突き刺さった矢を見ながら・・
「んじゃ、終わリ。」
フネラーレは、ロープを手にかけてから、矢を始末する。
「私の処遇は?」
「さァ?頭をいきなりブチ抜かレなかったンだ。イイとおもうヨ。」
「そうか・・。」
確かに、特等の暗殺者に瞬殺されなかっただけでも儲け物かも知れない。
(イルベルド殿!)パールからの報告。
厄介な「件」が二つ、メドが付いたとのこと。
一件一件が、本当に困った案件で、このことをあの少年総帥に報告することを考えると、本当に頭が痛い。
「わかった。」とだけ、パールに伝えると、総帥の居ない本部(仮)の「石の家」に赴く。
カウンターの向こうには、穏やかな顔のミコッテの女性。
「お疲れさま、ですね。」
「ああ、フ・ラミン。世界とは、こうもややこしいものなのか?」
「・・・哲学的なお話ですね。わたしには、わからないですわ。」
「そうか。そうかもな。ただ・・」
「ただ?」
「いいように動けばいい。」
「・・・・そうですね。」
「ミルクをくれ。少し熱めで。」
「はい。」
今は、少しゆっくりしたい。イルベルドは、ベッドに潜り込むにはまだ、少々の時間がかかるだろうが、このくらいの憩いはあってもいいと思う。
「はい。どうぞ。」
カップを丁寧に差し出すミコッテの女性に礼をしつつ、ミルクに口を。
「うまい。」
「ありがとうございます。」
こうして、難題は少しづつ解けていくのだと。